認知症になった父親を、次男幹夫が介護する話。
同棲相手と別れて、実家近くに喫茶店を開いていたが、介護していた嫂が亡くなり、同居して介護する話。
うーーむ、介護度は要介護度は3くらい?食事、トイレなどは自立。ときたま認知症の症状が出る。主なのは今の時間が分からなくなることと徘徊。家を飛び出すと幹夫もついて行き、納得するまで歩かせて帰って来る。
いつも行く公園で佳代子に出会う。佳代子は年寄りの扱いがうまく、次第に父も心を開く。佳代子は離婚後介護施設で働いていたが、施設を跳び出した利用者が事故死したことがトラウマになり、次の一歩が踏み出せずにいた。
しかし、幹夫親子と交流するうちにまた介護職に戻ると打ち明けてくれる。幹夫は思い切って「うちへ来てくれないか」と頼む。
そうやって佳代子が通いでヘルパーに来る日々が始まった。報酬は週払いで3万円。この小説には説明がないけれど、土日休みとしたら一日6千円、時給は700円から800円交通費込みと言うところ。単行本発行が2007年としても、この時給安すぎるのではないだろうか。
父親は食事もトイレも自立、介護と言っても話し相手したり、一緒に習字したり、と楽そうである。佳代子は介護のプロであると同時に母性の固まりのような人。その優しさに父親も幹夫もたいそう心が安らぐ。
やがて幹夫は住み込みで働いてほしいと頼み、佳代子はカバン一つでやってくる。そしてその夜、二人は深い仲になる。
いやあ、幹夫のこんな介護なら楽だなあと私は思った。これからが本番。ご飯食べさせて、排泄の世話をして、いつ終わるとも知れない(いつかは必ず終わるけれど)格闘としての介護が待っている。
亡くなった嫂の夏美は献身的に介護していたし、佳代子もまた天使のように父親に接する。そして幹夫を女性としても相手してくれる。これってファンタジーだと思った。
殆どの場合、徘徊する父親について歩いても天使には出会わない。その人が家に週払い3万で来てくれて、夜は自分の相手もしてくれる。。。。って、男の書く介護小説ってこんなものかなあと思った。
これからが大変です。週3万では済まないだろうし、それならば、結婚して今度は無償で介護させるのかな。自分が家の経済を支えるため働きに出て、妻に介護を頼む流れになるのかな。
妻に親の介護の報酬を払う男はいないので(たぶん、我が家もそうでしたよ)、なんで私ばかりただ働きと妻が切れる・・・いえいえそれは私の場合で(お金はどうでもよろしい。困った人に世話するのは当然。それに対して、夫及び夫親族から感謝の言葉がないばかりか、まるで私は初めから存在しないような言動の数々に傷つく)、作者の造形した心優しい佳代子さんに限ってそんなことはない。
けれど、尽くしたら尽くしたで、女としての私は悔しい。女には元々無限の無償の愛が備わっているとでも?
先のことはわからない。しばらくはこのままでいられそうな気がする。幹夫の独白で作品は終わる。介護を通じて人と人が心を通わせる美しい話も、三人の気持ちと負担の割合のバランスが何とか取れているから。介護度が進み、それがどうなるか、それはわからない。
ちょっと歯がゆい小説だったかな。現実はもっとシビア。でもそんなのは読まなくてもいいかな。実際に経験したのでもう思い出したくない。と言うのが正直な気持ち。
もう一つの介護の小説。
「テルちゃん」 玄侑宗久 - ブログ (goo.ne.jp)
こっちの方がよりムカムカした。