(1)10月22日の衆議院議員選挙では、「お願い」が多く、北朝鮮問題を語る候補が極めて少なかった。日本単独では何かをするのは難しいが、最大の外交問題として、その現状や国際的な取り組みについて語るべきではないか。日本の国会議員は、「平和」に慣れ過ぎていないか。
(2)9月下旬、ワシントンで、米下院議員のテッド・ヨーホー・アジア太平洋小委員会委員長(フロリダ州選出)を記者団が取材した。9月15日、北朝鮮が発射した大陸間弾道ミサイルが北海道上空を通過し、襟裳岬の東約2,200キロメートルの太平洋上に落下した直後だ。米国民が、「今や、北朝鮮は、アジアだけの問題ではない」と自覚し始めた。
同議員によると、選挙区であるフロリダ州で、7万5,000人の共和党員、民主党員、無党派層に電話調査をした結果、現在最も憂慮すべきこととして、北朝鮮問題が「ナンバーワン」に浮上した。
「テロリズムなどの国家安全保障問題は、過去も常にナンバーワンだったが、北朝鮮に特定してというのは初めて」(同議員)
(3)また、米大統領に対して「緊急時の特権」として連邦議会が承認する軍事力行使権使用承認(AUMF)についても、驚くほどあっさりと踏み込んで答えた。
「AUMFが議会に要求されれば、おそらく可決されるだろう。現段階で、金正恩・北朝鮮最高指導者がやっていること以上に挑発的なことがあるとは思いたくはない。だが、万が一、北朝鮮が今よりもっと挑発的なことをすれば、私たちは何をするべきか、予想し、そして決めなくてはならない。しかし、その前に日本、韓国、同盟国、そして私たちの軍隊を攻撃するという布告があるだろう」
ヨーホー・下院議員がここまで答えるということは、連邦議会全体での認識とみてもいいだろう。また、上下院議員は、与野党いずれであっても、有権者にこれだけの説明をする用意はあるということだろう。
(4)さらに、現在の大統領がトランプ氏という従来の政治家ではないことで、「レッドライン(軍事行使に移る限界)」をどこに置くかも、これまでとは異なってくる。
「過去の政権では、レッドラインは、見えないインクで描かれていた。しかし現在の政権は、何かをなすべきだと判断すれば、行動する政権だ」
「例えば、シリアで4,000~5,000人の市民が化学兵器で虐殺されたという証拠が挙がった際、化学兵器使用禁止の条約があり、多くの国が署名していた。しかし、どの国も国際連合も何もしなかった。だから、トランプ大統領がミサイル攻撃を実行した」
北朝鮮が核兵器を保有し、しかも、水爆実験まで行ったとなれば、米政権の出方は、日本を含め全世界が注視するところだ。
(5)ヨーホー議員は、最終的には国際社会が経済制裁の重要性を理解するべきだと強調しながらも、これだけのことを話した。
取材は、わずか20分。しかし、北朝鮮問題に対する有権者の懸念への答えを、明確に示した20分だった。
□津山恵子(ニューヨーク在住ジャーナリスト)「トランプ大統領が描く従来と違うレッドライン/北朝鮮は世界の問題に」(「週刊ダイヤモンド」2017年11月4日号)
↓クリック、プリーズ。↓

【参考】
「【欧州】英航空・防衛大手企業が受注苦戦で大リストラ ~英国のEU離脱も影響か~」
「【アジア】度重なる不祥事で日本企業のイメージ失墜 ~アジア商戦にも逆風~」
「【中国】で日本の「どら焼き」や「カステラ」が売れない理由 ~風土で違う味覚~ 」
「【中国】ユニコーンが55社、加速する起業ブーム ~課題は人材確保~」
「【欧州】ドイツ議会選挙で極右政党が大躍進 ~危機感強める経済界~」
「【米国】サンオノフレ原発の核廃棄物移転を訴えた地域住民が“勝った”理由」
「【欧州】カタルーニャ独立は正しい選択なのか? ~住民投票で9割支持~」
「【米国】トランプ大統領のころころ変わる政策に振り回される不法移民」
「【中国】信用情報システム「芝麻信用」とは? ~個人の信用力を点数化~」
