首藤康之 最後の「ボレロ」
へそくって買った DVD「愛と哀しみのボレロ」
。。。感想が遅くなってしまいました。
原題(仏)は「LES UNS ET LES AUTRES」
(ある人々と他の人々)
───米公開時のタイトルは「BOLERO」
この映画を観た人の感想は どうやら
「感動!」派と「分からない・・・長い・・・」派に二分されます。
私は 数年前に他作品と間違ってビデオ録りしてしまった時
なんの予備知識もなくあまりにも不用意に見始めて・・・だけど その時も
特に「分からない・・・」感はなかったので 今回もたっぷり楽しみました。
時間は176分ということですから 約三時間というのは確かに長いのですが
面白くないとなると あっという間にうたた寝してしまう私が
ちゃんと起きていたので「 面白い」のだ・・・と思うのだけど・・。
なぜ 三時間もの長さになってしまうかというと
何人もの人物が平行して描かれているからなのです。
(1)ロシア人ダンサーの夫婦
(2)パリのユダヤ人楽団員の夫婦
(3)アメリカ人ジャズミュージシャン(モデル:グレン・ミラー)
(4)フランス人シャンソン歌手(モデル:エディット・ピアフ)
(5)ドイツ人ピアニスト(モデル:カラヤン)
この五つの家族の物語がパリ、ベルリン、モスクワ、ニューヨークと
それぞれの地で同時に展開し それぞれに第2次世界大戦に翻弄される。
そして 歳月は経ち・・・アルジェリア戦争後・・・
(1)の息子はダンサーとなり亡命(モデル:ルドルフ・ヌレエフ)
(2)が捨てた赤ん坊は弁護士となり、その息子は歌手になる
(3)の娘はポップス歌手になる(モデル:カレン・カーペンター)
(4)の娘はアナウンサーになる(父親はドイツ人ピアニストの可能性大)
(5)ドイツ人ピアニスト本人のその後(世界的指揮者となっている)
ここで 観る人を混乱させてしまう要因のひとつが 役者の使い方です。
メインの役者のほとんどが 親子などを二役で演じているのです。
しかしこれは 役者の顔ぶれを必要以上に増やさず また同じ役者に
演じさせる事によって 血縁関係を分かりやすくする手法とも言えます。
終盤、いよいよベジャール振り付け ジョルジュ・ドンの踊る
ラヴェル作曲「ボレロ」の出番です。
ここまでは互いに ほとんど関わりのなかった人物達が
ユニセフと赤十字のチャリティー公演を取り巻き
一気にエッフェル塔のあるトレカデロ広場へと集結します。
中盤までの物語の広がり感と歯ごたえからすると ちょっと
捲し立てる様に大団円への突入・・・という感もなきにしもあらず・・・。
「ハウルの動く城の」のラストにも似た感じが 若干 空々しいと言えば
空々しいのですが それぞれの物語が全て最後の見せ場である
ジョルジュ・ドンの「ボレロ」の為の前振りだったのだと思えば
これもあり・・・?
ただ、「ボレロ」は映画の冒頭にも ちょっとだけ出てくるのですが
冒頭で使った部分はラストシーンでは もう繰り返しては出てきません。
つまり一曲が冒頭とラストに分断されているのです。
静かぁ~な序盤から 同じフレーズを繰り返しつつ 段々だんだん徐々に徐々に
激しさを増していくこの曲と その振り付けの醍醐味が半減してしまう様で
二つに分けてしまったのは ちょっと残念です。
でもね、「ボレロ」は重要なモチーフではあるけれど 話の本筋には
関係ないので 事前に特別な知識は必要ありません。
さて、登場人物ですが そのモデルのほとんどは実存します。
それに関しては 映画の冒頭でも語られているのですが
必ずしも人物像をそのまま描いているわけではなく
エピソードだけを部分的に使っている場合もあります。
たとえば・・・
戦時下のパリでナチスと深く関わりを持ったシャンソン歌手は
戦後ひどく非難され帰郷します。
しかしパリでの行いは そこでも許される事はなく 帰郷の翌日
自らの命を絶ってしまいます。
しかし 彼女のモデルとされているピアフ自身についていえば、
彼女がナチスと関わりを持った事や そのことへの非難は ともかくも
戦後 彼女は、ストリートから劇場へ そして「愛の賛歌」という
名曲を残す世界的歌手へと躍進を遂げていくことになるのです。
“グレン・ミラー”と“カーペンターズ”の親子関係はもちろんですが
実際に亡命をしたロシア人ダンサーの“ヌレエフ”の両親の物語等も
フィクションと思われます。
ここでちょっと ダンスのお話し・・・
ベジャール振り付け ラヴェルの「ボレロ」におけるメロディ(メインパート)は
ベジャールが踊る事を許可したダンサーでなければ踊る事が出来ません。
日本では「チャイコフスキー記念 東京バレエ団」がレパートリーとし
高岸直樹と首藤康之の二人が担ってきましたが、
首藤康之は「ベジャール・ガラ2004」をもって東京バレエ団を退団。
同時に「ボレロ」も卒業となりました。
現在は特別団員として後進の指導に当たりつつ演劇、映画など
これまでと違ったジャンルにも挑戦しています。
さて、首藤康之の退団とほぼ時を同じくして 上野水香が牧阿佐美バレヱ団を
退団し 東京バレエ団へと移りました。
きっと「ボレロ」を踊りたいための移籍だろうなと思っていたら 案の定!
