(1)ブラック企業を定義すれば、「新卒・若者を大量に採用して、そして使い潰して利益を上げ、急成長する新興産業の大企業」だ。
大企業が、利益を出すために意図的に使い潰していく。ここが非常に新しい。
大企業ということで、皆こぞって入りたがる。さらに、学校や教師がそこに入るよう勧める。親も嬉しいし、学校も実績になるということで。それで、どんどん送り出していくんだけれど、企業側は育てずに使い潰す。使い潰すから、もっとたくさん採ってくれる。すると、学校も、またどんどん入れる。
そうなると、社会システム全体が機能しなくなっていく。信頼関係で成り立っていた社会システム全体が、危機に瀬するところまできている。
ひとつの法制度の問題ではなく、もっと大きな国家的問題になった。
(2)一部上場大企業・・・・マスコミでよく取り上げられているのは、ワタミ【注】、ウェザーニュース、大庄(日本海大庄やなどの飲食店チェーン)、ユニクロなど。今年9月、日本海大庄やでは、過労死の判決が出ている(役員個人の賠償責任を認めた)。
実際の「若者使い潰し」には2つのパターンがある。
(a)選別・・・・<例>1,000人の会社で毎年200人雇う。そして、必ず100人辞めさせる。辞めさせることを前提に雇うのだ。イジメて「自分から」辞めさせる。イジメ方もひどくて、最初は行くべき客先から干して、ひたすら無用な存在として会社の中でさらし者にする。ついで、研修と称して、「何をやってもお前はダメだ」と言い続ける。これでたいていの人は鬱になる。それでも辞めないで頑張ると、カウンセリングと称して「生まれてからこれまでの反省文を書け」などと責め立て、わざと鬱病に追い込んで辞めさせる。選別の中には、入社後に死ぬほどのサービス残業を強いて選抜競争をさせたり、半年で「店長・管理職」にさせて酷使するテクニックもある。
(b)使い捨て・・・・辞めさせるより、辞めさせない傾向を持っている企業が行う。低賃金、長時間労働。過労死事件を起こした日本海庄やが典型例。月給194,500円で新卒採用するが、その中には残業代80時間分が含まれていて、残業しないとどんどん基本給から減らしていく。時給を計算すると、ほとんど最低賃金という仕掛け。この「含み算」がIT、外食、小売りなどに広がっているやり方だ。
(3)1990年代後半、「職場のいじめ」(「追い出し部屋」など)があって、正社員の追い出しがある程度完了した後、非正規に入れ替えられていった。今、非正規が目の前にちらつく若者たちは、ともかく正社員になろうとしてしまう。しかし、ブラック企業はリストラ前提で若者たちを正社員にする。
かかる新興産業は、日本の産業構造が変わってくる中で生まれたので、労働組合のない企業が多い。あっても脆弱だ。だからこそ、こうしたことが起きている。まともな労務管理や労使関係の伝統がない。
ちなみに、「ブラック企業」という言葉は、初め、主にIT企業の人たちがネットに書き込んで広がった。それが、介護、外食、小売りに広がった。
(4)今までの日本の労働組合は、終身雇用と年功賃金を守れ、ということを仲間うちだけで言ってきた。こうした日本型雇用神話がねじれてしまい、「ブラック企業」が出てきた。その一つの契機として、非正規雇用に対する伝統的な労働組合の冷たい態度、そこに問題の根があった。
非正規はものすごく差別されてきた。それは日本型雇用を守るための「犠牲」だった。
若者の間で非正規雇用が増えると、正社員になるための競争が激化し、逆に企業に足元を見られるようになった。
(5)非正規雇用に加え、日本型「正社員」そのものにも問題がある。「契約書」がないのだ。改正労基法が2004年に施行されるまで、契約書をどこの大手も作っていなかった。「入社すると人生丸抱え」の終身雇用が一般的だったからだ。他方、「契約書がない=白紙の契約」だから、残業、配置転換など命令権限も無限大だ。これが過労死の温床だ。
だから、日本型雇用に戻せ、とか、正社員を増やせ、という議論は間違いで、労働組合が「無限の命令」を制約するような「新しい労使交渉」をやらないと。
(6)ブラック企業は、国家的な問題だ。
厚労省が調査したり、政府が取り締まりに乗り出している。今政府が出している対策は、2点。(a)若者の使い捨てが疑われる企業を規定して、そこに対して臨検、一斉調査をして、悪質な企業は企業名を公表。(b)あとは労働相談を大々的に受ける。
