PPGでのサーマルソアリング
はじめに
1 サーマルの基本形態
2 サーマルと遭遇する
3 レベルフライトからのアプローチ
4 8の字旋回を使う
5 推力の使い方
6 体重移動について
7 PTEの積極利用
8 加重適応
9 滑空飛行からのアプローチ
10 イメージを使う
11 途中でサーマルを外したら
12 飛行機材について
はじめに
PPGの運用は動力飛行が基本ですが、使用機材の滑空部分(グライダー)が滑空スメ[ツのパラグライダーと同様であり、運用の仕方次第ではPPGを補助動力的に使用することは充分可能で、大自然の上昇風を利用することによって更に自由度の高い楽しい飛行が可能になります。それはまた、PPG飛行においてもしばしば遭遇する乱気流の一種である熱上昇風がどのような性質のものであるかを理解する上で最良の方法ともなるでしょう。
私はもともとパラグライダーのクロスカントリーパイロットであり、大自然が生み出すエネルギーの強大さには常に驚嘆すると同時に、これまで色々試行錯誤しながら動力を利用したソアリング飛行を模索してきました。しかし、その総合的技能はまだまだ未熟であり未知の事柄も数多くあります。ただ、その楽しさの一端は充分経験しているので、PPGである程度以上の技能を持っているパイロットを対象に、まずこの「PPGでのサーマルソアリング」をテーマにその方法について書いてみたいと思います。
※ここでの「ある程度以上の技能」とは「動力使用時にフライトに影響する基本的な力作用」に充分対応できることに加えて、サーマルコンディション(大概は多少とも荒れた大気)の中でも安定したフライトが出来ること」を意味しています。
熱上昇風を利用したソアリング技術の詳細については、パラグライダー関係の書物やWEBサイトなどでも数多く述べられているので、ここでは飛行の為の3要素である「人・機材・飛行環境」の観点から、なるべく具体的に実際のフライトで即役に立つようなものにしていきましょう。
1 サーマルの基本形態
サーマルソアリングする為には言、までも無くまずサーマルが無ければなりません。サーマルの多くは平地や山の斜面が太陽からの輻射熱で熱せられてその表面の大気が温まり、周囲の大気より軽くなる「浮力」によって上方に移動することによって発生します。特に大気の湿度が高くて気温減率による温度低下によって、上昇中にその中の水蒸気が水滴に変化する時に「潜熱」を放出することによっても熱が供給されます。発達中の雲の下で経験する「吸い上げ」の多くはこの潜熱放出によるものです。
森林が吸収した熱の放出による穏やかな「アーベント」や海岸近くで見られる「コンバージェンス」による上昇風帯などについては、特別なソアリング技術を必要としないので今回は触れません。
平地から発生するサーマルの中で最も多い形態は「バブルサーマル」と「コラムサーマル」です。バブルサーマルとは字義通りバブル(泡)のようなサーマルで発生源からブクブク泡のように出てきて、低い場所ではそれぞれが独立していますが上昇するに連れて集まり、それに気圧低下による膨張作用が加わって上昇するに連れて徐々に大きなものになっていきます。
太陽からの熱供給が充分でなかったり上空の大気が暖かい時、高気圧下の全体的な下降風に抑えられて上昇力が弱い時は集合作用が弱くなって、単独の弱い気泡のまま終わってしまうこともあります。こういう場合は一度センタリングに失敗して逃がしてしまうと再び捉えなおすことはまず不可能になります。
コラムサーマルとは、地上からの熱供給が絶えることが無く一本の柱(円柱)のようになって連続的に安定して上昇風を生み出しているもので、似たような高度に継続して存在しているので全体像も掴みやすくセンタリングも容易です。
これらの上昇風の周辺は通常それらを取り囲むようにちょうどドーナツ状に下降風帯を形成しています。
2 サーマルと遭遇する
パラグライダー(動力を一切使わない形態としてピュア・パラグライダーという表現もあります)のテイクオフの多くは山の頂上や斜面に位置しており、発生したサーマルは山の斜面との摩擦などによってより高い特定の場所(尾根筋)に集まろうとする性質を持っているので、テイクオフ地点は通常サーマルが集まりやすい地形になっています。
