はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

ないものねだり

2006-11-22 21:45:15 | はがき随筆
 墓参りに帰って来た、と言って神戸に住む友人が十数年ぶりに訪ねてきてくれた。小学生だったお嬢ちゃんが大学生になっていた。「おばちゃん」と話しかけてくる人懐こい笑顔は、子どもの時のままの楽しいおしゃべり。におい立つ若さ。そのしぐさは私をうっとりとさせた。
 これから母子で九州縦断のドライブをするのだと、嬉しそうに話す友人が、私はうらやましくて仕方なかった。
 私にも同じ年ごろの子がいる。何か話しかけても「うん」か「いや」。話し相手にもならない。ほんと味気ない息子たち。
   出水市 清水昌子(53) 2006/11/22 掲載

2006年度毎日ペンクラブ研修会

2006-11-21 17:08:40 | 毎日ペンクラブ鹿児島
 2006年度の研修会は、11月19日、鹿児島市勤労者交流センター13時30分から開催された。
講師にお迎えしたのは、福元正實先生。鹿屋市在住で過去に芥川賞にノミネートされた話題の人。主題は「私の文学体験」。
 高校時代に読んだ林芙美子の「放浪記」や、良き師に出会ったことが、文学への目を開かれたことなどをユーモアを交えて話された。
 また文章を書くときのポイントをアドバイスしてくださり「短歌は凝縮すればよいが、小説は拡散しなければならない。書けば書くほど難しいが、自分でなければ書けないものを書く事が大切」と。参加者は31名。皆さん熱心にユーモアたっぷりな講師の話に聞き入っていました。
 講演の後は各地区毎にミーティング。初めて参加された2名の方も、仲間に加わって賑やかな話し合いが続きました。

手鏡

2006-11-21 16:28:51 | 毎日ペンクラブ鹿児島
 「誕生日に何がほしいか。」と問う人あり。
 あふれる程いただいているので、何にもいらない。
 なのに、欲ばりなわたしはやっぱりおねだりしてしまう。
 「手鏡をください。」
 色はからすのぬれ羽色、シンプルで軽くて使い心地がよさそうだ。
 「鏡よ、鏡、あの人を写しておくれ。」
 呪文をとなえてのぞいたら、写っているのは、七十歳になりたてのわたし。

 正直者の鏡だこと。
   
   鹿屋市 伊地知咲子   2006/11/19 マイペン12号おおすみ版

咲子さんごめんなさい。
原稿を頂きながら、編集長の怠慢でパソコンに取り込むのを忘れました。
せめて罪滅ぼしにと、ブログに書いてます。
これから、「おおすみ版マイペン」はブログで発表しますから読んでね。
 ミス編集長のアカショウビンより

からから天気

2006-11-21 08:32:10 | はがき随筆
 天高く澄み渡るような好天気であるが、一月位雨の降らない日が続いている。農家の方々の稲刈りには絶好の天候である。しかし畑作地はもう砂漠のようであるという。我が家のささやかな庭の花々もまた可愛そう。朝夕の水やりに懸命、これは妻の丹精で1年中花は絶えないのである。庭の隅っこに一坪菜園をしつらえキュウリ2ほん、ナス2本、トマト1本、ネギやピーマン、ニラなどを植えている。先日は大根を蒔いて、せっせと水やりして4日目に芽が出たと喜んでいた。とにかく、一雨降ってくれないかと皆が待っている。
   大口市 宮園続(75) 2006/11/21 掲載

フェイジョア

2006-11-21 00:39:30 | アカショウビンのつぶやき
 



花も実も食べられる珍しい果実「フェイジョア」の収穫が終わった。 20数年前、毎日新聞で紹介されたとき、その文面からはイメージできない不思議な魅力に惹かれ、知り合いから頂いて大事に育てたフェィジョア。
 夫が遺してくれた果樹が次々に枯れしまったときも、これだけは元気に成長し毎年甘い香りを届けてくれる。
 でも本に書いてあるような大きな実をつけることはついぞなかった。
 時々まぐれで大きな実がつくと「これは史上最大だ、写真に撮っておけ」とダンナは言っていたなぁ。
 それが今年はフェイジョアの近くにニガゴリ(鹿児島ではこう呼びます)を植え、堆肥をいっぱい入れたせいか、とっても大きな実がついた。枝を揺すって落ちた時が食べ頃という青い実は、今年もご近所やお友達に差し上げて喜ばれた。
 市場に出ない珍しい果実なので、夫は名前と食べ方をイラストに描いて差し上げていたが、毎年「これ何だったっけ…」と。
 全く知名度の上がらぬフェィジョアだが、その原因は小枝がは絡み合い樹形がすっきりしないため庭木に選ばれないせいなのかもしれない。花と実が付く時以外は全く見栄えのしないこの木を植えてくれた夫に感謝。
 曲がりくねった枝々はもう来年のために栄養を蓄えているのだろうか。「そろそろお礼肥えをやらなくちゃ」と考える、アカショウビンです。
 


