語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【詩歌】リルケ「別離」

2015年12月07日 | 詩歌
 どんなにか私は感じたことだろう 別離というものを
 なんとよく私がなお知っているか 暗黒で 不死身で
 残酷なものを。美しい結合を
 もう一度さし示し さしだし そして引きちぎるものを

 どんなにか私は術(すべ)なく見やったことだろう
 私を叫びながら 叫びながら 立ち去らせて
 あとに残ったものを。それはみんな女たちのようで
 しかも 小さい 白い一点にすぎなかった

 それはただ一つの合図 もはや私をよぶのではなく
 もはやほとんどその意味も分からない ただかすかに
 合図しつづけるもの--たぶんそれは一羽の郭公が
 つと飛び去ったすももの木であった


 Abschied

 Wie hab ich das gefühlt was Abschied heißt.
 Wie weiß ichs noch: ein dunkles unverwundnes
 grausames Etwas, das ein Schönverbundnes
 noch einmal zeigt und hinhält und zerreißt.

 Wie war ich ohne Wehr, dem zuzuschauen,
 das, da es mich, mich rufend, gehen ließ.
 Zurückblieb, so als wärens alle Frauen
 und dennoch klein und weiß und nichts als dies:

 Ein Winken, schon nicht mehr auf mich bezogen,
 ein leise Weiterwinkendes -, schon kaum
 erklärbar mehr: vielleicht ein Pflaumenbaum,
 von dem ein Kuckuck hastig abgeflogen.

□ライナー・マリア・リルケ(富士川英郎・訳)「別離」(『リルケ詩集』(新潮文庫、1963))
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 【参考】
【詩歌】リルケ「レダ」
【詩歌】リルケ「タナグラ人形」
【詩歌】リルケ「豹」
【詩歌】リルケ「秋の日」
【詩歌】リルケ「秋」
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【佐藤優】世界イスラム革命の無差別攻撃 ~日本でテロ(3)~

2015年12月07日 | ●佐藤優
 (承前)
 
 (10)「シャルリー・エブド」紙襲撃事件後、1月11日、フランス各地でテロに抗議するデモが行われた。全体で参加者370万人に上った。1944年のパリ解放に次ぐ規模だ。
 <ここにイスラエルのネタニヤフ首相が参加しています。これが私は非常に重要だと思うんです>
 今、ヨーロッパは長期的な経済停滞の中にある。その状況の中で、「われわれが職を奪われているのに、移民たちがわれわれとは異なる文化、イスラムの文化を放棄しないのはけしからん」という声が大衆の中に高まっている。
 デモに370万人も集まってくるのは、テロに抗議する流れとともに、「移民たちよ、出ていけ」という排外主義の要素がある。
 同時に、「ヨーロッパの経済的な成果を、一部の金持ちのユダヤ人たちが吸い取っている」という意識もある。ユダヤ人にも金持ちもいれば貧乏人もいるという、ごく当たり前のことがわからないヨーロッパ人が結構いる。それが「ユダヤ人陰謀論」の起源になったりする。
 イスラエルは通常の国家ではなく、全世界のユダヤ人を保護、支援することがイスラエルの国是だ。
 だから、「皆さんん、どうぞ帰還してください。私たちの家はオープンです」とネタニヤフ首相はいう。これがネタニヤフ首相がパリのデモに参加した意味だ。
 イスラエル移民庁長官が、今年フランスから1万人のユダヤ人がイスラエルに移住してくるという見通しを述べている。ヨーロッパにおいて、アンチセミティズム(antisemitism)/反セム主義・・・・反アラブだけではなく反ユダヤ主義も今、強まりつつある。この問題に目を向けなくてはならない。

 (11)英国の秘密情報部(MI5)は米国のFBIに当たり、国内の治安、テロ対策を受け持つ。
 他方、MI6はCIAに当たり、対外情報、外国での活動を行う。
 正確には、MI5は内閣の傘下にある保安局(SS)で、MI6は外務省の枠の中にある秘密情報局(SIS)だ。
 アンドリュー・パーカー・SS長官が、2015年1月9日、「シリアのアルカイダ系グループが西側に対する無差別攻撃を計画している」と警告した。
 この「無差別攻撃」の標的の一つが日本だ。
 パーカー長官は、世界のインテリジェンスの専門家に対してメッセージを発したのだ。「イスラム国」がヨーロッパ諸国などと戦争を始めた、と。