使い捨てが疑われる企業に関しては、離職率の高い企業をあらかじめ調べ、そこに絞って臨検を行う。違法行為の類型のポイントとしては、長時間労働やメンタルヘルスを軸に見る。
だが、このやり方では効果が上がる可能性がほとんどない。認識も政策も正しいが、厚労省がやれること自体に限界がある。労働基準監督署は、司法警察員。刑事罰付きだから、やれることがごく限られている。残業代不払いは問題にできるが、パワハラは完全に管轄外だ。解雇は、予告手当1ヵ月分以外は、全部管轄外。パワハラや解雇は、裁判や労組を通じて争うしかない。
(7)ブラック企業に別の呼び名を付けるなら、
(a)労使関係解体企業 or 労務管理崩壊企業 【理論的に】
(b)鬱病量産企業 or 若手鬱過労自殺過労死量産企業 【現象的に】
【注】「【社会】ブラック企業大賞2013 ~ワタミフードサービス~」
□インタビュイー:今野晴貴(POSSE代表)/インタビュアー:平井康嗣(本誌編集長)「ブラック企業対策はなぜ国家的問題なのか」(「週刊金曜日」2013年11月29日号)
↓クリック、プリーズ。↓

【参考】
「【社会】ブラック企業大賞2013 ~ワタミフードサービス~」
「【社会】「ブラック企業」への反撃 ~被害対策弁護団が発足~」
「【社会】「ワタミ」の偽装請負 ~渡辺美樹・前会長/参議院議員~」
「【社会】学校もこんなにブラック ~公教育の劣化~」
「【社会】私学に広がる教員派遣と偽装請負」
「【社会】私学に広がる教員派遣と偽装請負・その後 ~裁判~」
「【本】ブラック企業 ~日本を食いつぶす妖怪~」
「【本】ブラック企業の実態」
「【社会】若者を食い潰すブラック企業 ~傾向と対策~」
「【本】ブラック企業の「辞めさせる技術」 ~違法すれすれ~」
「【心理】組織の論理とアイヒマン実験 ~ブラック企業の心理学~」
「【社会】第二回ブラック企業大賞候補 ~7社1法人~」
「【社会】ブラック企業における過労死、ずさんな労務管理 ~ワタミ~」
「【社会】ブラック企業の見抜き方 ~その特徴と実例~」
大企業が、利益を出すために意図的に使い潰していく。ここが非常に新しい。
大企業ということで、皆こぞって入りたがる。さらに、学校や教師がそこに入るよう勧める。親も嬉しいし、学校も実績になるということで。それで、どんどん送り出していくんだけれど、企業側は育てずに使い潰す。使い潰すから、もっとたくさん採ってくれる。すると、学校も、またどんどん入れる。
そうなると、社会システム全体が機能しなくなっていく。信頼関係で成り立っていた社会システム全体が、危機に瀬するところまできている。
ひとつの法制度の問題ではなく、もっと大きな国家的問題になった。
(2)一部上場大企業・・・・マスコミでよく取り上げられているのは、ワタミ【注】、ウェザーニュース、大庄(日本海大庄やなどの飲食店チェーン)、ユニクロなど。今年9月、日本海大庄やでは、過労死の判決が出ている(役員個人の賠償責任を認めた)。
実際の「若者使い潰し」には2つのパターンがある。
(a)選別・・・・<例>1,000人の会社で毎年200人雇う。そして、必ず100人辞めさせる。辞めさせることを前提に雇うのだ。イジメて「自分から」辞めさせる。イジメ方もひどくて、最初は行くべき客先から干して、ひたすら無用な存在として会社の中でさらし者にする。ついで、研修と称して、「何をやってもお前はダメだ」と言い続ける。これでたいていの人は鬱になる。それでも辞めないで頑張ると、カウンセリングと称して「生まれてからこれまでの反省文を書け」などと責め立て、わざと鬱病に追い込んで辞めさせる。選別の中には、入社後に死ぬほどのサービス残業を強いて選抜競争をさせたり、半年で「店長・管理職」にさせて酷使するテクニックもある。
(b)使い捨て・・・・辞めさせるより、辞めさせない傾向を持っている企業が行う。低賃金、長時間労働。過労死事件を起こした日本海庄やが典型例。月給194,500円で新卒採用するが、その中には残業代80時間分が含まれていて、残業しないとどんどん基本給から減らしていく。時給を計算すると、ほとんど最低賃金という仕掛け。この「含み算」がIT、外食、小売りなどに広がっているやり方だ。
