はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

孫と昔話

2006-09-16 23:48:37 | はがき随筆
 連日炎暑が続く中、孫との久しぶりのご対面は日ごろ、のんびり暮らしをしている身には嬉しくもあり……である。毎晩、孫娘2人と私は川の字になって即興で昔話を楽しむ。鼾がうるさいと隅へ追いやられた「じいじ」にもお鉢は回ってくる。
 「昔々あるところに……」「それって桃太郎のパクリとちゃう!」
 4歳の幼子の叫びに大爆笑。新鮮な感動で満たされ、優しい気持ちになれたこの夏。
 頬をなでる涼風に行く夏を惜しみながら孫と過ごしたひとときの時間を懐かしく振り返っている。
   姶良町 中村頼子(61) 2006/9/16 掲載  (写真は本文と関係ありません)

19の春

2006-09-15 23:41:24 | はがき随筆
 吹き込む風も初秋を感じる午後の一時、久しぶりに青春日記を出して見た。「我が青春に悔いなし」とある昭和14年4月。京都レディス洋裁学院に入学。京美人の中に飛び込んだ私は、皆珍しいのか愛してくれ、人気者となった。何もかも珍しくピョンピョン跳んでいる気持ちだった。メジャーをかけて白いガウンを着た。
 土曜日はお花の稽古、月1回はお茶の教室。とても忙しいけれど、胸の中は希望でいっぱいだった。文学好きの友人があちこち文庫を連れ回してくれた。あんな青春を謳歌したのだから、もっともっと元気に悔いなく生きよう。
   さつま町 浅山清子(84) 2006/9/15 掲載

腹筋

2006-09-14 20:00:00 | はがき随筆
 あれっ。太ったかな。久しぶりに着るズボンのウエストが心なしかきつく感じられる。今年4月ごろから更年期障害で体調を崩していたので、2年ほど前から週1、2回1時間程度歩いていたのを休んでいた。病院でもらう漢方薬が効いたのか、最近少しずつ元の調子に戻ってきたが運動をしなかったので前述の有り様だ。そこで夜、布団の上で腹筋をすることにした。最初出来なかったが、鏡台の下に足先を差し込んでみたら1人でも出来る。横の布団では主人が鼾をかいて寝ている。ここ2カ月近く毎日25回前後の腹筋を頑張っている私を知っているだろうか。
   出水市美原町 川頭和子(54) 2006/9/14 掲載

寂しい夏

2006-09-13 22:21:59 | はがき随筆
 7月後半に降った大雨で、出水市を流れる米ノ津川がはんらんし、市街地を中心に大きな被害を出した。
 水害は市民が楽しみにしていた夏祭りや花火大会などの行事もすべて流した。「イベントがなあんもなか夏は、まこて、とぜんなかもんじゃあ(寂しいものだ)」と、ぼやく人もいる。
 また、特養老人ホームK園では、被災者への配慮から恒例の盆踊り、カラオケ大会や花火の打ち上げを取りやめたため、お年寄りたちには寂しい夏になった。
 遠く、水俣・湯之児温泉の納涼花火が夜空をうすく焦がす。心が和む。
   出水市 清田文雄(67) 2006/9/13 掲載

2006-09-12 23:11:11 | はがき随筆
 わたしの命は、一つだけ。

 みんなの命も一つ。

 世界のみんなの命も一つ。

 地球にもらった、命だから、大切にしよう。

 みんなで、楽しく、がんばって、生きようね。
 
 大切な、たった一つの命だから。

   鹿児島市 萩原三希子(9) 2006/9/12 掲載

奇跡

2006-09-10 16:53:41 | はがき随筆
 戦後61年になるが終戦記念日は脳裏から離れない。北支の我が部隊は終戦の3日前から激しい戦闘をしていた。終戦の2日後には国籍不明の飛行機から終戦を知らせるビラがまかれた。兵士はビラを拾い上官に渡して「デマ宣伝です」と言う。敵の激しい銃声も突然やんだ。もしかしてと思っていると翌日の早朝、司令部から兵士が涙目で「終戦だ」と行ってトラックで迎えに来た。
うわさでは私の部隊はソ連との宣戦布告で、ソ満国境に出動命令が出ていたと聞いた。一足違いでソ満国境の出動も消えて翌年5月、悲惨な姿で復員し、郷里に帰ってきた。
   姶良町 谷山 潔(80) 2006/9/10 掲載

ゴールを信じて

2006-09-09 17:21:27 | はがき随筆
 乾杯! 夏の夕暮れ時、和食の膳を囲み、冷たい生ビールで渇いた咽を潤す。ウオーキングを始めて満8年。歩行距離4万㌔に挑戦中の夫が「家族に感謝」の食事会となった。
 過日、健康に関する集いで、ウオーキング地球1周4万㌔、達成者には「歩行距離認定証」が交付されるという団体所属の歩行者には励みになりそうな情報も得たが……。
 単独で、大自然を友に歩き続けるひたむきさと、日々克明に記した「真実の証」が夫にはある。遙かな道程を達成の暁には、世界に一つしかない「メダル」を家族の手で掛けてあげたい。
   鹿屋市  神田橋弘子(68) 2006/9/9 掲載

命の尊さ

2006-09-08 17:33:41 | はがき随筆
 昨年8月のこと。畑仕事の帰り道。足先から熱くなり、吐き気、冷や汗、頭のふらつき、意識がもうろうとなった。ふらふらしながら、草原に伏した。どのくらいの時間倒れていたのか……。遠くで私の名を呼ぶ声が聞こえる。目の前に夫がいた。これで助かったと思い涙があふれた。早速、病院へ。優しい主治医の治療を受けた。「熱中症です。脱水症状を起こしている。命が危ないところだった。水分を十分にとり、安静に」。その後、体力も回復し、暑さには特に気を付けている。残暑の厳しい中、命の尊さを思い、精いっぱい生きてゆきたい。
   出水市 橋口礼子(72) 2006/9/8 掲載

