明け方、北陸自動車道の賤ケ岳サービスエリアが近づくにつれて
濃い霧に包まれた、ある一帯が見えてきた。
湖北、余呉湖だ。
地図で見ると、一周7Kmの小さな湖が
琵琶湖の北岸からわずかばかりのところにあり、
琵琶湖の一部がせき止められたのか、と思えなくもない。
けれども、余呉湖は標高にして琵琶湖より40mも高く、
さらに四方を賤ケ岳などの山に囲まれているので、
気象条件はまったく異なる。
その端的な例でいうなら、琵琶湖から2Kmと離れていないにもかかわらず、
冬は寒く、豪雪地帯だということだ。
さらに、これからの時期は朝方に濃い霧が発生するので、
北陸自動車道を走っていると、余呉だけがまるで綿菓子に包まれているようにも見えるのだ。
そして...。
まだ、撮影テーマが明確になっているわけではないが、
今年の冬はこの朝霧の中から立ち上がる風景を撮ってみたい、
そう思って、この日も早朝の余呉へやってきたのである。
Sony α99 F2.8G/70-200㎜ (135mm f/13,1/25sec , ISO400)
夜明け前、余呉を包む濃い霧も
陽が高くなるにつれて薄れ、
やがて、緑に覆われた岸部とその風景を映す静かな湖面が現れてくる。
それはわずかな時間でしかなく、その移り変わりこそが狙いなのだが、
見る見るうちに霧が晴れていく様子を眺めながら、
ふと、思いだしたことがある。
今まで特に気にもしていなかったことだが
余呉に伝わる羽衣伝説のことだ。
羽衣伝説など日本中そこかしこにあって
単なる村おこし、町おこし程度にしか思っていなかったのだが、
調べてみると、ここ余呉で起こった羽衣伝説が全国に広まったとある。
ファインダーから目を外し、霧が晴れる様子に目を凝らしてみた。
この日は快晴。
濃い霧が次第に薄れ、ちぎれちぎれとなって
やがて青い空に吸い込まれるように消えていく。
なるほど、それまで水浴びをしていた天女たちが
羽衣をまとい天へと帰っていくようだ。
今まで無頓着だったが、あらためて昔の人たちの想像力のたくましさに感心し、そして思ったのである。
昔の人たちが想像した天女。
あるものたちは水辺に集い、また、あるものたちは天へと舞い上がろうとする。
できもしないことかもしれないが、そんな姿を写真で表現できたら楽しいだろうな、と。
Eurythmics - There Must Be An Angel (Playing With My Heart)