茜、43歳、未婚。リストラに遭い、父親の遺産の古いアパートの一室に住んで家主兼管理人となる。
それぞれの人生を背負った一癖も二癖もある住人、友人以上恋人未満、元予備校教師、現在はスナック経営の高校の同級生とのやり取り、一年間の出来事を、部屋番号別に章立てして話を進めていく。
どの人も不思議で、思い込みが強く、茜は右往左往しながら、次第に花桃荘の暮らしに慣れていく。
面白く読んだ。娯楽色の強い作品で、暑い時期にはふさわしいかも。
アパートに住みいている幽霊も、そう恨みがましいこともせず、昭和的書割に馴染んでいる。こんなことは小説にしかできない力技。
ことわざ好きの元同級生、百人一首の英訳を教えてくれるクロアチアから来た大学教員などなど、知的な仕掛けもあります。
総じてどの人も生き生きと書けていた。茜の人生も管理人に収まるだけでなく、飛躍してほしいと、小説の中の人だけど応援したくなった。