(1)「築地は守る。豊洲は活かす」
6月20日、小池百合子・東京都知事は、基本方針を発表した。それは「中央卸売市場を築地(中央区)から豊洲(江東区)に移し、豊洲は冷凍冷蔵・加工などの機能を充実させる。築地は5年後をめどに築地ブランドを活かした再開発をし、市場機能を持たせ、築地に戻りたい業者は支援もする」というもの。
(2)反応。
(a)中央卸売市場を豊洲に移すとした点などを評価。ただ、「市場本来の機能が2ヵ所同時並行で行えるとは到底思えない」【伊藤裕康・東京都水産物卸売業者協会会長】
(b)都議選で敵を作りたくないんだろうが、市場人は魚のある所に行くしかない。築地と豊洲の両方を使うなんてありえない。【酒井衛(まもる)・仲卸業者】
(c)農林水産省の卸売市場整備基本方針(2016年)に、産直などが増えて卸売市場経由率が低下していることから中央卸売市場の新設は行わないと明記されている。だから、国が認可する中央卸売市場を豊洲に移したら、築地は中央卸売市場にはできないので、都道府県が許可する地方卸売市場にするのかもしれないが、冷凍庫などに莫大な費用をかけて豊洲に移転した卸売業者が5年後に築地戻るとは考えられない。仲卸の一部は戻るかもしれないが、それはもはや卸売市場ではなく、単なる「売場」で、市場機能はない。【卸売市場に詳しい浅沼進・元東京海洋大学大学院教授】
(3)「市場機能」とは、卸が集めた魚や野菜などを仲卸が経験を活かして評価(目利き)をし、セリによって値段を決める機能だ。
この点は、小池知事も6月20日の会見で「築地ブランドの核をなすのが仲卸の方々の目利き力、まさにブランドの宝の部分」との認識を示した。
だが、いったん豊洲に移ったら5年後に戻っても築地ブランドは滅びる。「目利き」能力は、豊洲市場への移転に伴う仲卸業者の縮小・再編により失われるし、豊洲市場の本質は大手スーパーなどのための物流センターだから、仲卸の目利きの力は不要となる。【食料流通学が専門の三国英実・広島大学名誉教授】
設備投資や引っ越し費用などのために借金して豊洲に行っても「毒の埋まっている豊洲の品物は買わないよ」と客がつかなきゃ潰れる店が続出する。【和知幹夫・仲卸業者】
仲卸の経営は厳しい。築地市場水産仲卸の36%が経常赤字だ(2015年)。
築地から豊洲、5年後に築地と2回も引っ越しする体力のある仲卸は少ない。築地で営業しながら再整備すべきだ。【中澤誠・東京中央市場労働組合執行委員長】
(4)小池知事が設置した「市場問題プロジェクトチーム」(座長:小島敏郎・青山学院大学教授)も、「豊洲移転の場合は都の市場会計全体で年100億~150億円の赤字。他方、築地再整備は60年後では営業損益は若干の赤字だが、当年度の損益は24億~26億円の黒字」と試算、築地再整備案を「経済的に健全」としているのだ。
(5)6月11日、専門家会議(座長:平田健正・放送大学和歌山学習センター所長)は、豊洲の土壌汚染について、批判や抗議が続く中、地下空間の床をコンクリートで覆うなどの追加対策を強行決定した。
これに対して、同14日、畑明郎・元日本環境学会会長らは、「汚染実態の究明を放棄した無謀な対策」などとするコメントを発表した。
同17日、小池知事は築地市場を訪ね、豊洲市場の地下水を環境水準以下にするなどの「無害化」の約束を守れなかった点を詫びた。
だが、今後は、専門家会議の示した追加対策を実施した上で豊洲移転と築地再整備をするとしている。
小池知事は、共著の中で築地再整備が「一番妥当」と書いている。都議選のために知事は持論を曲げ、築地だけでなく豊洲も無理やり維持する方向に舵を切った。
この決断で、「築地は滅びる。豊洲も滅びる」ことになりかねない。
□永尾俊彦(ルポライター)「築地は滅びる。豊洲も滅びる 都議選のために持論を曲げた小池知事の決断で」(「週刊金曜日」2017年6月30日号)
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【参考】
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【片山善博】【豊洲】市場問題 ~都議会のなすべきこと~」
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