SBS 14 February 2025 7:00pm
Fire work on Wunambal Gaambera Country, WA.
オーストラリアの先住民は、何万年にもわたって「火」を使いながら土地を守ってきたことをご存じですか? 研究によると、文化的な野焼きは山火事の規模や発生頻度を抑えるだけでなく、生態系の健康を保つために重要な役割を果たしています。
KEY POINTS
- 先住民が古くから行ってきた文化的野焼きは、山火事の抑制とカントリーの健康を保つ、「実証済み」の方法として、ますます注目されています。土地の所有権があることで、先住民コミュニティは自らの知識を活かし、伝統的な野焼きを復活させることができます。文化的野焼きには、山火事を防ぐ効果や生態系を守る働きなど、さまざまな利点があります。
オーストラリアでは、多くの人々が「火」を脅威と見なしています。
その背景には、2019年から2020年にかけて発生した山火事「ブラックサマー」や、2024年に広範囲で発生した山火事などがあると考えられています。
しかし、ファースト・ネーションズの人々にとって、「火」は何千年もの間、強力なツールとして活用されてきました。土地の管理や食料計画、生態系の保護、特に山火事を防ぐ上で欠かせないものでした。
生い茂った草や枯葉は、毎年火を使って取り除かれてきました。
そう説明するのはウーナンバル・ガーンベラ・アボリジナル・コーポレーションのカトリーナ・グーナック議長です。
「父は毎年、食べ物を収穫するために野焼きをしなければならないと言っていました。」
「文化的な野焼きは私たちの先祖が行ってきたことであり、生活の一部です。彼らは火を使って土地を再生させ、成長を促し、山火事の発生を防いでいたのです。」
この文化的野焼き(Cultural burning)は、firestick farmingやcool burningともよばれていますが、植民地化以降、大規模に行われることはありませんでした。
研究者たちは、これがオーストラリアで山火事が頻発し、被害が大きくなるようになった理由であると考えています。
「昔の人たちは、カントリーの健康に保つために火を使うことが大切だと知っていたのです。」
グーナック氏は2024年、西オーストラリア州の遠隔地・北キンバリーに再導入された大規模な伝統的野焼きの影響について、共著者として研究してきました。
「この10年ほど、山火事を防ぐために状況を見守ってきました。火の管理には浮き沈みがあり、とても厳しい山火事も発生していますが、順調です。」
この研究では、4つの先住民グループが、これまでその地域で発生していた深刻な山火事をどのように軽減したかを測定しました。
効果が証明されている野焼き、なぜ全土で復活させないのか?
キンバリーは、文化的野焼きと政府機関が行う計画的野焼きが並行して実施されている数少ない地域の一つです。
これは、先住民に土地の所有権が返還されたことによって実現しました。
この研究を率いるトム・ヴィジランテ氏は、先住民が土地の所有権を得たことは「大きな転機」であったと説明します。
「自分たちが望む方法で土地を管理する権利を持つことになったのです」
「国立公園や政府機関が管理する土地では、先住民がその土地での野焼きに影響を与えようとしても、自分たちで行う権利を持っていません。」
Australasian Fire and Emergency Service Authorities Council (AFAC)のトレバー・ハワード氏は、キンバリーや広範なサバンナ地域で行われている先住民による野焼きは、オーストラリアの他の地域でも取り入れられる「良い例」だと考えています。
「この地域の景色は、ここ20年で大きく変わりました。」
「以前は非常に激しく広範囲に及ぶ山火事が頻発していましたが、現在では、先住民が主導し、科学のバックアップを受けながら進められているこのプログラムによって、火災のコントロールが強化されています。」
しかし、文化的野焼きの復活はまだ始まったばかりであり、その効果をどれだけ活かせるかは、各州・テリトリーが先住民の土地の管理者とどう協力するかにかかっていると、ハワード氏は指摘します。
「オーストラリアには多くの先住民グループがあり、それぞれが自分たちの土地に特別なつながりを持っています」
「そのため、各州やテリトリーの機関がこれらのグループと協力し、彼らの願いや必要とすることを理解し、それぞれの土地に合った形で文化的な野焼きを発展させていくことを支援をすることが重要なのです。」
火はカントリーを浄化・復活させる
Indigenous Desert Allianceで砂漠パートナーシップマネージャーを務めるガレス・キャット氏は、2012年からノーザンテリトリーや西オーストラリア州、南オーストラリア州の先住民レンジャーたちと共に活動してきました。
キャット氏は、伝統的な文化的野焼きを現代のアプローチに統合させ、それを大規模に行うことを目的に活動しています。
キャット氏は、山火事においてこの文化的野焼きを成功させるには、その実施方法、つまりは「土地のニーズ」を優先する必要があると考えています。
「天候条件を見て、火がどのように広がっていき、カントリーがどのように反応するのかを見ているのです。」
しかし、頻発する山火事、特に 2019年から2020年にかけて発生した山火事を受け、伝統的な野焼きの知識や技術への関心が再燃しています。
「人は『火』を想像すると、危険や黒い焼け跡をイメージします。」
「しかし、火が慎重に土地に適用されると、それは破壊的な力ではなく、再生の力となります。もしその火を正しいタイミングで使い、大規模な火災が起こる前に土地と定期的に関わることができれば、火は植生の多様性を促進し、新たな成長を促すためのツールとなるのです。」
計画的な野焼き「prescribed burning」は「back-burning」や「controlled burning」「hazard reduction burning」などとも呼ばれ、特定の条件下で安全に火を使い、作業を行います。
アンソニー・ドセット教授は、政府機関が行う野焼きと文化的野焼きが土壌の健康に与える影響を比較した研究を2024年に発表しました。
ウーロンゴン大学の学者たちとアラダラ・ローカル・アボリジナル・カウンシルのメンバーによって共同で行われたこの研究では、どちらの方法も良い影響をもたらすことがわかりました。
しかし、文化的野焼きにはさらなる利点があることもわかりました。
「例えば、土壌の密度の低下は、文化的な野焼きが行われた土地の方が大きいことが分かりました。」
「また、これらの土壌では、政府の計画的な野焼きに比べて、炭素や窒素の量が多いことも確認されました。炭素も窒素も、この生態系にとって非常に重要な栄養素です。」
しかし、研究は計画的な野焼きと文化的な野焼きを対立させることが目的ではないと教授は説明します。
重要なのは、先住民コミュニティーが何千年にもわたって理解し、実践してきた文化的な野焼きが、山火事の抑制や環境のバランスを保つことに役立つ事実について、科学的な証拠や知見を共有することです。
「火の管理にはさまざまな手法があり、いわばツールボックスのようなものです。しかし、私たちは長い間、この国を何万年も守ってきた先住民コミュニティーの知恵を無視してきました。」