何十歳かのお誕生日に、夫に、日本橋丸善で、モンブランの万年筆をプレゼントしてもらいました。
三十何歳かで、作家デビューして、5年ほどたった頃だったでしょうか?
太めのブルーブラックインクの。
そんな万年筆で、お手紙や、サインなどを書きました。
その少し前に、夫はシンガポール単身赴任から帰国して、金属の営業で、世界中を飛び回り、社長室勤務になりました。
それで、会社に出入りしていた、有名なはんこ屋さんに、私の名前を、アレンジして落款を作ってくれと、依頼してくれたようです。
赤い紐のついた、薄くて柔らかな牛革の袋に入った、「純子」の字の、落款です。
いまだに大事に使っていますが・・・。
でも万年筆。
もう、全く使っていません。
いつの頃からか、「筆ペン」に変えました。
本当は、周りの友人達を見廻し、こんな、見かけ倒しの、上っ面なこだわりをしているより、いい作品を書くこと。
それへの焦りが、いつも心の奥を陣取っていました。
それなのに、呼吸を一つすると、心が軽くなります。
そして、本を読むことに明け暮れて・・・。
「これも書くことの一つ」
そんな、言い訳を、自分にしながら。
今、思い返すと、確かにその時は、「言い訳」と思っていましたが、そうやって、自分を磨く時間も必要な時間だったと、冷静に思えます。
当時は、いつも気持ちの中の半分以上に、書くことが詰まっていて、焦っていましたから。
いつも私は、「出版社から依頼されないと書かない」なんて、偉そうに、お殿様仕事をしていたので・・。
お殿様仕事は、「いつ依頼が来ても困らない」ような、勉強だけはどんな日もやり続けていました。
当時も、今も、皆さん、貪欲に、出版社に持ち込んでいましたが、私はそういうタイプではなかったようです。
でも、今になると思います。
若かった、あの頃、もっと貪欲に書いておけばよかった、と(笑)。
若かりし頃と、今では、やはり文章の勢い、人間を描くパワーが違いますから。
この年になって、そんなことに気づくなんて・・・(笑)。