(1)6月20日、小池都知事は中央卸売場の豊洲移転と築地跡地の再開発計画を発表、築地跡地には卸売市場機能を持たせた食のテーマパークを建設し「築地は守る、豊洲を活かす」と胸を張った。
「子どもや孫たちへの将来の責任、後世のツケに真正面から応えられるような計画」という。
しかし、一番肝心な費用と財源については記者会見で、
「豊洲市場の整備でできた借金はどうやって返すのか。追加でかかる税金はいくらくらいなのか」
と、問われると、
「税金を新たに投入することのないような方策を検討させた(検討を指示した)」
と答えた。さらに記者が、
「税金は投入されないのか」
と追求すると、
「ベストなワイズ・スペンディング(買い支出)でいく」
と、お得意のカタカナ用語で煙に巻いた。
税金を投入することなく、築地を「浜離宮と一体化した再開発で市場機能+食のワンダーランド」に、豊洲を「市場機能+最先端の物流施設」に生まれ変わらせ、6,000億円以上の借金を完済するどころか、毎年黒字化することで、豊洲が老朽化した時の更新費用さえ賄うという。築地は「世界中から人が集まる大観光地」になり、豊洲は「ITを活用するユビタキス社会の総合物流拠点+中央卸売市場」になるという。
まるで夢のような話だ。
(2)現実はしかし、そんなに甘くはない。
築地市場の水産物は、1990(平成2)年と2016(平成28)年を比較すると、取扱量は74.7万トンから41.0万トンに54.9%へと減少。取り扱い金額は、7,550億円から4,292億円に56.8%へと減少。【東京都の資料】
少子高齢化や食肉需要の増加で、水産物離れが顕著な時代に、6,000億円以上かけて新しい卸売市場を建設すること自体、無謀だったのだ。
それに加え、築地に卸売市場を再度作ることは、相乗効果よりも共倒れの危険性の方がはるかに高い。
(3)豊洲を総合物流センターにするというので、「アマゾン倉庫説」がまことしやかに流布されているが、東日本大震災で、物流センターを集約することのデメリットが浮き彫りになっている。物流センターだけでなく、今の企業の最大の課題は、「いかに効率的なリスク分散を図るか」だ。
いくら耐震性の物流センターを作っても、首都圏に大きな直下地震が起きれば、海岸に最も近く液状化が懸念される豊洲の物流センターが機能するだろうか。
(4)具体案は、豊洲と築地の検討チームに委ねるというが、築地に市場機能を持たせることや、豊洲を物流センターにするという条件は外せないだろう。最終的には「税金は投入しないように指示したが、検討チームが『投入するしか方法はない』と結論づけたので、仕方なく投入することにした」となり、築地にも豊洲にも、今まで以上に過剰な箱物が作られることになる。
築地の再開発や豊洲の安全対策、物流の強化整備など、明らかになっていない費用は莫大なものになるだろう。しかも、築地が再開発されて稼働するには、早くても5年かかる。それまで豊洲は、毎年100億円以上とも言われる赤字を垂れ流し続けることになる。
5年後に築地も豊洲も黒字化が達成される根拠はない。結局、次世代への借金が増大し、「二兎追う者は一兎も得ず」のことわざを見る羽目に陥る。具体的なビジョンが何もなく、工程表も、費用と財源も一切語られていない夢物語の計画だ。
□垣田達哉(消費者問題研究所代表)「築地を食のテーマパークに!? 水産物離れの時代、豊洲は無用の長物では!?」(「週刊金曜日」2017年7月7日号)
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【豊洲】と築地の両立案は頓挫する ~策士策に溺れた小池都知事~」
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【片山善博】【豊洲】市場問題 ~都議会のなすべきこと~」
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【豊洲】市場では「安全宣言」を出せない ~土壌汚染対策法~」
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