30代前半の作家の、8年前の短編集。
どれも、思春期や大人を迎えた幼馴染との恋愛のあれこれ。幼馴染は故郷や家族や、自分の幼いころの記憶とシンクロするけれど、一方では今という時間を生きている生身の人間。その落差が、恋愛という景色の中では刺激にもなる。
孤独で切なくて、誰かを求めずにはおれない寂しい一人の人間。でも深い中になってもそれが何の確証にもならない今の時代。こんなものなのかと、青春を遥かに遠ざかった私は思う。
この中では表題の「夏が僕を抱く」が面白かった。青森の祖父宅で遊んだ三歳上の従姉ミーちゃん。東京で偶然再会し、恋愛関係になる。ミーちゃんはバイト生活で、妻子ある人と不倫中。僕は高卒後、アマチアバンドにいて先の見通しが全くない。
お互いを知り自分の今ある姿を知り、それぞれが一歩前に進めそうなところで話は終わる。きっとミーちゃんは不倫相手と別れ、僕はバンドは趣味として、真剣に仕事探すのではなかろうか。それが大人になることで、社会に組み込まれることにしても、そこから本当の物語が始まるのではないだろうか。
何者かになる前の、自分探しのいろいろが幼馴染と自分の成長の物語としたならば、老人の恋愛模様は何処にあるや?
それはたぶんデイケアや介護施設の中での恋模様。小学生の恋が実らないように、老人の恋もまた実りがたい。わずかに黒井千次のいくつかの小説がそれを活写しているけれど、ほかにはちょっと思い当たらない。
好きな人ができても結婚するわけではなく、お互い子供には反対されるし、茶飲み友達、旅行友達は欲しいけど、介護なんてしたくないし、そこらあたりの葛藤の中には人間臭さがいっぱい詰まっていそう。
老人が恋愛する小説。どなたか書いていただけないでしょうか。
いえいえ、自分のことより相手が大切と思うくらいでないと人を好きにはなれない。歳とると純な心もなくなりがちで、話としてつくるのはとても難しい。難しいから読みたい。介護施設でのじいちゃん同士の恋のさや当て。ばあちゃん同士の嫉妬とやっかみなどなど。読みたい!!