(3)1990年代後半、「職場のいじめ」(「追い出し部屋」など)があって、正社員の追い出しがある程度完了した後、非正規に入れ替えられていった。今、非正規が目の前にちらつく若者たちは、ともかく正社員になろうとしてしまう。しかし、ブラック企業はリストラ前提で若者たちを正社員にする。
かかる新興産業は、日本の産業構造が変わってくる中で生まれたので、労働組合のない企業が多い。あっても脆弱だ。だからこそ、こうしたことが起きている。まともな労務管理や労使関係の伝統がない。
ちなみに、「ブラック企業」という言葉は、初め、主にIT企業の人たちがネットに書き込んで広がった。それが、介護、外食、小売りに広がった。
(4)今までの日本の労働組合は、終身雇用と年功賃金を守れ、ということを仲間うちだけで言ってきた。こうした日本型雇用神話がねじれてしまい、「ブラック企業」が出てきた。その一つの契機として、非正規雇用に対する伝統的な労働組合の冷たい態度、そこに問題の根があった。
非正規はものすごく差別されてきた。それは日本型雇用を守るための「犠牲」だった。
若者の間で非正規雇用が増えると、正社員になるための競争が激化し、逆に企業に足元を見られるようになった。
(5)非正規雇用に加え、日本型「正社員」そのものにも問題がある。「契約書」がないのだ。改正労基法が2004年に施行されるまで、契約書をどこの大手も作っていなかった。「入社すると人生丸抱え」の終身雇用が一般的だったからだ。他方、「契約書がない=白紙の契約」だから、残業、配置転換など命令権限も無限大だ。これが過労死の温床だ。
だから、日本型雇用に戻せ、とか、正社員を増やせ、という議論は間違いで、労働組合が「無限の命令」を制約するような「新しい労使交渉」をやらないと。
(6)ブラック企業は、国家的な問題だ。
厚労省が調査したり、政府が取り締まりに乗り出している。今政府が出している対策は、2点。(a)若者の使い捨てが疑われる企業を規定して、そこに対して臨検、一斉調査をして、悪質な企業は企業名を公表。(b)あとは労働相談を大々的に受ける。
使い捨てが疑われる企業に関しては、離職率の高い企業をあらかじめ調べ、そこに絞って臨検を行う。違法行為の類型のポイントとしては、長時間労働やメンタルヘルスを軸に見る。
だが、このやり方では効果が上がる可能性がほとんどない。認識も政策も正しいが、厚労省がやれること自体に限界がある。労働基準監督署は、司法警察員。刑事罰付きだから、やれることがごく限られている。残業代不払いは問題にできるが、パワハラは完全に管轄外だ。解雇は、予告手当1ヵ月分以外は、全部管轄外。パワハラや解雇は、裁判や労組を通じて争うしかない。
(7)ブラック企業に別の呼び名を付けるなら、
(a)労使関係解体企業 or 労務管理崩壊企業 【理論的に】
(b)鬱病量産企業 or 若手鬱過労自殺過労死量産企業 【現象的に】
【注】「【社会】ブラック企業大賞2013 ~ワタミフードサービス~」
□インタビュイー:今野晴貴(POSSE代表)/インタビュアー:平井康嗣(本誌編集長)「ブラック企業対策はなぜ国家的問題なのか」(「週刊金曜日」2013年11月29日号)
↓クリック、プリーズ。↓



【参考】
「【社会】ブラック企業大賞2013 ~ワタミフードサービス~」
「【社会】「ブラック企業」への反撃 ~被害対策弁護団が発足~」
「【社会】「ワタミ」の偽装請負 ~渡辺美樹・前会長/参議院議員~」
「【社会】学校もこんなにブラック ~公教育の劣化~」
「【社会】私学に広がる教員派遣と偽装請負」
「【社会】私学に広がる教員派遣と偽装請負・その後 ~裁判~」
「【本】ブラック企業 ~日本を食いつぶす妖怪~」
「【本】ブラック企業の実態」
「【社会】若者を食い潰すブラック企業 ~傾向と対策~」
「【本】ブラック企業の「辞めさせる技術」 ~違法すれすれ~」
「【心理】組織の論理とアイヒマン実験 ~ブラック企業の心理学~」
「【社会】第二回ブラック企業大賞候補 ~7社1法人~」
「【社会】ブラック企業における過労死、ずさんな労務管理 ~ワタミ~」
「【社会】ブラック企業の見抜き方 ~その特徴と実例~」