はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

七年忌を前に

2008-04-01 10:17:49 | はがき随筆
 病気知らずだった88歳の父は病を得てから、私の訪問を心待ちするようになった。
 父に応えようと、昼間に会った日も私はパジャマにはんてんをを羽織り毎夜5分、車を走らせた。母と3人、小一時間語らううち父が休む時刻。隣のお茶の間で母が見守る中、ベッドの父に薬を差し出し、足をさする。ほんの数分間でも「気持ちよかった。ありがとう」が終わりの合図。肩が冷えないように布団を押さえ「おやすみなさい」。電気を消して、ふすまを2㌢開けたまま部屋を出る。
 入院する前日まで続いた夜のひとときは、半年で終わった。
   いちき串木野市 奥吉志代子(59) 2008/4/1 毎日新聞鹿児島版掲載

四月一日…

2008-04-01 10:01:42 | アカショウビンのつぶやき
 今日の毎日新聞・余録欄によると、欧州連合ではエイプリルフールを廃止する動きがあるという。
若い頃の私は「またやられたー」と毎年、周囲を笑わせて? いや、笑われていたなあ…。軽い冗談なら許されようが被害者が訴訟まで! となったら深刻。今、騒がれている「暫定税率失効」これはエイプリルフールではないらしいが…。

 また、「発信箱」の記事には、63年前の今日、4月1日は、沖縄に米軍が上陸した日と書いてあった。
その中に、集団自決用に配られた、手投げ弾の栓を抜こうとした生徒に「抜くな!」と叫んだ勇気ある教師の一言が、12名の生徒の命を救ったという一節があった。悲惨な戦争はもう二度とくり返してはならない。

 私の義兄も衛生兵として沖縄戦線に赴き、待ちに待った我が子、M子誕生の報も届かず戦死した。父親が最期を遂げた沖縄の地に、成人したM子は奇しくも住むこととなった。そして摩文仁の丘に建立された「平和の礎」で、まだ見ぬ父「伊与田稔」の名と対面した。M子も、もう63歳…。交通事故で重度の後遺症を持つ婿の介護に明け暮れる毎日だが、逞しくそして穏やかに過ごしている。
頑張れ! とは言えないが、今日も平安な一日でありますようにと心から祈る。

 ブログは今日からチューリップ、如何でしょう。

桜の季節に

2008-04-01 08:00:36 | 女の気持ち/男の気持ち
 今年も桜の季節がやって来た。あの日のことは今でもありありと目に浮かぶ。
 満開の桜もそろそろ終わりかという日、病室の窓から寂しげに眺めていた夫を「今日は体の具合も良さそうだから、2人で花見に行きましょう」と誘い出した。
 片方に杖、片方は私としっかり腕を組み、少し離れた公園へゆっくりと足を運ぶ。強かった日差しもやや西に傾き、心地よいそよ風が肌をなでる。幸い公園は人影も少なく、ゆったりとベンチに腰を下ろす。見上げればどこまでも花の空。風に舞う花の精は、私たちの肩へハラハラと降ってくる。
 「見事だねえ、出てこられて本当によかった。ありがとう」
 「来年もきっと花見しましょう」
 「そうしたいけど、生きていればなあ……」
 「大丈夫。回復してるんだから」
 花冷えのせいか、つないだ手も冷たくなったが、胸の暖かさだけが伝わってくる。この幸せが続きますようにと祈りながら、花吹雪に送られ、病室に戻った。
 2人だけの花見。宴(うたげ)もなく、静かな静かな花見だった。2カ月後、夫は天国へ旅立った。
 それから9回目の桜の季節。あなた、天国の花見いかがですか。
   熊本市 原田初枝(77歳) 毎日新聞鹿児島版・の気持ち 掲載
写真はkatakataさん