語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【本】万華鏡のように迫る名著 ~『新装版 資本主義・社会主義・民主主義』~

2017年11月17日 | 批評・思想
★シュムペーター(中山伊知郎・訳)『新装版 資本主義・社会主義・民主主義』(東洋経済新報社、1995)

 資本主義は成功するが故に崩壊し、社会主義に移行する──という主張も注意深く読み取らなくてはならない。本書にはアイロニーがたっぷりと効いていて、字面をそのままの意味通りに取るのは危険だ。人を驚かすような重厚かつ新奇な分析の底に現代文明への深い諦念があることが、その背景だろう。
 中でも、民主主義における政党とは、原理・原則を推進する集団ではなく権力獲得を目指して競争する企業のようなもの、と喝破したことは、今こそ真実味を持って受け止められよう。読み手のその時々の関心により、古典は万華鏡のように異なる姿を見せる。まさに、味読・再読にふさわしい名著といえよう。

□若田部昌澄(早稲田大学政治経済学術院教授)「万華鏡のように迫る名著 ~名著未読・再読~」(「週刊ダイヤモンド」2017年11月18日号)
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

 【参考】
『【本】『世界をまどわせた地図』
【本】率直過ぎる米情報将校の直言 ~『戦場 -元国家安全保障担当補佐官による告発』~

【佐藤優】宗教改革の物語 ~近代、民族、国家の起源~」」
【本】舌鋒鋭く世の中の本質に迫る/地球規模で読まれた洞察の書 ~『反脆弱性』~
【本】【神戸】「自己満足」による過剰開発のツケ ~『神戸百年の大計と未来』~
【本】英国は“対岸の火事”にあらず ~新自由主義による悲惨な末路~
【本】人材開発でもPDCAを回す ~戦略的に人事を考える必読書~
【本】仮想通貨が通用する理屈 ~『経済ってそういうことだったのか会議』~
【本】進化認知学の世界への招待 ~『動物の賢さがわかるほど人間は賢いのか』『動物になって生きてみた』~
【本】「戦争がつくっった現代の食卓」 ~ネイティック研究所~
【本】IT革命、コミュニケーションの変容、家族の繋がりが希薄化 ~『「サル化」する人間社会』~
【本】生命はいかに「調節」されるかを豊富な事例で解き明かす ~『セレンゲティ・ルール』~
【本】メディアの問題点をえぐる ~『勝負の分かれ目 メディアの生き残りに賭けた男たちの物語』~
【本】テイラー・J・マッツェオ『歴史の証人 ホテル・リッツ』
【本】中国から見た邪馬台国とは
【本】核兵器は世界を平和にするか ~著名学者2人がガチンコ対決~
【本】『戦争がつくった現代の食卓 軍と加工食品の知られざる関係』
【本】梅原猛『梅原猛の授業 仏教』
【本】東芝が危機に陥った原因は「サラリーマン全体主義」 ~『東芝 原子力敗戦』~
【本】バブル崩壊後の経済を総括 ~『日本の「失われた20年」』~
【本】20世紀英国は実は軍事色が濃厚 ~通念を覆す『戦争国家イギリス』
【本】時代による変化、方言など ~『オノマトペの謎 ピカチュウからモフモフまで』~
【本】冷笑的な気分に喝を入れる警告と啓発に満ちた本 ~『日本中枢の狂謀』~
【本】物質至上主義批判の古典 ~『スモール イズ ビューティフル』~
【本】日本近現代史を学び直す ~『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』~
【本】精神の自由掲げた9人の輝き ~『暗い時代の人々』~
【本】遊牧民は「野蛮」ではなかった ~俗説を覆すユーラシアの通史~
【本】いつも同じ、ブレないのだ ~『ブラタモリ』(1~8)~
【本】分裂する米国を論じた労作 ~『階級 「断絶」社会 アメリカ』~
【本】否応なきグローバル化、つながることの有用性 ~「接続性」の地政学~
【本】読書の効用、ゆっくり丹念な ~より速く成果を出すメソッド~
【本】国谷裕子『キャスターという仕事』

【アジア】タイとマレーシアが外国人労働者の人権対策を進める理由

2017年11月17日 | 社会
 (1)このところタイとマレーシアで、外国人労働者に関連する規制が強化されている。
 タイ・・・・2017年6月23日、外国人を不法に就労させた場合、雇用主に40万~80万バーツ(約130万~260万円)の罰金を科す規制を施行した。
 しかし、多数の外国人が急激に出国するなど混乱が見られたことから、政府は施行を18年まで先送りし、7月24日から8月7日まで不法就労者の合法化登録を臨時で受け付けた。
 不法就労者68万9,091人の合法化を審議した結果、1万8,445人が不可となった。
 不法就労者は200万人に達していたとの見方もあり、年末に問題が再燃する可能性がある。