音楽・芸能祭の日

2006-11-20 23:09:36 | はがき随筆
 とうとう2年前から取り組んだ音楽・芸能祭の日が来た。どんどん来場者が続き、出水市音楽ホールは300席を超える満席。演奏前から胸は滾った。念願のハープとフルートに合わせたソプラノの「川内川」と「荒城の月」が会場に響く。じーんと涙がにじむ。しみじみとさせた「ツル物語」、「長崎の鐘」や日舞の「岸壁の母」にも感激。バイオリンの繊細な音色と、オペラの楽しく柔らかい七色の声にも、皆さん「うーん」と唸られていた。多くの方々に支えられたこと。拍手をいただいたこと。感激でいっぱいになった。命を輝かせてもらった日だった。
   出水市 小村 忍(63) 2006/11/20掲載

入院

2006-11-20 22:57:32 | かごんま便り
 胸の検査をしていた医師の表情が急に厳しくなった。「今日は、ご家族の誰かと一緒ですか」の問いに「家族は福岡で、鹿児島は単身赴任です」と答えながら、「こりゃ大変な事になったかも」と思った。
 深夜から続いた初めて経験する胸の痛み。冷や汗、嘔吐感、痛みは歯茎へも広がった。夜が明け近くの内科へ行ったら即、循環器専門の病院を紹介された。診断結果は急性心筋梗塞。集中治療室へ運ばれた。
 主治医は福岡の自宅に電話してくれ、「現在は安定しているが危ない状態です」「病院に(生きて)来られたこと自体がラッキーでした」などと説明したという。家族も突然の電話に驚いたらしい。
 こちらは腕には点滴のチューブ、ベッドで絶対安静状態。後から聞いて、そんなに危険な状態だったのかと知った。歩いて来院したことに医師はあきれた様子で「救急車は考えなかったのですか」とも言った。
 数日間はベッド上で〝座って半畳、寝て一畳〟の生活。医療機器に囲まれて、寝るか座るかしか動けなかった。胸の痛みが取れたら、活字を読みたいという気持ちに駆られた。新聞や本は多分許されないだろう。尋ねるのもはばかられた。あちこち見回すと小さな文字が目に付いた。
 点滴を一定量流す機器の側面に点滴のチューブのセット方法が書いてあった。「①チューブクランプを解除する②強く押し込む③チューブガイドの奥までしっかり入れる④チューブを軽く引きながらまっすぐに⑤ドアを閉める※正しくセットされないとドアが閉まりにくいことがあります」とあった。
 決して自分ではチューブをセットしたり、扱うことはない医療機器だが、何回も繰り返し読んだので暗記してしまった。体調が安定してから足の付け根の血管からカテーテルを入れての検査、そして手首からカテーテルを入れて詰まっている心臓の血管を膨らませる治療をしてもらった。
 入院から退院まで約3週間。今、少しずつ体を慣らしている。まさか、48歳で心筋梗塞になるとは思ってもいなかった。しかし、私より若い30代の人も入院していたし、40代で運ばれる人も多いという。
 少し寂しいが「もう若くはないぞ」と体が音を上げ、警告してくれたのだろう。私もそんな時期を迎えた。
   毎日新聞鹿児島支局長 竹本啓自(2006/11/20 掲載)

名所大地図

2006-11-19 22:11:18 | はがき随筆
 体調不良から旅行もままなるまいと思って買った大地図帳が、名勝地から山、川、湖、島はもとよりローカル線、テーマパークとガイド、写真入りで盛りだくさん。毎日読んでいると皮肉にも、俄然、旅行に行きたくなった。
 そこで、行った所が大の藤村ファンの友人と道連れの木曽路。中津川駅から田舎のバスに揺られて着いた所は、江戸時代にタイムスリップしたような妻籠宿。町並みは、空気が澄んで騒音がない。電柱も広告もない。現代の奇跡がそこにあった。
 地図帳は地名を覚えて頭の体操になるし、全国を旅した気分になれる。
   鹿屋市 上村 泉(65) 2006/11/19 掲載
写真は本文と関係ありません。

秋桜

2006-11-18 09:02:19 | はがき随筆
 義母は花を愛し、野菜作りの名人だった。家の周りには花がいっぱい。畑にはナスやキュウリなど取れすぎては近所に配り「人の喜ぶ顔はうれしい」が口癖だった。
 久しぶりに里帰り。主のいない畑は草が生い茂り、なお寂しさが増す。
 かつて手植えだった、あなたのコスモスが一人で咲き誇り、夕日に輝いています。
 間もなく6回目の命日です。
 忙しそうにクワを持つ姿が思い出されます。
 あの笑顔に夢の中でもいい。もう一度、義母に会いたい。
   指宿市 有村好一(57) 006/11/18 掲載
写真は南さんよりお借りしました。