 (12)安倍首相の「積極的平和主義」を掲げた中東歴訪は、「イスラム国」による日本人人質事件(後藤健二さんたちの殺害)のきっかけだったかもしれないが、原因ではない。
 安倍首相の中東歴訪がなくても、仮に民主党政権が続いていても、日本はテロの対象になる。
 また、日本は中東との関係で中立ではなく、西側の一員として、米国の陣営の中に確実に加わっている。
 原因は日本のあり方そのものだ。米国との軍事同盟のみならず、国際法の遵守、国連加盟、経済大国、自由と民主主義という価値観を西側諸国と共有・・・・そのこと自体が「イスラム国」などのテロリストにとって問題視される。

 (13)「イスラム国」による日本人人質事件で、人質の身代金を払うか、払わないか、という設問は、設問自体が間違っている。
 禅の公案のウサギの角は尖っているか、丸いかを議論すること自体が間違いであるのと同じ(ウサギに角はない)。
 テロリストは何を要求しているか。「2億ドルの拠出決定はけしからん、撤回しろ」ということなら、合理的な要求で、こちらの論理ともかみ合う。
 そうではなく、2億ドル出したのだから、人質1人につき1億ドルを出せ。72時間以内に。日本国民もプレッシャーをかけろ」、それで終わっている。
 ポイントは、「身代金を本当に要求しているか」だ。交渉は、双方に交渉する意思がなければ、できない。

 (14)2億ドルは220億円ぐらいだ。高島屋や三越の紙袋に、使用済みの1万円札がいくら入るか。5,000万円ぐらい入る。220億円を詰めるには、500袋必要だ。それを72時間以内に集められるか?
 2億ドルとなると、振り込みもできない。
 金塊だと、200億円分は4トンになる。どうやって運ぶのか?
 <少し合理的に考えてみれば、「72時間以内に身代金の2億ドルを払う」ことは、そもそも物理的に不可能だと分かります>

 (15)ということは、連中の要求は身代金ではない。「ショー」をやっているんどあ。
 首を斬られた人間は全員、橙色の服を着ている。これは、第二次イラク戦争で米国がアブグレイブ刑務所やケイマン刑務所にアルカイダ系とされる人間を拘束した際に着せた囚人服だ。イスラム教徒に対してやったのと同じことをやり返す、というショーを演じているのだ。
 しかもすぐに処刑するのではなく、イスラム世界に、「われわれは時間の有余を与えたけれども、日本政府は身捨てた。われわれは命をいきなり奪うことはしない。命を救う条件も出した」という状況を見せつける。それが彼らのシナリオだ。
 <身代金の交渉で、表に話が出てきた時は、これはもうだめなんです>
 身代金を取るなら、交渉は裏でやる。
 しかも、裏でその交渉を始める際は、カネを安全に受け渡せるルートがあって始めてやれる。
 72時間というタイムリミットも、身代金という条件も、これは連中が自分たちで一方的に設定したものだ。全てはテロリスト自身の目的を達成するところから出ている。ここを見ないといけない。

 (16)この問題についてどう見ればよいか。
 既存の国際法を遵守して、国家主権、基本的な人権、市場経済といった価値観を維持している全ての国家体制に対して「イスラム国」が宣戦布告をし、本格的な「戦争」が始まったと見るべきだ。
 日本は後方支援しかしてないし、中東を直接植民地支配したことはない。しかし、あの人たちの主張はこうだ。
 「イスラム国」がめざしているのは世界イスラム革命だ。アッラーは一つ。それに対応してこの世で機能する法律、シャリーア(イスラム法)は一つ。そして国家はカリフ帝国一つ。カリフという皇帝によって支配されるべきだ。これを実現する戦いにおいては、われわれの戦いへの味方と敵のどちらかしかない。その中間はない」
 このことを可視化させたのは、「シャルリー・エブド」紙襲撃事件に始まり、日本人人質事件にも通じる、彼ら「イスラム国」の戦略だ。
 これは戦争で、「世界革命」という目的の中で、日本も打倒され得る敵になっている。そこから逃れる術はないことが可視化されたと見たほうがいい。
 打倒される対象は、米国、フランス、ヨーロッパだけでなく、ロシア、日本も含まれ、中国、イラン、北朝鮮も対象だ。既存の全ての国家制度を破壊することが「イスラム世界革命」の目的だ。
 こういう新しい世界革命の思想とどう対峙していくか。
 オバマ大統領一般教書演説(2015年1月20日)、軍事一辺倒ではなく外交を併せた包括戦略のような思想戦が重要になってくる。
 こういう問題に対して、われわれは「イスラム国」の内在的な論理を見極めた上で、どう対抗していくか。 
 意外とこれからは、哲学、思想史、宗教学などを大学で専攻した人が分析すると、面白い活動ができるかもしれない。

