21年前、文芸誌「新潮」に一年にわたり連載された小説。
作家とほぼ等身大と思われる語り手は70代後半、日本語なので主語は省略。このあいまいさが、作家自身でもあり、どこか架空の人のようでもあり、文章自体もあわあわと、事件、事故もなく、日々、つつがなく進んでいきます。
ご近所、子供たちとの交流。花を貰ったり、お寿司をおすそ分けしたり。駅近くまで出かけて、銀行やパン屋、スーパーの「石井」に回り買い物する。
昼間は家で仕事、夜はハーモニカを吹き、妻がそれに合わせて歌う。妻はピアノも習っている。
庭の木や花、野鳥が来る。と物事はつつがなく進む。
唯一事件らしい事件は、マイクロバスで、子供の家族みんなで旅行に出かけること。海で泳ぎ、温泉に浸かり、お金は割り勘。後で、幹事の長女一家にお礼をする。
長女はユーモア溢れるしっかりもの、50前後だろうか。その息子の縁談が調うところで小説は終わる。
人柄は一朝一夕にできるものではないけれど、日常の一つ一つに喜べる感性は老いのひとつの理想。
私も死ぬまでにはこういう境地に達したいもの。今はまだまだ未熟です。