「【米国】北朝鮮問題の深刻化で浮上する開戦シナリオ ~1937年不況の再来?~」
「【欧州】英国のEU離脱選択で中東欧からの移民が激減 ~人手不足で農業は窮地に~」
「【欧州】ドイツ自動車業界を襲うディーゼル締め出し判決 ~EV普及の契機となるか~」
「【欧州】身近で頻発するテロで苦境に陥る欧州の観光業 ~ISが戦術を転換~」
「【中国】住宅を入手しやすい「新一線都市」が人気 ~地方の生活水準が向上~」
「【欧州】総工費8兆円超の英高速鉄道プロジェクト ~高まる期待と漂う懸念~」
「【欧州】スペイン経済は大打撃、欧州金融危機の再来か ~カタルーニャ独立~」
「【欧州】のゴミ箱扱いに憤慨する東欧諸国 ~深まるEUの東西分裂~」
「【英国】の地政学的優位性がBrexitで喪失 ~領内で高まる独立気運~」
「【欧州】北欧も難民入国規制強化へ ~形骸化するシェンゲン協定~」
「【スウェーデン】文化多元主義の限界 ~移民問題~」
(2)9月下旬、ワシントンで、米下院議員のテッド・ヨーホー・アジア太平洋小委員会委員長(フロリダ州選出)を記者団が取材した。9月15日、北朝鮮が発射した大陸間弾道ミサイルが北海道上空を通過し、襟裳岬の東約2,200キロメートルの太平洋上に落下した直後だ。米国民が、「今や、北朝鮮は、アジアだけの問題ではない」と自覚し始めた。
同議員によると、選挙区であるフロリダ州で、7万5,000人の共和党員、民主党員、無党派層に電話調査をした結果、現在最も憂慮すべきこととして、北朝鮮問題が「ナンバーワン」に浮上した。
「テロリズムなどの国家安全保障問題は、過去も常にナンバーワンだったが、北朝鮮に特定してというのは初めて」(同議員)
(3)また、米大統領に対して「緊急時の特権」として連邦議会が承認する軍事力行使権使用承認(AUMF)についても、驚くほどあっさりと踏み込んで答えた。
「AUMFが議会に要求されれば、おそらく可決されるだろう。現段階で、金正恩・北朝鮮最高指導者がやっていること以上に挑発的なことがあるとは思いたくはない。だが、万が一、北朝鮮が今よりもっと挑発的なことをすれば、私たちは何をするべきか、予想し、そして決めなくてはならない。しかし、その前に日本、韓国、同盟国、そして私たちの軍隊を攻撃するという布告があるだろう」
ヨーホー・下院議員がここまで答えるということは、連邦議会全体での認識とみてもいいだろう。また、上下院議員は、与野党いずれであっても、有権者にこれだけの説明をする用意はあるということだろう。
(4)さらに、現在の大統領がトランプ氏という従来の政治家ではないことで、「レッドライン(軍事行使に移る限界)」をどこに置くかも、これまでとは異なってくる。
「過去の政権では、レッドラインは、見えないインクで描かれていた。しかし現在の政権は、何かをなすべきだと判断すれば、行動する政権だ」
「例えば、シリアで4,000~5,000人の市民が化学兵器で虐殺されたという証拠が挙がった際、化学兵器使用禁止の条約があり、多くの国が署名していた。しかし、どの国も国際連合も何もしなかった。だから、トランプ大統領がミサイル攻撃を実行した」
北朝鮮が核兵器を保有し、しかも、水爆実験まで行ったとなれば、米政権の出方は、日本を含め全世界が注視するところだ。
(5)ヨーホー議員は、最終的には国際社会が経済制裁の重要性を理解するべきだと強調しながらも、これだけのことを話した。
取材は、わずか20分。しかし、北朝鮮問題に対する有権者の懸念への答えを、明確に示した20分だった。
□津山恵子(ニューヨーク在住ジャーナリスト)「トランプ大統領が描く従来と違うレッドライン/北朝鮮は世界の問題に」(「週刊ダイヤモンド」2017年11月4日号)
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