ところが、PPGは通常平地からテイクオフするので、必ずしもテイクオフ周辺にサーマルがあるとは限りません。これが、PPGでのサーマルソアリングを困難なものにしている「飛行環境」上の理由の一つです。山岳部から離れた平地上空のサーマルを「グランドサーマル」と呼んびますが、斜面(リッジ)から大きく離れて目標物が見つけにくい空間でのサーマルヒットやセンタリング(サーマルを捕まえる為の連続360度旋廻)は山岳部でのものよりもはるかに難しいのが通常です。
ではどうやってこれらの(見えにくい)サーマルと遭遇するか・・。
今まで述べた様にサーマルに遭遇する為には、太陽熱で地面が充分暖まって大気の循環が激しくなる時間帯(サーマルタイム)にテイクオフする必要があります。ところが、この時間帯はテイクオフ周辺の大気も相当荒れていて、低い高度ではバンピー(ガタガタする)コンディションになっていることが普通です。だからまず、その大気の状態が自分の飛行技量の限界を超えていないかどうか、慎重かつ適切に判断することが必要です。無理をすると仮にかろうじてテイクオフできたとしても利用できそうなサーマルに出会う前に危険な状況に陥ることになります。
また、サーマル発生源は上昇大気による気圧低下を補う為に周囲から冷気が流入するので水平方向の風速も強くなっています。(つまり風向風速ともに不安定になる)低高度では風の本流に加えてこの流入風や地形風、更に地表の樹木や建物などの構造物の影響でサーマルの様相は非常に複雑に成っているので、そのサーマルの全体形状と性格が把握できない限りは、良いリフトがあったからといって慌てて急激なセンタリングを開始すべきではありません。
3 レベルフライトからのアプローチ
動力飛行のPPGの大きな利点は、任意の高度や空域を燃料が続く限り反復・継続して飛行する事ができるなどその自由度の高さにあるので、まず、この能力を使うことにしましょう。準備として・・前もって静大気の中での自分のグライダーの沈下率(直線滑空時と滑空旋廻時)と、レベルフライトでのエンジンの回転数(レベルパワー)を正確に把握しておいて下さい。
大気のコンディションにも寄りますが、緩やかな旋回半径でもサーマルの中に留まっている為には、サーマルの半径もそれなりに大きくないといけません。 強力なサーマルと小さくて巧みな旋回半径があれば、高度50m位からでもセンタリングが可能で、それに成功すると一つのサーマルでそのまま逆転層まで上昇することも出来ますが、これにはかなり高度な技術が必要です。
最初は高度を300m程度に上げてレベルフライト(水平飛行)でサーマルヒットを狙うようにした方が分かり易いし、サーマルもある程度の規模に成長していてグライダーの旋回半径も大きくて済むので楽です。 また、レベルフライトならユニットの音や振動も一定で、グライダーの姿勢変化も把握しやすい状態になっています。
サーマルに出会う直前は大概シンク(下降風)帯に出会います。レベルフライトをしていて、グライダーが急に揺れたり降下し始めたら、「しめた!」と思わなければいけません。そして決してレベル飛行を維持しようとしてパワーを上げないこと。そのままのパワーで降下するに任せておけば、大概はその内上昇に転じる時が来ます。これがサーマルヒットした瞬間です。とりあえず反動トルクが作用している方向(多くは右側)にゆっくり旋廻を始めます。
グライダーがサーマルの端に当たった場合は左右どちらかの翼がグッと持ち上げられるので、持ち上がった方向に旋廻を開始します。パワーは変化させないでそのまま保持します。一回目のセンタリング(360度旋廻)で高度をゲインしたかどうかバリオで確認してください。慣れてくると旋廻しながらバリオを視認することが出来るようになります。一旋廻した後、高度ゲインがあれば、とりあえずセンタリングの方向は間違ってないことになります。そのまま旋廻を続けますが、バリオを注意して見ていると旋廻の途中で上昇率が変動しているのに気付くはずです。静かなユニットではバリオの上昇音が聞こえる場合もあります。
最も上昇率が高いところを探しながら徐々に旋回半径を小さくしていきますが、およそ最も上昇率の良い所で旋廻半径を絞っていくとだんだんサーマルの中心(コア)に近づいていき、上昇率も大きくなって安定してきます。
はじめに
1 サーマルの基本形態
