語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【後藤謙次】内閣改造は「専守防衛」でも活路が見えない「守りの安倍」

2017年07月18日 | 社会
 (1)7月9日午前(日本時間同日夕方)、安倍晋三・首相は、訪問先(スウェーデン国ストックホルム市)にて、記者団に内閣改造を明言した。もともと、自民党内に8月3日改造説が流れていたが、首相自身が直接口にするのは極めて異例のこと。
 背景に、「安倍1強」の証しでもあった高い内閣支持率が急落したことに対する強い危機感があった。記者団とのやりとりでも、「内閣支持率が大きく下落した」との指摘を受けるなど支持率急落が焦点になった。
 安倍政権にベッタリの「読売新聞」ですら、翌10日付朝刊の1面トップ記事で大きく伝えた。「内閣支持続落36% 13ポイント減 不支持最高52%」
 「朝日新聞」も同じく「安倍内閣支持 最低33%」と報じた。
 東京都議会議員選挙(7月2日)における自民党大惨敗の結果、既に“地殻変動”の予兆が見えていたが、「ここまで下落するとは」(自民党幹部)。

 (2)しかも、都議選後も安倍側近の稲田朋美・防衛相が失点を重ねた。九州北部を襲った豪雨災害のさなかに「政務」を理由に防衛省外に出ていたのだ。温厚な中谷元・前防衛相が手厳しく批判した。「信じられない。(予定を)キャンセルすべきだった」
 これまでも稲田は失言や問題発言を繰り返していた。安倍がかばい続け、職にとどまってきたが、そのことが「身内を重視し過ぎる」との安倍批判を加速させた。異例の改造予告はその批判回避の一環とみてよい。
 稲田の外にも、改正組織犯罪処罰法の成立過程で変てこな答弁で不信を買った金田勝年・法相ら“問題閣僚”を一掃しなければならない立場にある、安倍は。

 (3)政権の屋台骨を支える菅義偉・官房長官も、「ここは一度状況を落ち着かせる必要がある」と周辺に語る。
 しかし、実際に改造で安倍を取り巻く空気が変わり、局面転換ができるかどうかについては不透明感が漂う。劣勢挽回の切り札が見つからないからだ。安倍がストックホルムで記者団に示した改造方針からも、手詰まり感が浮かび上がる。
 「結果を出していくには安定感は極めて重要です。そうした意味では骨格はコロコロと変えるべきではないと考えています」
 この発言のキーワードは「安定感」と「骨格を変えない」の二つだ。これを具体的な人事構想に適用すると、麻生太郎・副総理兼財務相、菅、党側では高村正彦・副総裁、二階俊博・幹事長はいずれも留任させる、ということだ。
 つまり、徹底した「専守防衛人事」(党幹部)。「攻め」を捨て、守りに徹して、これ以上の失点をいかに防ぐか、その一点に尽きる。

 (4)裏返せば、安倍は今回の改造によって誕生する新内閣での衆院解散・総選挙は見送る意向を固めた、とみていい。衆院議員の任期切れ(2018年12月)をにらみながら、あらためて内閣改造と党役員人事を行うという「2段階方式」で次期選挙に臨むことになる。このため取り沙汰される小泉進次郎の入閣の可能性もほぼ消えた。
 だが、こうした目玉人事なき布陣では一新感が出ない、というジレンマに陥る。代わり映えのしない顔触れが並べば、支持率低下をさらに加速させる可能性が出てくる。

 (5)いくら解散は遠のいたとはいえ、選挙の準備を怠るわけにはいかない。
 そこで重要なのは、選挙対策委員長を誰にするかだ。とりわけ次回の衆院選挙は青森、岩手、奈良、三重、熊本、鹿児島の6県で定数が1減になる。その候補者調整が難航するのは必至。安倍の意向を酌みながら二階と協議できる人材となると、相当ハードルは高い。

 (6)守りを固めながら次の戦の準備を進める。さらに内閣支持率の急落を止める。そんな神業的なことができるのだろうか。
 第2次安倍内閣は2012年12月の発足以来、過去3回、支持率の低下を経験している。特定秘密保護法制定(13年)、集団的自衛権行使の一部容認(14年)、安保関連法制定(15年)。いずれもさほど時間を置かずに支持率を回復させた。このため政府高官もこう語る。「安保法制のときに38%まで落ちたがその後回復している。今回もいずれ戻ってくる」
 しかし、今回は明らかに様相を異にする。過去3回はいずれも政策判断に対する反対の意思表示だったが、今回は政策とは関係のない安倍自身の政治姿勢に向けられた“イエローカード”だ。大阪の学校法人森友学園をめぐる国有地払い下げ問題に端を発した「安倍不信」は、その後の岡山の学校法人加計学園の獣医学部新設問題に連なり、火種がなくなるどころか火の手は収まる気配がない。
 むしろ、とんでもない暴言が「週刊新潮」によって暴露された衆院議員の豊田真由子ら「安倍チルドレン」の不祥事、失態が後を絶たない。そしてとどめを刺したのが都議選での最初で最後の街頭演説で安倍が放った一言だ。
 「こんな人たちに負けるわけにはいかない」

 (7)安倍は欧州歴訪から帰国した翌日の12日、被災地の福岡、大分両県を視察した。
 しかし、歴訪中に組まれた加計学園問題をめぐる衆参両院の閉会中審査が逆に「安倍隠し」を印象付ける結果を招いた。
 マスコミ各社の世論調査ではおおむね「支持率35%ライン」にある。20%台に落ち込むと復元力を失った船と同じで、元に戻ることは難しくなるというのが冷厳な経験則だ。
 「守りの安倍」に活路は見えてこない。

□後藤謙次「内閣改造は「専守防衛」でも活路が見えない「守りの安倍」 ~永田町ライブ!No.348」(「週刊ダイヤモンド」2017年7月22日号)
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 【参考】
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【後藤謙次】安倍首相の改憲案の前倒し発言 ~「年内解散」に向けた思惑~
【後藤謙次】支持率急落で首相が「反省の弁」 ~それでも止まらぬ内部文書流出~
【後藤謙次】憲法改正発議までの長い道のりが賭のリスクに ~天皇退位・総裁選・衆院選~ 
【後藤謙次】【加計学園疑惑】沈黙していた政官双方から異論 ~加計学園問題が招く想定外反応~
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