北海道新聞 09/23 11:07 更新
「ミンタラ《1》 アイヌ民族27の昔話」の表紙
毎週土曜日の朝刊別刷り「道新こども新聞 週刊まなぶん」で、アイヌ文化を紹介している連載「ミンタラ」が本になった。「ミンタラ《1》 アイヌ民族27の昔話」(北海道新聞社)。さまざまなカムイ(神)や魔物、英雄たちが登場するドラマチックな物語をかわいらしいイラストとともに収録。ともにアイヌ民族出身の、筆者で北大アイヌ・先住民研究センター准教授の北原モコットゥナシさん(45)と、イラストレーターの小笠原小夜さんに話を聞いた。
■カムイや英雄、ドラマチック 筆者・北原モコットゥナシさん/イラストレーター・小笠原小夜さん
ミンタラは、週刊まなぶん創刊1周年の2016年春から続く月1回の人気連載。今回の本には、19年1月~21年3月に掲載したアイヌ民族の昔話シリーズ「ネウサラ(おはなし) イェコロ(語りながら)ヌコロ(聞きながら)」全27話を収録した。
北原さんは、道内各地や樺太に伝わるアイヌ民族の昔話の中から毎月紙面に載せる話を選び、子供にも分かりやすい文体に書き直してきた。「地域によってアイヌ語の語りの録音が残るものもあれば、日本語に翻訳された筋書きしかないものもある。翻訳されたものは聞いた人の解釈が入っていることが多く、なるべく原文が残る話を選ぶように心がけました」と話す。
■女性も生き生き
アイヌの昔話はストーリーが多彩でドラマチックな人情物語が多い。例えば北原さんのいちおしは、登別市に伝わる「銀のキセル、ウラシペッの村長を救う」という話。食糧不足の村に山裾のクマの神が現れ、村長に仕留められて村を助ける。が、クマの神は村長が感謝してささげた宝刀を自慢してほかの神々の怒りを買い、村長が神々に詰問される―というあらすじだ。
「紙面では少し短くしましたが、この村長の父親が動物を敬愛する人で、普通の狩人なら山で解体して無造作に捨てる動物の内臓を、草を敷いてきれいに並べ鳥の神々にささげる。その心がけにシマフクロウが感激して宝刀を授けた…という背景がある。元の話にはそうした事柄もアイヌ語で詳しく表現されていて、すごくおもしろいんです」
「食べ物を大切に」と説く物語も少なくない。「なぜそんな話ができたかといえば、昔の人も食料が豊富な時はおそらく粗末にしたからで、戒めのために作られたのでしょう。ご先祖もやっぱり人間なんだよなと思います」と笑う。ほかにも女性や女神が生き生きと活躍する話も多く、勇気づけられる読者は多いだろう。
昔話のほか、現代に生きるアイヌの人たちのインタビューやアイヌ語地名クイズなども収録。ミンタラは大人からも人気があり、小学校などの授業で活用される例も少なくない。北原さんは「本にまとめたことで、より読みやすくなったと思う。学校ではもちろん、家庭でもぜひ親子で楽しんでほしい」と勧める。
■単純明快に表現
ミンタラの昔話には、かつてのアイヌ民族の暮らしぶりや神々の姿が頻繁に登場する。小笠原小夜さんの描くイラストは、読者の理解を助け、想像力をかき立てるのに一役買っている。
「私が小学生のころ図書館でよく読んでいた昔話集には、残念ながらアイヌ民族のお話がありませんでした。この本が全国の学校図書館に行き渡ることを願っています」と小笠原さん。作画ではアイヌ民族の世界観が伝わるよう単純明快な表現を心がけ、「お化けや死人などは子供が泣いてしまわないよう適度な怖さとかわいさを目指している」という。
森羅万象に魂が宿るという世界観から、昔話では物が擬人化されて登場することも多い。そうした“キャラクター”の中で小笠原さんのお気に入りは、踊りが上手な「銅のなべ」と、勇気ある「銀のマレク(魚を捕る鉤銛(かぎもり))」だ。「日本の昔話には出てこないアイヌ民族特有の風習や道具など、イラストで分かる文化の違いにも注目してみてほしい」と話している。
◇
「ミンタラ《1》 アイヌ民族27の昔話」はB5判、152ページ。1980円。書店、アマゾンなどインターネットサイトのほか道新販売所でも扱う。問い合わせは道新出版センター(電)011・210・5744(平日午前9時半~午後5時半)へ(元井麻里子)
<略歴>きたはら・モコットゥナシ 東京都生まれ、埼玉県育ち。自身がアイヌ民族と知ったのは4歳のころ。樺太生まれで日高管内平取町に住む祖母の影響で、樺太の言葉や文化に関心を持った。現在は主に昔のアイヌ民族の言葉や音楽、文学、宗教などを研究し、新聞などを通してアイヌ文化を広く紹介している。
<略歴>おがさわら・さよ 小樽市生まれ、江別市育ち。先祖は日高管内新ひだか町静内地区のアイヌ民族。大人になってから踊りやししゅうなどのアイヌ文化を覚え、海外の先住民族との交流経験もある。幼少期から絵が好きで、アイヌ民族の世界観を描くイラストレーターとして多方面で活躍している。
◆「ミンタラ」と「ネウサラ」の「ラ」、「北原モコットゥナシ」さんと「ウラシペッ」の「シ」、「イェコロ」と「ヌコロ」の「ロ」、「マレク」の「ク」は小さい字
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/592007