2 サーマルと遭遇する
3 レベルフライトからのアプローチ
4 8の字旋回を使う
5 推力の使い方
6 体重移動について
7 PTEの積極利用
8 加重適応
9 滑空飛行からのアプローチ
10 イメージを使う
11 途中でサーマルを外したら
12 飛行機材について
はじめに
PPGの運用は動力飛行が基本ですが、使用機材の滑空部分(グライダー)が滑空スメ[ツのパラグライダーと同様であり、運用の仕方次第ではPPGを補助動力的に使用することは充分可能で、大自然の上昇風を利用することによって更に自由度の高い楽しい飛行が可能になります。それはまた、PPG飛行においてもしばしば遭遇する乱気流の一種である熱上昇風がどのような性質のものであるかを理解する上で最良の方法ともなるでしょう。
私はもともとパラグライダーのクロスカントリーパイロットであり、大自然が生み出すエネルギーの強大さには常に驚嘆すると同時に、これまで色々試行錯誤しながら動力を利用したソアリング飛行を模索してきました。しかし、その総合的技能はまだまだ未熟であり未知の事柄も数多くあります。ただ、その楽しさの一端は充分経験しているので、PPGである程度以上の技能を持っているパイロットを対象に、まずこの「PPGでのサーマルソアリング」をテーマにその方法について書いてみたいと思います。
※ここでの「ある程度以上の技能」とは「動力使用時にフライトに影響する基本的な力作用」に充分対応できることに加えて、サーマルコンディション(大概は多少とも荒れた大気)の中でも安定したフライトが出来ること」を意味しています。
熱上昇風を利用したソアリング技術の詳細については、パラグライダー関係の書物やWEBサイトなどでも数多く述べられているので、ここでは飛行の為の3要素である「人・機材・飛行環境」の観点から、なるべく具体的に実際のフライトで即役に立つようなものにしていきましょう。
1 サーマルの基本形態
サーマルソアリングする為には言、までも無くまずサーマルが無ければなりません。サーマルの多くは平地や山の斜面が太陽からの輻射熱で熱せられてその表面の大気が温まり、周囲の大気より軽くなる「浮力」によって上方に移動することによって発生します。特に大気の湿度が高くて気温減率による温度低下によって、上昇中にその中の水蒸気が水滴に変化する時に「潜熱」を放出することによっても熱が供給されます。発達中の雲の下で経験する「吸い上げ」の多くはこの潜熱放出によるものです。
森林が吸収した熱の放出による穏やかな「アーベント」や海岸近くで見られる「コンバージェンス」による上昇風帯などについては、特別なソアリング技術を必要としないので今回は触れません。
平地から発生するサーマルの中で最も多い形態は「バブルサーマル」と「コラムサーマル」です。バブルサーマルとは字義通りバブル(泡)のようなサーマルで発生源からブクブク泡のように出てきて、低い場所ではそれぞれが独立していますが上昇するに連れて集まり、それに気圧低下による膨張作用が加わって上昇するに連れて徐々に大きなものになっていきます。
太陽からの熱供給が充分でなかったり上空の大気が暖かい時、高気圧下の全体的な下降風に抑えられて上昇力が弱い時は集合作用が弱くなって、単独の弱い気泡のまま終わってしまうこともあります。こういう場合は一度センタリングに失敗して逃がしてしまうと再び捉えなおすことはまず不可能になります。
コラムサーマルとは、地上からの熱供給が絶えることが無く一本の柱(円柱)のようになって連続的に安定して上昇風を生み出しているもので、似たような高度に継続して存在しているので全体像も掴みやすくセンタリングも容易です。
これらの上昇風の周辺は通常それらを取り囲むようにちょうどドーナツ状に下降風帯を形成しています。
2 サーマルと遭遇する
パラグライダー(動力を一切使わない形態としてピュア・パラグライダーという表現もあります)のテイクオフの多くは山の頂上や斜面に位置しており、発生したサーマルは山の斜面との摩擦などによってより高い特定の場所(尾根筋)に集まろうとする性質を持っているので、テイクオフ地点は通常サーマルが集まりやすい地形になっています。