「2005ニューイヤーズ・ガラ」で「メロディ」を踊っていました。
そもそもベジャールは この「ボレロ」のメインパート「メロディ」を
女性ダンサーの為に振り付けており(プリセツカヤも踊っています)、
近年では シルヴィ・ギエムも「メロディ」を踊ることの出来る
ダンサーのひとりです。
ところで、私の「ボレロ」体験はというと・・・
ギエムや上野水香にも興味は尽きませんが、こちらは まだ観ていません。
しかし 幸い・・・と言っていいと思うのですが
首藤康之が「メロディ」を踊る「ボレロ」を 退団一年前に観る事が出来、
「良いものは良い!!」を実感しました。
2003年の「SWAN LAKE」仏公演と日本公演の狭間で 短髪だったので
髪振り乱して踊るイメージとは ちょっと違っていましたが・・・。
ありゃりゃ・・・映画の感想から逸れてしまいましたが・・・
バレエやダンスに興味のある方には「リトル・ダンサー」も是非 観て欲しい
映画です。(SWAN LAKE を踊るアダム・クーパーを
チラッと観る事が出来ます)
骨太な映画がお好みの方にお薦めの二本でした。
長くなってしまってしまいました。
書きたい事がありすぎて 観賞後なかなか UP 出来ませんでした。ふぅ~っ
首藤康之 公式HP
チャイコフスキー記念東京バレエ団
へそくって買った DVD「愛と哀しみのボレロ」
。。。感想が遅くなってしまいました。
原題(仏)は「LES UNS ET LES AUTRES」
(ある人々と他の人々)
───米公開時のタイトルは「BOLERO」
この映画を観た人の感想は どうやら
「感動!」派と「分からない・・・長い・・・」派に二分されます。
私は 数年前に他作品と間違ってビデオ録りしてしまった時
なんの予備知識もなくあまりにも不用意に見始めて・・・だけど その時も
特に「分からない・・・」感はなかったので 今回もたっぷり楽しみました。
時間は176分ということですから 約三時間というのは確かに長いのですが
面白くないとなると あっという間にうたた寝してしまう私が
ちゃんと起きていたので「 面白い」のだ・・・と思うのだけど・・。
なぜ 三時間もの長さになってしまうかというと
何人もの人物が平行して描かれているからなのです。
(1)ロシア人ダンサーの夫婦
(2)パリのユダヤ人楽団員の夫婦
(3)アメリカ人ジャズミュージシャン(モデル:グレン・ミラー)
(4)フランス人シャンソン歌手(モデル:エディット・ピアフ)
(5)ドイツ人ピアニスト(モデル:カラヤン)
この五つの家族の物語がパリ、ベルリン、モスクワ、ニューヨークと
それぞれの地で同時に展開し それぞれに第2次世界大戦に翻弄される。
そして 歳月は経ち・・・アルジェリア戦争後・・・
(1)の息子はダンサーとなり亡命(モデル:ルドルフ・ヌレエフ)
(2)が捨てた赤ん坊は弁護士となり、その息子は歌手になる
(3)の娘はポップス歌手になる(モデル:カレン・カーペンター)
(4)の娘はアナウンサーになる(父親はドイツ人ピアニストの可能性大)
(5)ドイツ人ピアニスト本人のその後(世界的指揮者となっている)
ここで 観る人を混乱させてしまう要因のひとつが 役者の使い方です。
メインの役者のほとんどが 親子などを二役で演じているのです。
しかしこれは 役者の顔ぶれを必要以上に増やさず また同じ役者に
演じさせる事によって 血縁関係を分かりやすくする手法とも言えます。
終盤、いよいよベジャール振り付け ジョルジュ・ドンの踊る
ラヴェル作曲「ボレロ」の出番です。
ここまでは互いに ほとんど関わりのなかった人物達が
ユニセフと赤十字のチャリティー公演を取り巻き
一気にエッフェル塔のあるトレカデロ広場へと集結します。
中盤までの物語の広がり感と歯ごたえからすると ちょっと
捲し立てる様に大団円への突入・・・という感もなきにしもあらず・・・。
「ハウルの動く城の」のラストにも似た感じが 若干 空々しいと言えば
空々しいのですが それぞれの物語が全て最後の見せ場である
ジョルジュ・ドンの「ボレロ」の為の前振りだったのだと思えば
これもあり・・・?