毎週土曜日の朝刊別刷り「道新こども新聞 週刊まなぶん」で、アイヌ文化を紹介している連載「ミンタラ」が本になった。「ミンタラ《1》 アイヌ民族27の昔話」(北海道新聞社)。さまざまなカムイ(神)や魔物、英雄たちが登場するドラマチックな物語をかわいらしいイラストとともに収録。ともにアイヌ民族出身の、筆者で北大アイヌ・先住民研究センター准教授の北原モコットゥナシさん(45)と、イラストレーターの小笠原小夜さんに話を聞いた。
■カムイや英雄、ドラマチック 筆者・北原モコットゥナシさん/イラストレーター・小笠原小夜さん
ミンタラは、週刊まなぶん創刊1周年の2016年春から続く月1回の人気連載。今回の本には、19年1月~21年3月に掲載したアイヌ民族の昔話シリーズ「ネウサラ(おはなし) イェコロ(語りながら)ヌコロ(聞きながら)」全27話を収録した。
北原さんは、道内各地や樺太に伝わるアイヌ民族の昔話の中から毎月紙面に載せる話を選び、子供にも分かりやすい文体に書き直してきた。「地域によってアイヌ語の語りの録音が残るものもあれば、日本語に翻訳された筋書きしかないものもある。翻訳されたものは聞いた人の解釈が入っていることが多く、なるべく原文が残る話を選ぶように心がけました」と話す。
■女性も生き生き
アイヌの昔話はストーリーが多彩でドラマチックな人情物語が多い。例えば北原さんのいちおしは、登別市に伝わる「銀のキセル、ウラシペッの村長を救う」という話。食糧不足の村に山裾のクマの神が現れ、村長に仕留められて村を助ける。が、クマの神は村長が感謝してささげた宝刀を自慢してほかの神々の怒りを買い、村長が神々に詰問される―というあらすじだ。
「紙面では少し短くしましたが、この村長の父親が動物を敬愛する人で、普通の狩人なら山で解体して無造作に捨てる動物の内臓を、草を敷いてきれいに並べ鳥の神々にささげる。その心がけにシマフクロウが感激して宝刀を授けた…という背景がある。元の話にはそうした事柄もアイヌ語で詳しく表現されていて、すごくおもしろいんです」
「食べ物を大切に」と説く物語も少なくない。「なぜそんな話ができたかといえば、昔の人も食料が豊富な時はおそらく粗末にしたからで、戒めのために作られたのでしょう。ご先祖もやっぱり人間なんだよなと思います」と笑う。ほかにも女性や女神が生き生きと活躍する話も多く、勇気づけられる読者は多いだろう。
昔話のほか、現代に生きるアイヌの人たちのインタビューやアイヌ語地名クイズなども収録。ミンタラは大人からも人気があり、小学校などの授業で活用される例も少なくない。北原さんは「本にまとめたことで、より読みやすくなったと思う。学校ではもちろん、家庭でもぜひ親子で楽しんでほしい」と勧める。
■単純明快に表現
ミンタラの昔話には、かつてのアイヌ民族の暮らしぶりや神々の姿が頻繁に登場する。小笠原小夜さんの描くイラストは、読者の理解を助け、想像力をかき立てるのに一役買っている。
「私が小学生のころ図書館でよく読んでいた昔話集には、残念ながらアイヌ民族のお話がありませんでした。この本が全国の学校図書館に行き渡ることを願っています」と小笠原さん。作画ではアイヌ民族の世界観が伝わるよう単純明快な表現を心がけ、「お化けや死人などは子供が泣いてしまわないよう適度な怖さとかわいさを目指している」という。
森羅万象に魂が宿るという世界観から、昔話では物が擬人化されて登場することも多い。そうした“キャラクター”の中で小笠原さんのお気に入りは、踊りが上手な「銅のなべ」と、勇気ある「銀のマレク(魚を捕る鉤銛(かぎもり))」だ。「日本の昔話には出てこないアイヌ民族特有の風習や道具など、イラストで分かる文化の違いにも注目してみてほしい」と話している。
◇
「ミンタラ《1》 アイヌ民族27の昔話」はB5判、152ページ。1980円。書店、アマゾンなどインターネットサイトのほか道新販売所でも扱う。問い合わせは道新出版センター(電)011・210・5744(平日午前9時半~午後5時半)へ(元井麻里子)
<略歴>きたはら・モコットゥナシ 東京都生まれ、埼玉県育ち。自身がアイヌ民族と知ったのは4歳のころ。樺太生まれで日高管内平取町に住む祖母の影響で、樺太の言葉や文化に関心を持った。現在は主に昔のアイヌ民族の言葉や音楽、文学、宗教などを研究し、新聞などを通してアイヌ文化を広く紹介している。
<略歴>おがさわら・さよ 小樽市生まれ、江別市育ち。先祖は日高管内新ひだか町静内地区のアイヌ民族。大人になってから踊りやししゅうなどのアイヌ文化を覚え、海外の先住民族との交流経験もある。幼少期から絵が好きで、アイヌ民族の世界観を描くイラストレーターとして多方面で活躍している。
◆「ミンタラ」と「ネウサラ」の「ラ」、「北原モコットゥナシ」さんと「ウラシペッ」の「シ」、「イェコロ」と「ヌコロ」の「ロ」、「マレク」の「ク」は小さい字
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/592007