語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【南雲つぐみ】子どもの受動喫煙

2017年11月06日 | 医療・保健・福祉・介護
 受動喫煙の害を調べる方法の一つが「尿中ニコチン測定」だ。たばこの煙により肺で吸収されたニコチンは血中に入り、肝臓でその90%がコチニンという物質に変換される。コチニンはニコチンよりも体内で分解されにくく、尿中ニコチン測定は有効となる。
 埼玉県熊谷市が、小学校4年生を対象に毎年行っている受動喫煙検診の2010年度の結果では、約3割の児童の尿中コチニン濃度が、日本禁煙学会が受動喫煙と定義する5ng/mlを上回る数値となった。両親共に喫煙者だけでなく、どちらかの親のみが喫煙者の場合でも、児童の尿中コチニン濃度は高かった。(井埜利博・群馬パース大学保健科学部、医療法人いのクリニック調べ)。また、虫歯や歯周病、身長が低い、よく咳が出る児童も尿中コチニンとの関連性がみられた。
 9月は、厚生労働省の「健康増進普及月間」。「1に運動 2に食事 しっかり禁煙 最後にクスリ」の標語で、健康寿命を伸ばすための啓発運動を行っている。受動喫煙を減らすことは、子どもが健康で長生きすることにもつながるのだ。

□南雲つぐみ(医学ライター)「子どもの受動喫煙 ~歳々元気~」(「日本海新聞」 2017年9月3日)を引用
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【本】舌鋒鋭く世の中の本質に迫る/地球規模で読まれた洞察の書 ~『反脆弱性』~

2017年11月06日 | 批評・思想
★ナシーム・ニコラス・タレブ(望月衛・監修/千葉敏生・訳)『反脆弱性--不確実な世界を生き延びる唯一の考え方』(上下)(ダイヤモンド社、各2,000円)

 (1)4年以上の年月を経て、『ブラック・スワン』(上・下)で有名なタレブの新作が、ようやく翻訳・出版された。2冊で総ページ数は800ページを超えるが、一度読み始めれば時間がたつのを忘れさせる。
 書名の「反脆弱性」とは、著者による造語で、脆いの反対を意味するが、耐久力や頑健さを超越するものである。衝撃を糧にし、ランダム性や不確実性を好むという概念である。さらには、潜在的な損失より潜在的な利得の方が大きい状況を指し、投資でいうバーベル戦略、つまり極端な安全策と極端なリスクテイクの二つを組み合わせる“二重戦略”に相当する。

 (2)小さな失敗を促し、致命的な失敗を回避する戦略ともいえる。タレブは、この反脆弱性を投資だけでなく、社会、経済、さらに人生にも適用することを勧める。
 自分は状況を理解していると思い込んで、脆さを生み出す人間、例えば米国の元連邦準備制度理事会議長のアラン・グリーンスパンを「フラジリスタ」と称して徹底的に批判する。また、他者から反脆弱性を奪い、潜在的な利得のみを得る人、例えば間違った助言をし、他人を傷つけても罰を受けない人も非難の対象とする。

 (3)矛先は、ロバート・ルービン、アラン・ブラインダー、ジョセフ・スティグリッツ、ポール・クルーグマン、トーマス・フリードマンなどの大企業経営者、政治家、経済学者、ジャーナリストにも向けられる。後半は、こうしたエージェンシー問題、すなわち「身銭を切らない問題」も論じられる。
 タレブには『ブラック・スワンの箴言』という著書もあるくらいだが、今回も箴言にあふれている。曰く、「唯一の解決策は、誰かが破綻してもほかの人が巻き添えを食わないシステムを構築することだ」「現代社会が進歩するためには、失敗した起業家に戦没兵士と同等の敬意を払うべきだ」「先延ばしは人間の自然な意志がやる気の低下という形で発した声なのだ」「GDPを成長させるのは、未来の世代に借金を先送りすれば簡単にできる。そして、その借金を背負わされれば、未来の経済は破綻するだろう」「社会政策では弱者を守り、強者にはどんどん仕事をさせる。逆に中流階級を強化すると進化が妨げられ、ありとあらゆる経済問題が生まれる」。

 (4)本書を読めば読むほど、これは脆弱性を抱えた現代日本の社会、経済、安全保障などに対する問題提起ではないかと思えてしまう。
 下手な自己啓発本よりも、よほど教訓に満ちたビジネスパーソンへの格言集ともいえる。座右の書としたい一冊だ。

□吉川尚宏(A.T.カーニー株式会社 パートナー)「舌鋒鋭く世の中の本質に迫る/地球規模で読まれた洞察の書  ~私の「イチオシ収穫本」~」(「週刊ダイヤモンド」2017年10月14日号)
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