 (2)マレーシア・・・・三つの措置が導入された。
  (a)17年2月から、不法滞在外国人にE-Kadと呼ばれる一時的滞在許可証の発行を開始し、その申し込みを6月末で締め切った。E-Kadの有効期限は18年2月15日で、その間に合法的な労働者として正規の手続きを取るよう政府は求めている。なお、有資格者が60万人と推定されるのに対し、約16万人が申し込むにとどまった。締め切りを受けて、政府は不法就労の取り締まりを強化し、7月上旬までに外国人2,000人以上と44事業主を逮捕した。
  (b)10月2日から、外国人労働者の健康診断の際に、入国時に採取した指紋と照合することとした。身代わり受診をできなくして、健康基準を満たさない不法就労者を取り締まる。
  (c)18年から、外国人労働者の福利厚生について企業に責任を持たせるため、年次雇用税について労働者本人負担から企業負担に移行する。さらに19年には税額を引き上げる予定だという。

 (3)両国が規制強化に動いているのは、外国人労働者の劣悪な待遇が問題となったからだ。米国の人身取引報告書の14年版で、両国は4段階のうち最低ランクに格下げとなり、米国との通商協定を締結できなくなった。
 マレーシアは15年と17年に計2段階、タイも16年に1段階引き上げられ、最低ランクから脱した。
 それでも、両国で奴隷状態にある人の人口に占める比率は比較的高く、さらなる改善が求められる状況だ。

 (4)17年4月に今度は欧州議会が、20年以降欧州に輸入されるパームオイルは、生産過程で環境保護や人権保護の基準に合致したものに限ると決議した。
 マレーシアはパームオイルの主要輸出国であり、欧州向けにも人権侵害状態の改善を示す必要に迫られている。

 (5)外国人労働者に関する規制強化で、両国では労働者不足が顕在化している。このため、
  (a)タイ・・・・これまで肉体労働者と家政婦に限ってきた合法外国人労働者の受け入れを、他の職種にも広げることを検討し始めた。
  (b)マレーシア・・・・これまで業種別に外国人雇用比率が制限されていたが、輸出品の生産ラインについては外国人100%も認めることを検討している。
 それでも、両国の労働集約産業に、一定の打撃が及ぶことは避けられまい。
 また、両国で就労する外国人労働者からの本国への送金も下押し圧力を受ける。このため、カンボジアやミャンマーなど、労働者の主要な送り手国の経済への悪影響も生じる可能性があろう。

□稲垣博史(みずほ総合研究所アジア調査部主任研究員)「タイとマレーシアが外国人労働者の人権対策を進める理由」(「週刊ダイヤモンド」2017年11月18日号)
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン
 
 【参考】
【欧州】もう一つの東西分裂 ~ LGBTへの偏見が深く残る東欧諸国~
【中国】新任常務委員お披露目 ~ネクタイの色が示す習総書記の権力基盤~
【米国】トランプ大統領が描く従来と違うレッドライン ~北朝鮮は世界の問題に~
【欧州】英航空・防衛大手企業が受注苦戦で大リストラ ~英国のEU離脱も影響か~
【アジア】度重なる不祥事で日本企業のイメージ失墜 ~アジア商戦にも逆風~
【中国】で日本の「どら焼き」や「カステラ」が売れない理由 ~風土で違う味覚~
【中国】ユニコーンが55社、加速する起業ブーム ~課題は人材確保~
【欧州】ドイツ議会選挙で極右政党が大躍進 ~危機感強める経済界~
【米国】サンオノフレ原発の核廃棄物移転を訴えた地域住民が“勝った”理由
【欧州】カタルーニャ独立は正しい選択なのか? ~住民投票で9割支持~
【米国】トランプ大統領のころころ変わる政策に振り回される不法移民
【中国】信用情報システム「芝麻信用」とは? ~個人の信用力を点数化~
【米国】北朝鮮問題の深刻化で浮上する開戦シナリオ ~1937年不況の再来?~
【欧州】英国のEU離脱選択で中東欧からの移民が激減 ~人手不足で農業は窮地に~
【欧州】ドイツ自動車業界を襲うディーゼル締め出し判決 ~EV普及の契機となるか~
【欧州】身近で頻発するテロで苦境に陥る欧州の観光業 ~ISが戦術を転換~
【中国】住宅を入手しやすい「新一線都市」が人気 ~地方の生活水準が向上~
【欧州】総工費8兆円超の英高速鉄道プロジェクト ~高まる期待と漂う懸念~
【欧州】スペイン経済は大打撃、欧州金融危機の再来か ~カタルーニャ独立~
【欧州】のゴミ箱扱いに憤慨する東欧諸国 ~深まるEUの東西分裂~
【英国】の地政学的優位性がBrexitで喪失 ~領内で高まる独立気運~
【欧州】北欧も難民入国規制強化へ ~形骸化するシェンゲン協定~
【スウェーデン】文化多元主義の限界 ~移民問題~