はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

はがき随筆3月度入選

2008-04-22 12:01:48 | 受賞作品
 はがき随筆3月度の入選作品が決まりました。
△肝付町前田、吉井三男さん(66)の「ローカ現象」(3日)
△出水市高尾野町唐笠木、岩田昭治さん(68)の「支えられて」(11日)
△鹿児島市慈眼寺、馬渡浩子さん(60)の「負うた子に」(3日)
の3点です。


 珍しく桜の満開時期が話題になりました。4月です。3月度は、人と人の絆を大切に思う味わい深い文章が多く寄せられました。自分の健康管理の状況を述べマイペースで行こうという作品も数点ありました。
 吉井さんの「ローカ現象」は、寒さに対して廊下をスリッパなしで歩くのもやめている自分を笑って、<ローカ(老化)現象>と面白く表現し、言葉を使って巧みに大いに遊んだところがシャレた文章です。面白いですね。この表題が、大切な内容をつい読ませてくれました。森園愛吉さんは、長年の妻の介護体験をとりあげ公の場で発表する機会を得て、貴重な発見があった様子を「発表の機会」(3日)にまとめました。深みのある文章ですね。小村豊一郎さんの「早春」(24日)は、美しい自然を愛する思いを穏やかに述べ、淡々とした扱いで必死に生きてみたいと表現して、いかにも氏らしいいい味ですね。
 岩田さんの「支えられて」は、2日間にわたる琵琶湖や京都近郊での、学友たちとの交流の楽しさを描いた文章です。あちこちに、学友に支えられた感動が伝わってきますね。もちろん本人も学友を十分支えていたことでしょう。馬渡さんの「負うた子に」は、バイオリンを習わせていた母親4人が自分たちも習おうとスタートしました。負うた子に教えられ、という言葉があります。馬渡さんは自分の息子さんに対してクールな気持ちでバイオリンの上達を願い、文章も飾らず実に楽しく、
明るく、明るくすらすらと書きすばらしいです。東郷久子さんの「結婚式」(15日)は、書き出しの沖縄の景色の表現が色彩豊かできれいです。式に参加出来なかった夫への思いを美しい文章でまとめました。小村忍さんの「抱かれたハガキ」(12日)は、若い教師らしいハートのあるやり取りがよく表現されていますよ。伊地知咲子さんの「ドラマ」(31)は、人間の誕生を幸、不幸を考えてドラマにし、いいものですね。
 (日本文学協会会員、鹿児島女子短大名誉教授・吉井和子)
係から 入選作品のうち1編は26日午前8時20分からMBラジオで朗読されます。「二見いすずの土曜の朝は」のコーナー「朝のとっておき」です。

春寒蘭

2008-04-22 08:51:16 | はがき随筆
 春寒蘭(はるかんらん)のつぼみが膨らんで目をくぎ付けにする。親友のSさんからもらった形見の蘭だ。
 つぼみを見る度に、宮崎県西米良の山里に皆と一泊旅行に行き、いで湯で背中を流し合った彼との思い出がよみがえる。
 余興で、手品の上手なSさんは、酒を飲みながら「さあー、よーく見てくださいよ」と真顔で話しながら、手のひらの上で百円玉を消したり、出したりして、仲間を喜ばせた。
 あんなに皆を楽しませ、元気だった彼は、手品のように蘭だけ残し消えてしまった――。
 残された春寒蘭に「Sさん……」と、つぶやいてみる。
出水市 小村 忍(65) 2008/4/22 毎日新聞鹿児島版掲載