陶芸に一心

2006-11-17 08:28:19 | はがき随筆
 妻は陶芸に一心である。まわりは暗いのに、、まだまだ陶芸に打ち込んでいる。素焼きされた一つ一つの作品に丹念に色づけをやっている。何日も続いている。午前0時を過ぎる日もある。本焼きまでには、まだ時間がかかりそうである。作品の出来上がり時の喜び、妻にとっては努力が報われたものであろう。一つ一つの作品に恋も芽生えてもきそう。初釜での素焼き、本焼きに接し、一人の陶芸家への道を歩み始めてもいくことだろう。小屋の灯はびくともせずに煌々と照らし出している今である。
   出水市 岩田昭治(67) 2006/11/17 掲載

2006-11-16 10:40:05 | はがき随筆
 夏の西日を遮り涼風を屋内に運んでくれた柿の木に、まだらではあるが柿が実った。
 夫が裏山から高枝鋏に代わる長い竹を探して来て先端に切れ目を入れた。葉っぱで見え隠れする柿を「もっと右、もっと上……」と声を掛け合いながら夫がちぎり落とすと、私が待ち受け草むらに落ちた柿を拾う。
 もちろん野鳥たちに残しておくことも忘れない。
 焼酎で渋抜きして2~3日、日向に置いておくと、おいしい柿に変身する。毎年、懐かしい味がすると好評だ。その柿の木も紅葉が始まった。
  垂水市 竹之内政子(56) 2006/11/16 掲載
写真はバセさんよりお借りしました。

彼岸花

2006-11-15 09:50:27 | はがき随筆
 思い起こすと高校3年の秋だった。「それじゃ」「じゃあね」と私は橋のたもとで彼女と別れた。何一つ思う事を話せなかった。甲突川の土手を歩く私には、対岸に真っ赤に群れ咲く彼岸花の道を帰る彼女の姿がまぶしかった。思い切って「さようならー」と叫び手を振ると、「さようならー」と返ってきた。あんなに明るい大きな声が出るんだと、胸がときめいた。あれから55年たった今、あの土手も冷たい石垣やセメントに様変わり、もう彼岸花も咲いていない。そして私の手にしている同窓生名簿には、彼女の名前の横に「物故」と寂しく印されている。
   鹿児島市 高野幸祐(73) 2006/11/15 掲載
写真はバセさんよりお借りしました。

真夜中のワルツ

2006-11-14 08:33:04 | アカショウビンのつぶやき
 遠くでかすかな音、何だろう…。しばらくして3拍子のリズムを刻む音がはっきり聞こえてようやく眼が覚めた。あっそうか、数日前ゴミ箱に放り込んだメトロノームだ。
 リズムの難しい曲に挑戦中、古いメトロノームを思い出して、30年ぶりにゼンマイを巻いてみたが、カチッカチッで終わり。息子の赤バイエル卒業記念の品だが諦めてゴミ箱へ。それが真夜中に正確なリズムを刻みだしたらしい。
 夏の初め12年頑張ったエアコンが故障、夏の終わりには22年も働いた冷蔵庫が遂にダウンした。メトロノームも処分場のゴミとなるところを「まだまだ元気よ」と真夜中にワルツを演じて存在をアピールしたらしい。
 お年寄り同士、これからも助けておくれ。〈アカショウビン〉

探していこう

2006-11-14 07:51:41 | はがき随筆
 「じょいやさ、じょいやさ」
 かさこじぞうの読み聞かせの中で、登場人物についていろいろな意見が出された。
 「おじいさんやおばあさんが持っている優しさは、人間本来のもので、人間って本質的にはこんなものなんだよという思いが、伝わってきます」
 なるほど。民話の中に、人間そのもののよさを発見したら、何だか楽しくなってきた。心が躍る。優しさが特別なものではなく、自然なものとなったなら、どんなに素晴らしいことだろう。いろいろな民話に親しんで、探していきたい。
   出水市 山岡淳子(48) 2006/11/14 掲載

季感

2006-11-12 20:00:25 | はがき随筆
 ラジオ体操の上空をハト、ヒヨ、カワラヒワが2、3あるいは十数羽群れ飛ぶ。なかでもカワラヒワは冬鳥とばかり思っていた。図鑑で確認すると留鳥だった。
 さっそく抜いた鶏頭の花殻をフェンスに立てかけて餌と供する。あまり小粒でだめかな。いつか氷雨の丘で萩の実(たね)を啄んでいるのを見たので粒のことが気になる。ヒマワリの種にも来たのだろうか。くちばしの形が餌と関係あるから。
 爽やかになると、小鳥たちの声も一段と際立ち透明な秋の深さを感じる。
 私を認めておりておいで!
   鹿児島市 東郷久子(72) 2006/11/13 掲載
写真はBird Watching さんよりお借りしました。