□佐藤優『佐藤優の「地政学リスク講座2016」 日本でテロが起きる日』(時事通信出版局、2015)
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 【参考】
【佐藤優】日本でもテロが起きる可能性 ~日本でテロ(2)~
【佐藤優】『日本でテロが起きる日』まえがきと目次 ~日本でテロ(1)~

  
コメント (1)
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【佐藤優】日本でもテロが起きる可能性 ~日本でテロ(2)~

2015年12月07日 | ●佐藤優
  
 
 (1)<日本でもテロが起きる可能性があります>
 爆弾が仕掛けられるようなテロは、日本の警察は優秀だから防げる。
 <ところが、問題は「グローバル・ジハード」です。
 これに基づいて行動を起こすテロリストは、爆弾を作るような過激派とは異なる、どちらかというと「引きこもり」のような人です。そこで、どういうテロをやるかというと、ポリバケツに10リットルぐらいガソリンを入れて、銀行やどこかの店頭でまく。それで火をつける。これで10人や15人くらいは簡単に殺傷できます。もちろん本人も死にます。こういうタイプのテロを「イスラム国」は今後、あおってくると思います。
 こうしたやり方を防御するのは難しい>

 (2)2015年6月30日、神奈川県内を走行中の「のぞみ225号」で70代の男がガソリンをかぶって焼身自殺を図り、本人と、巻き添えになった50代の女性2人が死亡、26人が重軽傷を負った。
 もし犯人が1両目にガソリンをまいて、もう少し気化させる時間をおいたら、あるいはトンネルに入るころを狙って、1両目と2両目の間のところで火をつけたら爆発していた可能性もある。状況によっては脱輪も。対向車両がこなくても、トンネル内だと大変な犠牲者がでる。冷徹に計算した上でテロリストがこういう行動を起こしたら、それを阻止する術はない。
 <ということになると、2016年の伊勢志摩サミットや、2020年の東京オリンピックに備えて「イスラム国」側が指示を出した場合、何でもあり得るということを覚悟しておかないといけないんです>

 (3)なぜこんなことになったのか。
 「グローバル・ジハード論」がカギになる。
 アルカイダの組織の幹部は、テロリストとして米国に皆殺しにされた。すると、第二世代のアルカイダが出てきて、「グローバル・ジハード論」を唱える。これが日本と関係してくる。
 <アルカイダの考え方は、世界をたった一つのイスラム帝国にするという目標を追求しています>
 考え方に共鳴する人たちに対して、インターネットサイトなどを通じてテロを示唆する。「信頼する2、3人だけで事を起こせ」「横の連絡は電話やメールでするな」「米国やヨーロッパの特に象徴的な場所でテロせよ」「カフェに籠城して、無辜の人たちを殺せ」
 そこで要求することはただ一つ。「米国やヨーロッパはイスラムの地から手を引け」
 すると世論は「こんな面倒くさいことになるんだったら、中東に行くな、イスラムに触らないほうがいい」となってきて、そこから隙が出てくれば拠点国家を造ることができる。こういう考え方だ。これを「グローバル・ジハード論」という。
 西洋社会では思想信条の自由に踏み込むことはできないから、「過激思想を持って現行政権をテロによって打倒しよう」が思想にとどまっている段階、言論活動にとどまっている段階では取り締まりできない。その裏をかいている。
 米国ボストン・マラソン事件、オーストラリアはシドニーでの立てこもり事件の裏にはこういう背景がある。イデオロギー「グローバル・ジハード論」下でなされている。

