はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

母への願い

2008-04-09 15:21:52 | はがき随筆
 寝たきりになった母は、物忘れがひどくなってきた。
 誕生祝いの色紙を見て「私は94歳になったの?」と聞く。カーネーションの赤い色は分かるが、花の名前は出てこない。
 冬に「スイカを食べたい」と言っては困らせ、「背中をかいて」と甘えていたのが、今は頼みごとは少なく気力も無い。それでも私や、世話をしてくれるヘルパーさんに「ありがとう」と言う。感謝の心がうれしい。
 「また来るからね」と言う私に「もう帰るのかい……」とつぶやく母。息子の名を忘れず、一日でも長く生きて!と願い、介護ホームを後にする。
   出水市 清田文雄(68) 毎日新聞鹿児島版掲載