はがき随筆2月度の入選作品が決まりました。
▽鹿児島市紫原6、高野幸祐さん(76)の「ユーウィルビ─」(24日)
▽出水市高尾野町上水流、松尾繁さん(73)の「輝く瞳を見たよ」(6日>
▽同市文化町、御領満さん(61)の「自前床屋」(5日)
──の3点です。
このところ、年配の方の投稿が多いせいか、お孫さんのエピソード、お若い時の思い出、看病、介護、ご夫婦の日常などが、素材としては多数を占めます。嘱目の題材をとりあげること自体はむしろ随筆の王道ですが、その表現に一工夫欲しいと感じます。料理の先生がよく言う、一手間かけるとおいしくなります、というあの呼吸です。
高野さん「ユーウィルビー」は、批評精神が軽□のなかに息づいています。確かに「地デジ」のPRのテレビを見ていると、強迫観念に取りつかれてしまいます。おそらく戦前の「ぜいたくは敵だ」などの標語による国民洗脳の時代もこうだっ
たのでしょう。私たちにはそれに対して、言葉による揶揄という武器があります。戦前にもこの標語の「敵」の前に「す」をつけた人がいました。
松尾さん「輝く瞳を見たよ」は、小学校での読み聞かせボランティアの経験談です。子供が、物語の仮構性によって夢を紡ぎ自己を形成するという感想は、言語表現の本質を指摘した貴重なものだと思います。
御領さん「自前床屋」は、冬の聞の4ヵ月は床屋に行かない、春になると自分でバリカンで刈る、という逸話ですが、何かに怒っているような、やけくそのような、それでいて軽妙な味のある文章です。虫が穴から出てくる啓蟄のころからバリ
ころからバリカンを持ち出すというのが、理屈抜きに、おかしくなります。
小村忍さん「川へのあこがれ」(13日)は川内川、球磨川の源流を踏破した、今度は川辺川だ、というあこがれに満ちた文章です。私たちはなぜ「源」が気になるのでしょう。清田文雄さん「マッサージ」(8日)は座敷犬、福祉施設のお母さ
ん、身体の不自由な奥さんと、一日をマッサージに過し、それが心と心とを結んでいるという、気持のよい文章です。武田静瞭さん「メジロのゴロ寝」(26日)は、縁側にうずくまっている小鳥を写真撮影した話ですが、観察の細かいところを生
かした洒落た文章になっています。
(日本近代文学会評議員、鹿児島大名誉教授・石田忠彦)
ちI編は28日午前8時40分からMBC南日本放送ラジオで朗読されます。
「二見いすずの土曜の朝は」のコーナー「朝のとっておき」です。
2009/3/26 毎日新聞鹿児島版掲載