ダ・ヴィンチの「モナ・リザ」は、絵画を好む人はもとより、さほど好まない人にも比較的よく知られている。
初めて見た人は、何か妙だなと感じるだろう。そして、これが例の謎の微笑の効果というものか、と独り納得するかもしれない。「モナ・リザ」のモデルはフランカヴィラ公爵夫人コンスタンス・ダヴァロスらしい、といった雑学を得て、それでわかった気になったりする。
とある夏、ルーブル美術館を訪れた。
絵画部のほぼ中央にその絵がかかっている。
いつでも人だかりがしているらしいが、この時にも見物客が群がっていた。そのなかに青い目のきれいなお嬢さんがいた。こちらの立ち位置からすると、「モナ・リザ」から左に30度視線を動かせば、そのお嬢さんの貌が目に入る。わざと見比べたわけではないが、結果として見比べて・・・・愕然とした。「モナ・リザ」には眉毛がないのだ。
堀田善衞も10回ほどルーブル美術館に通ったうちの3回目か4回目にようやく気づいたとか。
なぜ眉毛がないのか不明だが、ダ・ヴィンチの描くマリアや天使はいずれも眉毛がうすい。人間につきものの眉毛が定かならぬとは、実に妙な話だが、試しに写真の「モナ・リザ」に眉毛を書きこんでみると、印象がガラリと変わってくる。
ところで、堀田善衞は奇妙な試みをおこなっている。
横山隆一は「モナ・リザ」モンタージュ説をとなえているが、これを実験したのかどうか、ともかく絵を3分割して、紙きれで上部3分の1、顔と背後の風景を覆い隠す。次いで、下部3分の1、腕と手、指の部分を覆い隠す。残りのトルソ、豊かな胸と青黒い着衣に隠された部分だけをつくづく眺めて見ると、母親とはかかるものかと、真に豊かにやすらいだ心持ちになるとか。
本書は、こうした美術漫談が満載されている。堀田善衞独特の、明晰で、しかも悠然たる語り口がじつに楽しい。
□堀田善衞『美しきものを見し人は』(新潮社、1969/のちに新潮文庫、1983/のちに朝日選書、1995)
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初めて見た人は、何か妙だなと感じるだろう。そして、これが例の謎の微笑の効果というものか、と独り納得するかもしれない。「モナ・リザ」のモデルはフランカヴィラ公爵夫人コンスタンス・ダヴァロスらしい、といった雑学を得て、それでわかった気になったりする。
とある夏、ルーブル美術館を訪れた。
絵画部のほぼ中央にその絵がかかっている。
いつでも人だかりがしているらしいが、この時にも見物客が群がっていた。そのなかに青い目のきれいなお嬢さんがいた。こちらの立ち位置からすると、「モナ・リザ」から左に30度視線を動かせば、そのお嬢さんの貌が目に入る。わざと見比べたわけではないが、結果として見比べて・・・・愕然とした。「モナ・リザ」には眉毛がないのだ。
堀田善衞も10回ほどルーブル美術館に通ったうちの3回目か4回目にようやく気づいたとか。
なぜ眉毛がないのか不明だが、ダ・ヴィンチの描くマリアや天使はいずれも眉毛がうすい。人間につきものの眉毛が定かならぬとは、実に妙な話だが、試しに写真の「モナ・リザ」に眉毛を書きこんでみると、印象がガラリと変わってくる。
ところで、堀田善衞は奇妙な試みをおこなっている。
横山隆一は「モナ・リザ」モンタージュ説をとなえているが、これを実験したのかどうか、ともかく絵を3分割して、紙きれで上部3分の1、顔と背後の風景を覆い隠す。次いで、下部3分の1、腕と手、指の部分を覆い隠す。残りのトルソ、豊かな胸と青黒い着衣に隠された部分だけをつくづく眺めて見ると、母親とはかかるものかと、真に豊かにやすらいだ心持ちになるとか。
本書は、こうした美術漫談が満載されている。堀田善衞独特の、明晰で、しかも悠然たる語り口がじつに楽しい。
□堀田善衞『美しきものを見し人は』(新潮社、1969/のちに新潮文庫、1983/のちに朝日選書、1995)
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