語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【本】仮想通貨が通用する理屈 ~『経済ってそういうことだったのか会議』~

2017年11月02日 | 批評・思想
★佐藤雅彦、竹中平蔵『経済ってそういうことだったのか会議』(日本経済新聞社、2000/のちに文庫、2002)

 最近、「ビットコインには価値はあるのか?」とよく聞かれる。そのたびに丁寧に答えるのだが、相手によってはなかなか仮想通貨というものが理解し難いもののようだ。そんな時は私に聞くよりも、この本を読んだ方がよい。
 広告クリエイターの佐藤雅彦さんが経済の初心者役になって経済学者の竹中平蔵先生にさまざまな質問をするという形式で、「経済とは何か」を解説してくれる。冒頭では、佐藤さんの小学校時代に牛乳瓶のふたが仮想通貨として流通していたというエピソードから、竹中先生が通貨の本質を解き明かす。他にも税金、投資と消費、労働と失業、国際経済などの話題を身近な例を元にひもといてくれる。「グローバル経済」を原点に立ち返って理解するのに最適な一冊だ。

□鈴木貴博(百年コンサルティング代表)「仮想通貨が通用する理屈 ~名著未読・再読~」(「週刊ダイヤモンド」2017年10月21日号)
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 【参考】
【本】進化認知学の世界への招待 ~『動物の賢さがわかるほど人間は賢いのか』『動物になって生きてみた』~
【本】「戦争がつくっった現代の食卓」 ~ネイティック研究所~
【本】IT革命、コミュニケーションの変容、家族の繋がりが希薄化 ~『「サル化」する人間社会』~
【本】生命はいかに「調節」されるかを豊富な事例で解き明かす ~『セレンゲティ・ルール』~
【本】メディアの問題点をえぐる ~『勝負の分かれ目 メディアの生き残りに賭けた男たちの物語』~
【本】テイラー・J・マッツェオ『歴史の証人 ホテル・リッツ』
【本】中国から見た邪馬台国とは
【本】核兵器は世界を平和にするか ~著名学者2人がガチンコ対決~
【本】『戦争がつくった現代の食卓 軍と加工食品の知られざる関係』
【本】梅原猛『梅原猛の授業 仏教』
【本】東芝が危機に陥った原因は「サラリーマン全体主義」 ~『東芝 原子力敗戦』~
【本】バブル崩壊後の経済を総括 ~『日本の「失われた20年」』~
【本】20世紀英国は実は軍事色が濃厚 ~通念を覆す『戦争国家イギリス』
【本】時代による変化、方言など ~『オノマトペの謎 ピカチュウからモフモフまで』~
【本】冷笑的な気分に喝を入れる警告と啓発に満ちた本 ~『日本中枢の狂謀』~
【本】物質至上主義批判の古典 ~『スモール イズ ビューティフル』~
【本】日本近現代史を学び直す ~『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』~
【本】精神の自由掲げた9人の輝き ~『暗い時代の人々』~
【本】遊牧民は「野蛮」ではなかった ~俗説を覆すユーラシアの通史~
【本】いつも同じ、ブレないのだ ~『ブラタモリ』(1~8)~
【本】分裂する米国を論じた労作 ~『階級 「断絶」社会 アメリカ』~
【本】否応なきグローバル化、つながることの有用性 ~「接続性」の地政学~
【本】読書の効用、ゆっくり丹念な ~より速く成果を出すメソッド~
【本】国谷裕子『キャスターという仕事』


【佐藤優】宗教改革の物語 ~近代、民族、国家の起源~

2017年11月02日 | ●佐藤優
★佐藤優『宗教改革の物語 近代、民族、国家の起源』(KADOKAWA、2014 3,564円)

