たいして宗教心は強くないのに毎朝起きて仏壇に向かい手を合わせる。その際、お鈴をたたく。「おりん」と読むが、仏具である。お茶とお線香をあげるのは妻がやるので私はそのあとになる。最近何気なく妻のたたく音に高低があるのでは、と思う時がある。それが確信に変わったのは私の妻に対するぬれぎぬからだった。いつも床の聞に置いていた古伊万里の皿がない。いくら捜しても見つからない。思い余って、掃除していて割ったのではないかとある朝、聞いたら人のせいにしてとえらい剣幕だ。その日、お鈴をたたく音は隣家に響くような音だった。
志布志市 武田佐俊(65) 2009/3/11 毎日新聞鹿児島版掲載
志布志市 武田佐俊(65) 2009/3/11 毎日新聞鹿児島版掲載