はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

合格通知の電話

2009-03-30 17:25:53 | はがき随筆
 リリリーン。けたたましく鳴り響く電話。台所で片づけをしていると娘が早足で受話器を取り「はい、はい」と弾んだ声。大学合格の通知だった。「お母さん、大学に受かったよ」。母娘は肩を抱き合って喜び、目頭が熟くなってうれし泣きした。
 通知の日までは、わらにもすがる思いでした。毎晩懸命に頑張った甲斐がありました。塾へも行かず、すべて独学で第1志望に合格。長い冬から春が訪れた。ささやかながらも家族4人で祝杯をあげた。娘が18歳の青春、大学合格通知のひとこまでした。今では2人の子供に恵まれ、毎日奮戦の模様です。
   加治木町 堀美代子(64) 2009/3/30 毎日新聞鹿児島版掲載




もったいなや

2009-03-30 17:01:39 | はがき随筆
 就職浪人中の息子は、7年ぶりに自宅で誕生日を迎えた。就職も決まったことだしと奮発して特上のすしを頼んだ。普段は素通りする酒類売り場で500㍉㍑の缶ビールも1缶買った。
 ケーキのろうそくに火を着けるとこの1年がよみがえり、穏やかに誕生日を祝えることに深く感謝した。缶ビールを3人のグラスに少しずつ注いで乾杯。
 「たまに飲むとビールもうまいね」と言うので、缶の残りを勧めたが2人とも「もういい」。
元来の下戸家族で結局、飲み残した。もったいなや。350㍉㍑缶にしておけば良かったと、自分の太っ腹を反省。
   出水市 清水昌子(56) 2009/3/29 毎日新聞鹿児島版掲載

    



七回忌

2009-03-30 16:29:56 | はがき随筆
 ガア! ガア! 何かにつかれたようなカラスの鳴き声で目が覚めた。もうろうとした頭の中に幼いころの風景が……。自然が好きだった父と陽春の日ざしの中、ツクシを採りレングを摘み、夕暮れ時は父の大きな影を地面になぞって遊んだ。
 ある夜のこと。父に馬乗りした私が芋をのどに詰まらせ目を白黒。途端に血相を変え夜道を医者まで走った。背中の私は父の必死の思いを覚えている。今では笑い話。早くに親を亡くし苦労した、あの節くれだった手を忘れない。頑固だったけれど愛情を人一倍もらった私。起き抜けにひとり亡き父をしのぶ。
   出水市 伊尻清子(59) 2009/3/28 毎日新聞鹿児島版掲載
   写真はアクアマリンさん