里山悠々録

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コメ高値の本質

2025年02月11日 | 田んぼ

過日、日経新聞のトップにコメ民間輸入拡大の記事が載りました。しかも2万tと言うレベルは少々ショッキングなものでした。


それ以前にコメ高騰がなかなか収まらないと政府は備蓄米の放出に踏み切ることを発表しました。
昨秋、2024年産米が出荷されればコメ不足の現象は解消されると備蓄米の放出には否定的でしたが、さらに一段の高値になり、備蓄米の放出が明言された後も市場は反応しません。市場は隠れているものはそう簡単には出てこないと判断しているようです。
昨夏コメ不足の事態が生じた折り、小生もコメの供給と価格について投稿しています
小生も備蓄米が放出されなくとも何れ価格は落ち着くだろうと見ていました。そもそも備蓄米放出の手続きには時間が掛かるため速効性がなく、そうこうしているうちに新米が行き渡るだろうと推測しました。
但し、これには前提条件があります。政府が発表しているコメの需要量、2023年産米の在庫量と2024年産米の生産量(作況指数)が正確なことです。
しかし、その後の末端価格の推移は想像を遙かに超えるものでした。
コメ流通の体系は大まかに生産者ー集荷業者(JA・全農グループなど)ー卸業者ー小売業者ー消費者なので流通コスト即ち中間マージンが発生するため末端価格には生産者価格に相当額が加算されます。生産者ー消費者と中抜きが出来れば相当額が圧縮されるとも言えますが、遠方への出荷は少量では資材や輸送費が割高になるのでそう単純ではありません。現代はネットでの購入も出来るので事情に詳しい方も多いことでしょう。
代表的な流通形態であるJA・全農を通すいわゆる系統出荷の場合(我が家もそうですが)出来秋になると前渡金通称概算金が生産者に示されます。いわば手付金のようなものです。昨秋は異例の事態が発生しました。JA以外の集荷業者がJAの概算金より大幅に高い価格で生産者から買い付けたため新米が集まらずJA・全農はあわてて追加の概算金を提示する事態となりました。
もっとも概算金はあくまで前払金なので通年出荷した後追加で精算されます。そのため当初の概算金は低めに設定するのはやむを得ない面もあります。
日経新聞の記事によると12月時点の集荷団体と卸間の相対取引価格は玄米60㎏24,665円と前年同月比6割高で過去最高を記録したとあります。
農水省の発表によるとコメ不足を引き起こしたとされる2023年産米の作況指数は101、そして2024年産米も101で収穫量は18万t増加しているとしています。これらの数値からはコメ不足や価格高騰を引き起こす要素は考えにくい。
一方、一人当たり消費量は9ヶ月連続で前年同月を上回っており外国人客の増加などで流通するコメが不足し価格高騰に繋がっているとしています。
しかし、農水省の発表したデータへの疑問が捨てきれません。
ちなみに本県の2024年産の作況は107の良で過去最高。我が家では辛うじて平年並の範疇で豊作にはほど遠い。だからと言う訳ではないですが、実際の生産量とは解離がありはしないか
現時点では生産者が自家用以外に保有しているコメは僅かで殆どは流通過程にあるはずです。政府は生産量に対し集荷、卸が保有するコメは少なく、把握できないコメが相当数あるという見解です。つまり値上がりを目論む隠れた業者がいると言わんばかりです。
備蓄米を供給することでそれらが市場に吐き出され価格は下がるという見立てです。確かに投機的な価格になっていることは間違いなく今がピークと考えるのが相当でしょう。そこに新たに供給されるとすれば何らかの動きが見られそうなものですが今のところ反応はありません。
冒頭のコメ民間輸入はこれまで実質的に殆ど行われてきませんでした。それが今回実行されるオーダーが二桁違うのに驚かされました。これは殆ど忘れかけていた30年ほど前の貿易自由化交渉ガットウルグアイラウンド合意に基づくものの一つです。
合意に基づき政府はミニマムアクセス米を主食用として10万t輸入しています。ミニマムアクセス米とは合意の結果日本が海外から最低限輸入しなければならない米のことです。それを政府は民間に輸入差益を上乗せして売却するのですが、売れ残ることが多かった。それが2024年は初めて上限の㎏当たり292円上乗せで全量落札されるという事態に。
民間輸入はこれまで実質輸入不可能と思われるように設定されています。関税が㎏当たり341円ですから60㎏にすると関税だけで20,000円を超えます。ですから25,000円以下では完全な赤字になると思われます。精米段階なら10㎏5,000以下では採算が合わないので自信があるということなのでしょう。
今、スーパーなどではごく普通に6,000円を超えているので、このまま推移すれば輸入米も売れる可能性は十分あります。輸入米は実際には業務用向けでしょうからコストも低く抑えられます。
しかし、これはあくまで現状の需給が続くと言うことが前提なので、政府の示すデータが正確なら隠れている流通米がどこかの時点で吐き出され需給のバランスが崩れます。山高ければ谷深しの原則で急落するはずで、誰かがババを引くことになります。
そうならなければ政府のデータの何れかが正しくないと言うべきです。前述したように生産量(作況)、在庫量、需要量への疑問が捨てきれません。