ところが、PPGは通常平地からテイクオフするので、必ずしもテイクオフ周辺にサーマルがあるとは限りません。これが、PPGでのサーマルソアリングを困難なものにしている「飛行環境」上の理由の一つです。山岳部から離れた平地上空のサーマルを「グランドサーマル」と呼んびますが、斜面(リッジ)から大きく離れて目標物が見つけにくい空間でのサーマルヒットやセンタリング(サーマルを捕まえる為の連続360度旋廻)は山岳部でのものよりもはるかに難しいのが通常です。
ではどうやってこれらの(見えにくい)サーマルと遭遇するか・・。
今まで述べた様にサーマルに遭遇する為には、太陽熱で地面が充分暖まって大気の循環が激しくなる時間帯(サーマルタイム)にテイクオフする必要があります。ところが、この時間帯はテイクオフ周辺の大気も相当荒れていて、低い高度ではバンピー(ガタガタする)コンディションになっていることが普通です。だからまず、その大気の状態が自分の飛行技量の限界を超えていないかどうか、慎重かつ適切に判断することが必要です。無理をすると仮にかろうじてテイクオフできたとしても利用できそうなサーマルに出会う前に危険な状況に陥ることになります。
また、サーマル発生源は上昇大気による気圧低下を補う為に周囲から冷気が流入するので水平方向の風速も強くなっています。(つまり風向風速ともに不安定になる)低高度では風の本流に加えてこの流入風や地形風、更に地表の樹木や建物などの構造物の影響でサーマルの様相は非常に複雑に成っているので、そのサーマルの全体形状と性格が把握できない限りは、良いリフトがあったからといって慌てて急激なセンタリングを開始すべきではありません。
3 レベルフライトからのアプローチ
動力飛行のPPGの大きな利点は、任意の高度や空域を燃料が続く限り反復・継続して飛行する事ができるなどその自由度の高さにあるので、まず、この能力を使うことにしましょう。準備として・・前もって静大気の中での自分のグライダーの沈下率(直線滑空時と滑空旋廻時)と、レベルフライトでのエンジンの回転数(レベルパワー)を正確に把握しておいて下さい。
大気のコンディションにも寄りますが、緩やかな旋回半径でもサーマルの中に留まっている為には、サーマルの半径もそれなりに大きくないといけません。 強力なサーマルと小さくて巧みな旋回半径があれば、高度50m位からでもセンタリングが可能で、それに成功すると一つのサーマルでそのまま逆転層まで上昇することも出来ますが、これにはかなり高度な技術が必要です。
最初は高度を300m程度に上げてレベルフライト(水平飛行)でサーマルヒットを狙うようにした方が分かり易いし、サーマルもある程度の規模に成長していてグライダーの旋回半径も大きくて済むので楽です。 また、レベルフライトならユニットの音や振動も一定で、グライダーの姿勢変化も把握しやすい状態になっています。
サーマルに出会う直前は大概シンク(下降風)帯に出会います。レベルフライトをしていて、グライダーが急に揺れたり降下し始めたら、「しめた!」と思わなければいけません。そして決してレベル飛行を維持しようとしてパワーを上げないこと。そのままのパワーで降下するに任せておけば、大概はその内上昇に転じる時が来ます。これがサーマルヒットした瞬間です。とりあえず反動トルクが作用している方向(多くは右側)にゆっくり旋廻を始めます。
グライダーがサーマルの端に当たった場合は左右どちらかの翼がグッと持ち上げられるので、持ち上がった方向に旋廻を開始します。パワーは変化させないでそのまま保持します。一回目のセンタリング(360度旋廻)で高度をゲインしたかどうかバリオで確認してください。慣れてくると旋廻しながらバリオを視認することが出来るようになります。一旋廻した後、高度ゲインがあれば、とりあえずセンタリングの方向は間違ってないことになります。そのまま旋廻を続けますが、バリオを注意して見ていると旋廻の途中で上昇率が変動しているのに気付くはずです。静かなユニットではバリオの上昇音が聞こえる場合もあります。
最も上昇率が高いところを探しながら徐々に旋回半径を小さくしていきますが、およそ最も上昇率の良い所で旋廻半径を絞っていくとだんだんサーマルの中心(コア)に近づいていき、上昇率も大きくなって安定してきます。
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