ただ、「ボレロ」は映画の冒頭にも ちょっとだけ出てくるのですが
冒頭で使った部分はラストシーンでは もう繰り返しては出てきません。
つまり一曲が冒頭とラストに分断されているのです。
静かぁ~な序盤から 同じフレーズを繰り返しつつ 段々だんだん徐々に徐々に
激しさを増していくこの曲と その振り付けの醍醐味が半減してしまう様で
二つに分けてしまったのは ちょっと残念です。
でもね、「ボレロ」は重要なモチーフではあるけれど 話の本筋には
関係ないので 事前に特別な知識は必要ありません。
さて、登場人物ですが そのモデルのほとんどは実存します。
それに関しては 映画の冒頭でも語られているのですが
必ずしも人物像をそのまま描いているわけではなく
エピソードだけを部分的に使っている場合もあります。
たとえば・・・
戦時下のパリでナチスと深く関わりを持ったシャンソン歌手は
戦後ひどく非難され帰郷します。
しかしパリでの行いは そこでも許される事はなく 帰郷の翌日
自らの命を絶ってしまいます。
しかし 彼女のモデルとされているピアフ自身についていえば、
彼女がナチスと関わりを持った事や そのことへの非難は ともかくも
戦後 彼女は、ストリートから劇場へ そして「愛の賛歌」という
名曲を残す世界的歌手へと躍進を遂げていくことになるのです。
“グレン・ミラー”と“カーペンターズ”の親子関係はもちろんですが
実際に亡命をしたロシア人ダンサーの“ヌレエフ”の両親の物語等も
フィクションと思われます。
ここでちょっと ダンスのお話し・・・
ベジャール振り付け ラヴェルの「ボレロ」におけるメロディ(メインパート)は
ベジャールが踊る事を許可したダンサーでなければ踊る事が出来ません。
日本では「チャイコフスキー記念 東京バレエ団」がレパートリーとし
高岸直樹と首藤康之の二人が担ってきましたが、
首藤康之は「ベジャール・ガラ2004」をもって東京バレエ団を退団。
同時に「ボレロ」も卒業となりました。
現在は特別団員として後進の指導に当たりつつ演劇、映画など
これまでと違ったジャンルにも挑戦しています。
さて、首藤康之の退団とほぼ時を同じくして 上野水香が牧阿佐美バレヱ団を
退団し 東京バレエ団へと移りました。
きっと「ボレロ」を踊りたいための移籍だろうなと思っていたら 案の定!
「2005ニューイヤーズ・ガラ」で「メロディ」を踊っていました。
そもそもベジャールは この「ボレロ」のメインパート「メロディ」を
女性ダンサーの為に振り付けており(プリセツカヤも踊っています)、
近年では シルヴィ・ギエムも「メロディ」を踊ることの出来る
ダンサーのひとりです。
ところで、私の「ボレロ」体験はというと・・・
ギエムや上野水香にも興味は尽きませんが、こちらは まだ観ていません。
しかし 幸い・・・と言っていいと思うのですが
首藤康之が「メロディ」を踊る「ボレロ」を 退団一年前に観る事が出来、
「良いものは良い!!」を実感しました。
2003年の「SWAN LAKE」仏公演と日本公演の狭間で 短髪だったので
髪振り乱して踊るイメージとは ちょっと違っていましたが・・・。
ありゃりゃ・・・映画の感想から逸れてしまいましたが・・・
バレエやダンスに興味のある方には「リトル・ダンサー」も是非 観て欲しい
映画です。(SWAN LAKE を踊るアダム・クーパーを
チラッと観る事が出来ます)
骨太な映画がお好みの方にお薦めの二本でした。
長くなってしまってしまいました。
書きたい事がありすぎて 観賞後なかなか UP 出来ませんでした。ふぅ~っ
首藤康之 公式HP
チャイコフスキー記念東京バレエ団