茗荷

2006-09-07 17:11:24 | はがき随筆
 今朝畑の隅で茗荷の花を見つけ、茗荷が好きだった亡父を思い出した。子供の頃、茗荷を食べた父に、翌朝「おはようございます」と、挨拶すると「どなたさんですかね」と惚けて、からかわれた。父は茗荷を食べると物忘れをすると話してくれた。先日、ある季刊誌に「釈迦の弟子に自分の名前さえ忘れる人が、名前を書いた札を背負い暮らした。その後、彼の墓から生えた草に、いつも名を荷なっていたことから茗荷と名付けた」と書いてあった。「おとうさん、そうなんだってね」。夜線香をあげながら父に話しかけた。暗がりの庭からリーン鈴虫の声がした。
   出水市 年神貞子(70) 2006/9/7 掲載

夢とじいちゃん

2006-09-06 17:04:15 | はがき随筆
 「じいちゃんが夢に出てきたので、私も、もうすぐ、そっちに行くからね」と、答えたという9歳の一人娘、三希子。言った本人も夫も私もショックを受けている。三希子には、まだ何回も手術が待っているのだ。宿痾のためと、もう一つ別の方の手術。まさか、じいちゃんが、こんなに早く連れに来るはずはない。あれほど、たった一人の孫娘の三希子を愛し、心配し、祈りながら、楽しみにしていた小学校入学直前に亡くなったのだ。そんなはずないよね、と思う。でも気になる。空はあんなに青いのに。「なんでかなあ……」とつぶやきたくなる。
   鹿児島市 萩原裕子(54) 2006/9/6 掲載

戻ってきた服

2006-09-05 16:55:52 | はがき随筆
 デパートの服売場を通ると、嫌でも流行の服が目につく。「でも、買わないよ」。その場を通り過ぎる。その時、フリーマーケットに送り出した服にどこか似ている。もしかして、今でも着られるのでは、と思った。それは娘がフリーマーケットに出店するからと、私の服を集めて持ち帰った中の1枚だ。早速、ダンボールの中から探して持って来てもらった。ブルーとベージュ系、袖のデザインがおしゃれ。10年前、デパートで「1点ものですよ」と言われ、気分良くして求めたもので懐かしい。崩れた体形をすっぽりと。鏡の前で一回転。いけるいけると、ニヤリ。
 鹿児島市 竹之内美知子(72) 2006/9/5 掲載 

白球の輝き

2006-09-04 16:48:54 | はがき随筆
 この夏、連日の炎天を忘れさせる爽やかな風が郷土を吹き抜けた。その風は甲子園県代表、鹿児島工高の大活躍である。優勝した早稲田実業高に破れはしたが、3勝しベスト4入りを果たした。選手一人ひとりが自分の力を信じ実力を出し切った。スポーツ欄のほかに、地元地域版にも選手の身近な記事「青春譜」、監督の談話、そして応援席、留守組、街の喜びの声など興奮を紙面で届けてくれた。空港で多くの出迎えを受け甲子園の快挙の大拍手。「努力が報われてよかったね。我が母校の後輩たち」。夢の舞台をありがとう!
   鹿児島市 鵜家育男(61) 2006/9/4 掲載 特集版-6

親の意地

2006-09-04 16:39:56 | はがき随筆
 長男から卓球の挑戦を受けてから数年、ようやく対決が実現した。場所は霧島のとあるホテルの一角。15点2セット先取りが勝ちのルール。体育だけは成績も良く上背も私より20㌢以上も高い17歳男子と、中学3年間の部活を経験しただけで標準体型をはるかに上回る中年女性とでは勝負の行方は明らかに思えた。サーブで点を取る息子に、私の方は昔取った杵柄で時々決まるスマッシュしかなかったが、子どもに負けるわけにはいかないという親の意地があった。ジュースが続く。結果意地の分だけ強かった。親辛勝。
   薩摩川内市 横山由美子(45) 2006/9/4 掲載 特集版-5

猫ちゃん

2006-09-04 16:31:22 | はがき随筆
 子猫2頭が居ついてもう2カ月になる。妻は大の猫好きなのだが、お隣の猫が毎日のように遊びに来て食事をしていくので、初めのうちは差し控えていたのだが、ついに「仕方ないわねぇ」と隣の猫用の餌を分け与えるようになった。そのノラちゃん、チャトラとキジトラの雄の兄弟。毎朝縁側に並んで前足をきちんと揃えて座り、首を伸ばして妻の動きを追う。「ハイハイ分かりましたよ」とカリカリを与える。これまでにも経験しているが、成長したらこの兄弟も姿を消すだろう。庭の隅には千葉県船橋で飼っていたころの猫ハナコのお墓がある。
   西之表市 武田静瞭(69)2006/9/4掲載 特集版-4

自然の移ろい

2006-09-04 16:23:47 | はがき随筆
 各地で賑やかに行われた夏祭りも終わり、盆を故郷で迎えた人たちもそれぞれ帰省し、急に回りが静かになった。蝉たちは時間を惜しむかのように力の限り鳴いている。まるで秋の訪れを誘っているように。年を重ねるごとに、年中行事や四季の変化に今まで以上に敏感になり、そして感傷的にさえなる。老いはいろいろなものを失っていく過程でもあると誰かが言った。確かにそうである。でも、老いて初めて味わうことも多い。青春の日々に、自然の移ろいに人生を深刻に感受したことかあっただろうか。
   志布志市 一木法明(70) 2006/9/4 掲載 特集版-3