この記事の日本語版です。
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一般的な武術の多くは、膂力、いわゆるアームパワーを中心とした強い筋力と、スピードとタイミングを最大限に活用することによって勝者となることができます。
これは、腕っ節の強い者、スピードの速い者、体の大きい者が勝者となります。強いものが必ず勝つということです。
しかし、これでは、力の弱い者、若くないもの、体の小さい者はたまたまタイミングが合ったラッキーパンチでしか、勝つことができません。勝つどころか、自己防衛もできていないのが現状です。
しかし、本当の武術の世界においては、老人や体の小さいものでも、達人といわれる人たちがいることも事実です。
残念ながら、そういう人たちの体得したものは秘伝とされるか、あるいはその理合を教えることに不慣れな天才だけがその技に到達したために、いつしか、その真髄が伝わらずに失伝してしまいました。
現在、多くのアジアの武術は、基礎の稽古は簡単に終わらせ、そのあとは少しばかり型の稽古をして、そのまますぐにスパーリングに入ります。人の体に本来備わっている、素晴らしい可能性に気付くことなく、ほぼいきなりスパーリングを始めてしまうことで、いつの間にか力とスピード重視に堕してしまっています
古来の型の中には、多くの重要な秘伝が隠されていることに気付く人は少ないのが現状です。
日本伝大東流合気柔術では、ほかの武術と同じく、固め技、投げ技、打撃系技術が存在します。
しかし、それらの型や、技を習得するための大事な身体操作の稽古を徹底的に行います。
この身体操作の稽古を充実させることによって、力の大小、スピードの有無、体格の大小などに左右されない技を使いこなす体が出来上がります。
「手の内」「表層筋群」「深層筋群」を微妙に使い分ける稽古から始まります。
これに、相手と自分の体の各所に存在する重心の制御と、軸のコントロールに心法を加えることにより、武術的な身体操作が可能となります。
1.手の内:ぐい飲みの手の稽古に始まり、指と手首は極力やわらかく保ち、手掌部に張り付くように存在する、手掌腱膜を使ってつかまれた腕や手首を通して相手を制圧したり、この手掌腱膜の動きを相手の体に浸透させて、打撃を加えたりします。
2.表層筋群:主に僧帽筋、菱形筋、胸筋、前鋸筋、腹筋、広背筋及びそれに連なる腱や靭帯を使って、腕や肘の筋肉を使わずに、相手に影響を与えます。
3.深層筋群:とくに腸腰筋群といわれるところの、腸骨筋と大腰筋及びそれに連なる腱や靭帯を指します。
これらは主にお辞儀をするときに使われる筋肉群です。お辞儀をしようとしながら、あえてお辞儀をしないことによって発生するちからを、上記の表層筋群のどれかに乗せて、手の内とリンクさせて相手を制圧するのに使います。
ここで気がつくことは、腕のチカラ、いわゆる膂力というものが入っていません。
実は、腕の筋肉は全くといえるほど使いません。むしろ腕っぷしといわれるところの腕、肘、手首のチカラを使ってしまうと、上記の1.2.3.を合わせてできるパワーが止められてしまって、要をなさなくなってしまうのです。
人は格闘技をするときに、相手も同じ人間という動物同士ことで、相手が腕の力で組み付いて来たり、打撃を加えてきたときには、こちらも腕の力でこれを防御することになります。反対の場合もそうで、こちらの動きは同じ人間の腕同士である限り、読まれてしまいます。
すると、どうしても、チカラが強い方、スピードが速い方、体が大きい方が必ず勝つことになります。
しかし、1.2.3.を合わせてできる筋肉群の力は強大なもので、相手の腕一本分のチカラではどれほど鍛え上げていても、これらの合力にはかないません。
腕全体の力を全く放棄して、その腕を体からのパワーを伝えるだけのパイプとしてだけに使い、
柔らかい手首のまま手掌腱膜をつかって、相手とうまく繋がっておいて、1.2.3.を合わせてできるパワーを使うと、一見同じ動きであっても、こちらの腕の力が抜けているために、出所のわからない異常に強い読めない力として、相手に認識されるわけです。
出所のわからない、異常なパワーを感じると、ヒトは、防御反応で固まる、あるいは防御反応すら放棄して、チカラが抜けてしまうという現象が起きてしまいます。
結果的に、
1.自分の体の一部が術者にくっついてしまって取れなって、きりきりと踊らされたように振り回されてしまう。
2.指一本で吹っ飛ばされる。
3.手先からおなかの中まで、ずっしんと響くような衝動が走って動けなくなる。
この時、術をかけている方は、ふわふわと相手をなでる程度しか力感はありません。
相手とうまく繋がって、こちらのエネルギーを十分に伝えるためには、相手の腕をぎゅっと握りしめたり、拳を固く握ってしまっては、そこ で伝達が止ってしまいます。
まずは、手の内を使いこなせること、そして表層筋群を使いこなせること、最後に深層筋群が使えるようになることが、日本伝大東流合気柔術の大切な基礎となります。
© 2017Makoto Okamoto/Kei Kurotani
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