僅か数年前、JAからの概算金が10,000円を割ったことがあります。2024年産米の半値です。
ある程度の規模の生産者にはそれなりのセーフティネットがあるものの我が家のような零細な生産者は正に赤字覚悟、モチベーションは落ちるところまで落ちたと言っていいでしょう。僅かに環境保全と自己生産への拘りが支えになっているというものです。
末端の食堂などではご飯のおかわり自由、大盛り加算なし、果てはラーメン注文でご飯無料までありました。確かにご飯一杯20円くらいならサービスした方が売上増に繋がります。
これはコメ生産者にとっては屈辱以外の何物でもない。
今日の末端価格は確かに異常ですが、誰も長かった安値の時代を語りません。それが当たり前と思っているので当然です。今日では田舎でさえも生産を知る人間は少なく消費者の方が多いからです。
食管制度で米価が決められた時代と違い完全な自由価格になった現在は、コメも投機の対象になり得ます。政府が指摘するように隠れた流通の担い手の存在が価格高騰を招いているとすれば正に投機の対象になっていると言うことでしょう。
生産者は異常な高値など望んでいないのです。しかし、これまでのような異常な安値ももちろん望みません。しかし、多勢に無勢で消費者は安ければ安いほど良いと考えるのが一般的。

50年前、我々の一世代前、大正後半から昭和一桁生まれの世代が主たる担い手だった時代、食管制度の下60㎏20,000円が普通でした。生産者も農村人口も遙かに多く、都会にも農村出身者が多かった。従って選挙になれば集票力があり、コメの価格形成にも影響を及ぼしました。
次世代が我々昭和20年代生まれですが、食管制度から新しい食糧法に移行して様変わり。流通も価格も完全に自由化されました。農村部にも他産業従事者が多くなり、まして都会では農村出身者の陰は甚だ薄くなりました。従って圧倒的に消費者の視点が強くなり、選挙でも集票力は低下しコメの価格へ影響することもなくなりました。
それでも、少数ながらコメの大規模生産者が成立し、我々のような零細な生産者も細々ながら担い手として存在してきました。それは前世代からの意思を受け継ぐ意識があったため採算性が悪くても我慢強く続けてきたわけです。しかし、その担い手の多くが70代になり、次第に人的な生産力が低下していると見るべきです。それが顕在化してきたのが事の本質ではないかと考えています。温暖化や気象災害などの現象だけに目が行っていますが、こちらの方が本丸です。
2023年、2024年の作況指数がともに101ならこのような事態が生ずるとは思えないのです。実態は作況指数のようになっていない可能性がやはり捨てきれません。根拠は薄弱ながら長年の経験から来るカンというやつです。
人的に多い我々の世代は交代期に入っています。あと数年、長くて10年。今後は大規模生産者主体の生産構造に移行するのがメインシナリオですが、それぞれ地域の条件が違いスムーズに移行できるかは不透明です。この度の価格高騰がターニングポイントになりそうです。
政府の数値が正しくこの後理論通りに価格が急落すれば間もなくやってくる世代交代も頓挫するかもしれません。逆に高い価格が続き、コメの民間輸入も好採算となれば他企業からの参入も想定されます。しかし、これらは安くなればすぐ撤退するので価格の乱高下は大きくなるでしょう。
一番は圧倒的多数の消費者の意識と行動です。安ければ安いほどよいのか、生産コストに見合う価格での安定を望むのか、多少の乱高下はかまわないのか。
昨日のニュースで直近の消費調査の結果では価格は下がっておらず前年10㎏3,500円が今年約80%高になっていると報じていました。6,300円くらいでしょうか。売り上げは落ちていないとしています。


今週中に政府は備蓄米の売り渡しの内容について集荷業者に提示し、入札を行うとしています。備蓄米の存在がこれほど注目されるのは初めてでしょう。その存在さえも知らなかった国民も多かったと思います。最初の入札は想定以上の高値が予想されますが果たしてどうでしょう。



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