 今からちょうど500年前の10月31日、マルティン・ルターによって「宗教改革」の幕が切って落とされた。当時ローマ・カトリック教会が売り出していた「贖宥状(しょくゆうじょう)」に対してルターは、人間は本当にそんなもので救われるのか、と疑問を投げかけたのだ。それは彼自身の意図をこえて大きな騒動に発展し、結果として「プロテスタント」が生まれ、欧州の政治的変動につながっていった。宗教改革の神学者たちは、人々の労働観にも影響を及ぼし、自然科学や社会科学などの学問、そして芸術にも刺激を与えたのである。
 日本でキリスト教徒は、総人口の1%しかいない。だが、99%を占める非キリスト教徒も、冷徹に宗教改革という出来事を振り返れば、単なる世界史の復習にとどまらず、「宗教とは何か」「人間とは何か」という根本的な問いに向き合うことができるだろう。例えば、次のような三つの角度がありうる。
(中略)
 二つ目は、キリスト教の内在的な論理を知るためのケーススタディーとして、宗教改革に目を向けてみることである。宗教の論理は、現に歴史を動かす無視できない力である。佐藤優の『宗教改革の物語』は、そのことを理解するのにおすすめしたい一冊だ。本書が扱うのは、ルターより100年前のチェコの神学者ヤン・フスである。よって厳密には500周年の範疇(はんちゅう)からは外れるが、宗教改革の先駆的議論を例に、読者は神学特有の論理と思考を疑似体験することができるだろう。ただし、本書は単に神学の解説を目的としたものではない。一見やや強面(こわもて)の佐藤だが、本書は彼が真摯(しんし)に「愛」について触れた稀有(けう)なエッセーでもある。佐藤によれば、フスの物語を通して確認できるのは「いかなる時代にも信仰、希望、愛が消え去ることはないという真実」なのである。
(中略)
 最近、グローバル化の時代だから宗教リテラシーが必要だ、という声も耳にするが、重要なのは、単に各宗教に関する雑学を身につけることではなく、宇都宮のように、「人間」「社会」そのものについて実直に探求していくことではなかろうか。
 この500周年の節目は、宗教の不可解さと、人間社会の矛盾と不条理、そしてそれらを克服する希望と愛について、再考する機会にしたい。

□石川明人(桃山学院大学准教授/宗教学)「(ひもとく)宗教改革500周年 不条理を克服する希望と愛」(朝日新聞 2017年10月29日)
(ひもとく)宗教改革500周年 不条理を克服する希望と愛
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 【参考】
【佐藤優】イエス・キリストは「神の子」か ~ キリスト教の限界(1)~
【佐藤優】ユニテリアンとは何か ~ キリスト教の限界(2)~
【佐藤優】ハーバード大学にユニテリアンが多い理由 ~ キリスト教の限界(3)~
【佐藤優】サクラメントとは何か ~ キリスト教の限界(4)~
【佐藤優】何がキリスト教信仰を守るのか ~ キリスト教の限界(5)~
【佐藤優】第一次世界大戦という衝撃 ~ キリスト教の限界(6)~
【佐藤優】なぜバルトはナチズムに勝ったのか ~ キリスト教の限界(7)~
【佐藤優】皇国史観はバルト神学がモデル? ~ キリスト教の限界(8)~
【佐藤優】米国が選ぶのは実証主義か霊感説か ~ キリスト教の限界(9)~
【佐藤優】無関心の共存は可能か ~ キリスト教の限界(10)~

【佐藤優】改革派の教皇、保守派の教皇 ~バチカン世界戦略(1)~
【佐藤優】教皇の若返りが必要な理由 ~バチカン世界戦略(2)~
【佐藤優】対中国、対イスラーム過激派の論理 ~バチカン世界戦略(3)~
【佐藤優】法王と教皇、その不可謬性 ~バチカン世界戦略(4)~
【佐藤優】生前退位の理由(その2) ~バチカン世界戦略(5)~
【佐藤優】ハーバーマスとの討論、過激派封じ込め ~バチカン世界戦略(6)~
【佐藤優】イスラームや中国との「対話」路線 ~バチカン世界戦略(7)~

【佐藤優】資本主義は偶然生まれたのか ~一神教と資本主義(1)~
【佐藤優】なぜ人間の論理は発展したのか ~一神教と資本主義(2)~
【佐藤優】最後の審判を待つ人の心境はビジネスに近い ~一神教と資本主義(3)~
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【佐藤優】自然は神がつくった秩序か ~一神教と資本主義(6)~
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【佐藤優】市場経済が成り立つ条件 ~一神教と資本主義(8)~
【佐藤優】神の「視えざる手」とは何か ~一神教と資本主義(9)~
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【佐藤優】来世より現世を生きる教えが強い絆を生む ~欧州南北問題~
【佐藤優】世界イスラム帝国へ、ネット時代の世界革命 ~イスラム国の行方~
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