 (4)日本でもそのイデオロギーを持っている人がいる。何人も。こういう人たちが、例えば秋葉原で、「おれの人生なんか、先はない。ここにいる人をみんな巻き添えにしてやる」という絶望を抱えた人に、「こういうことをすれば天国に行けるぞ。これによって今ある問題を一挙に解決できるぞ」とささやいたら、どうなるか。
 社会には潜在的にそういう人がいる。
 極端な思想をもって極端な行動をとる人は必ずいる。こういう回路が作られると社会が不安定化する。 

 (5)日本でも「グローバル・ジハード論」を支持している人がいる。
 <世の中には常にいろんな社会問題があって、それを一挙に解決しないといけないと思っている人たちがいる。そういう人たちに「理論」を与えて火をつけることは簡単にできるわけです。これはすごく怖い>
 マスコミの人たちが、テロリズムをあおる人を使ったり、鬱屈を抱えた人の、「世の中の問題を一挙に解決したいんだ」というような思いをイスラムに仮託するよう助長するのは、すごく危ない傾向だ。こうしたことに対してきちんとした批判をしなくてはならない。

 (6)ただし、「イスラム国」からみ見れば、日本で「イスラム国」を支持している人たちは中途半端な支持者だ。「イスラム国」は本気だ。戦争をしているのだから。テロを起こせないような中途半端な支持者はいらない、ということだ。
 <どこかのタイミングで「イスラム国」は「日本でもテロをやれ」という指示をインターネットを通じて出してくるでしょう>
 目立つ人は警察がマークしている。しかし、
 <誰もが気づいていないところで、自分の心の中に闇を抱えていて、「誰か人を殺したいと思った。『イスラム国』なら、仮に人を殺しても、“大義”のためにやるんだから天国に行ける」。そいういったことを信じて行うテロは、事実上、防ぎようがない。これは非常に深刻な事態なんです>

 (7)その辺りの全体の流れ、中東情勢に関して行うコメントで信用できるのは、次の人びと。ブレがなく、中東情勢と国際政治の両方の現実を知っているので注目してよい。
   池上彰・ジャーナリスト
   山内昌之・東大名誉教授/明治大学特任教授
   宮家邦彦・キャノングローバル戦略研究所研究主幹/元外交官

 (8)いつから現在のような不穏なことになったのか。
 2015年1月7日からだ。「シャルリー・エブド」紙が襲撃されたパリ連続テロ事件からだ。 
 <「イスラム国」が本格的に「世界イスラム革命」を始めたということなんです>
 襲撃は、ムハンマドをバカにするような漫画を載せたからではない。テロを行ったのは、「イスラム国」ないし「イエメンのアルカイダ」の指示に基づく。フランス軍が今イスラムないし「イスラム国」と戦っている場所から撤退すること、これがテロリストの要求だ。
 だから、国家を象徴的に代表する警官を殺す。
 また、マスメディアを攻撃する。
 マスコミを標的にするなら、フランスの代表的通信社であるAFP通信や「ル・モンド」紙を攻撃しても良かったが、警備が厳重なので、
 <比較的有名でインパクトがあり、なおかつ警備がゆるいところ、こういう合理的な計算に基づいて「シャルリー・エブド」紙を狙ったわけです>

 (9)テロリストは、殉教を望む。殉教すれば天国に必ず行ける、と教育される。
 イスラエルの「反テロセンター」は、「テロリスト養成プログラム」をよく調べている。自爆テロリストを作るには、本人を洗脳すると童子に、組織が家族に年金を出す。その結果、テロをやることに対してすごくメリットが出てくる仕組みになっている。
 しかし、パリ連続テロ事件は自爆テロではなかった。フランスの警察力からすれば、生け捕りは可能だった。にもかかわらず、生け捕りにしなかった。公判闘争を通じて宣伝の機会を与えないため、警察や軍が殺してしまった可能性がある。

□佐藤優『佐藤優の「地政学リスク講座2016」 日本でテロが起きる日』(時事通信出版局、2015)
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【佐藤優】『日本でテロが起きる日』まえがきと目次 ~日本でテロ(1)~

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