タケノコをいただいた。「木の芽あえ」にと思い、庭に出てみる。新芽の香りが辺り一面に漂っている。手のひらいっぱいに摘んでかいでみると、小学生のころの思い出がよみがえる。
そのころ母は離れで床にふせっていた。娘を気づかい、祖母はいつも献立を工夫していた。
母の元へ食事を運ぶのは私の役目。春には木の芽をちりばめた五目寿司を届けた。母は少し口にしただけで「おばあちゃんには内緒よ」と、そっと新聞紙に包んでいた。
その後、母は入院し、7年間の闘病生活の後、亡くなった。残してくれたセピア色の手帳には、2人の子供への思いがぎっしり。幼子を残していく母親の切ない思いが伝わり、読み返すたびに胸が熱くなった。その最後のページに「母の五目寿司が食べたい」と書いてあった。
私が生きてきた歳月はすでに、母の倍近い。そして今年も春が巡ってきた。
山椒の若芽が吹く季節になると、母と過ごした日々が思い出される。手の中に広がる青く、かぐわしい香りがツンと心に染みる。
鹿児島県姶良町 中村頼子(63)
2008/4/24 毎日新聞鹿児島版 女の気持ち掲載
そのころ母は離れで床にふせっていた。娘を気づかい、祖母はいつも献立を工夫していた。
母の元へ食事を運ぶのは私の役目。春には木の芽をちりばめた五目寿司を届けた。母は少し口にしただけで「おばあちゃんには内緒よ」と、そっと新聞紙に包んでいた。
その後、母は入院し、7年間の闘病生活の後、亡くなった。残してくれたセピア色の手帳には、2人の子供への思いがぎっしり。幼子を残していく母親の切ない思いが伝わり、読み返すたびに胸が熱くなった。その最後のページに「母の五目寿司が食べたい」と書いてあった。
私が生きてきた歳月はすでに、母の倍近い。そして今年も春が巡ってきた。
山椒の若芽が吹く季節になると、母と過ごした日々が思い出される。手の中に広がる青く、かぐわしい香りがツンと心に染みる。
鹿児島県姶良町 中村頼子(63)
2008/4/24 毎日新聞鹿児島版 女の気持ち掲載