交渉術という題名ですが、交渉のハウツウ本ではありません。
外務省の首席分析官にしてロシア問題のエキスパートの筆者は、背任と偽計業務妨害によって逮捕され有罪が確定。しかし釈放後の目覚ましい活躍はご存じの通り。
「国家の罠」では「国策捜査」という言葉を巷に広め、「帝国の自壊」ではソビエト連邦が崩れ去っていく場面を新聞に絶対に乗らないような裏面も含めて生々しく描写している。外交特にロシアの専門家として、そしてインテリジェンスの専門家として著作を量産し、あちこちにコラムを書いているのはご存じの通り。でも最近の著書はやたらと観念論的な難しいものもあって新書ぐらいしか手にとっていなかった。
その点この本はどちらかというと交渉術と題したロシア外交裏面史であるとともに、著者がまじかに見た橋本、小渕、森という総理大臣の姿であり、外務官僚の姿を記したものであるので、小難しい理屈抜きで読みやすく、知的好奇心を満足させます。
インテリジェンスの担当官ならば、エージェント(協力者)を得るために、金を掴ませる、ハニートラップを仕掛けるということをするかと思いきや、一番大切なことは信頼関係を築くこと。一回だけの使い捨てならばともかく、それでは重要な情報を手に入れることはできない。酒と女は肉低的な限界があるが金は際限がない。しかし金で転んだ奴は金で裏切る。巨額の報酬で釣るということもないみたいです。
ロシアやイスラエルの情報機関の話はそれなりに面白いのですが、この本の白眉はやっぱり北方領土交渉に挑む日本の総理大臣の生々しい姿。どこまでが本当なのかと思うところもあるが佐藤優がここに書いていることは現場にいたものだけが知るその場の雰囲気が感じられる。
それぞれ総理大臣として国益を守ろうと大変な苦労をしていたのだが橋本竜太郎、小渕恵三、森喜朗と3人の人物像では、ちょっと意外だったけれど森喜朗の評価が高い。森だけが現在も存命だからというわけでもないのだろうが、蜃気楼とかサメの脳みそとか言われ危機管理能力にも疑問符がついていた記憶なのだが、加藤の乱の章で紹介されている私情を捨てて国益を守ろうとする姿はかっこいい。この記述がきっかけで森と加藤は手打ちを行ったそうだが、これも本当の話なんだろうな…
小渕についてはこれも世評とは違って非常に厳しい姿が見える。重圧を一身に背負う孤独な姿は非業の最期を予感させるものがある。
橋本については米原とのエピソード(打ち合わせと言われて部屋に呼び出され襲われそうになる)を載せているように総理大臣としての仕事はともかく人間性にはさもありなんというか疑問符が付く。米原のエピソードを伝え聞いた鈴木宗男が黙って聞き流すのではなく「それは人間性の問題だな。自分中心のところがある人間は、女性に対してそういうことをする」と答えているが、これ以外にもいろいろ苦労して蓋をする役目をしたことがあるから思わず批判的な言葉が出てしまったか。。
ロシア分析の専門家で政権内部の人脈にも食い込んでいて追従を許さない情報と分析が歴代総理大臣に重用されたのだろうが、ノンキャリアの一官僚がこんなにも総理大臣と直接やり取りできるようになると上司同僚の嫉妬と怨嗟の標的になってしまう。そんな空気が刑事事件に巻き込まれる通奏低音になっていたのだろう。
それにしても米原万里にも聞かれたと書いているのだが著者はなぜ鈴木宗男とこんなに結びついてしまったのだろう。確かに一生懸命汗をかき人脈を築き力をつけていったのだが、その過程で官僚を怒鳴りつけ恫喝して無理を通したことは事実でしょう。国益のためにということは多々あったいしても、そこには全く私心というものがなかったのか。怒鳴る時は省益や過去の因習で新政策を採用できなかったり政策転換できない場合と書いているが、そこにはできない理由も時間がかかる理由もあり、怒鳴られる立場としては強引な議員のわがままとしてしか思えないこともある。地方議会の小宗男(公益を考えず私益しか頭にない点では小ではなくて亜流?)をたくさん見聞きしているだけに疑問です。
そこにうまく寄生して、利用するだけ利用して、最後は知りすぎて危険だからと叩く、それも自分ではできないので検察を利用してという外務官僚の姿は醜悪としか言いようがないですけどね。この本だけでなくあちこちに書かれていますが、実名を挙げられて今でもそれなりの地位についている人も多いみたいですから、疾しいところがないならきちんと反論すべきではないでしょうか。
この本の肝を見るには最初にあとがきを読むといいかもしれません。読みやすいですが400ページ近い本なので気合を入れて読んでください。
外務省の首席分析官にしてロシア問題のエキスパートの筆者は、背任と偽計業務妨害によって逮捕され有罪が確定。しかし釈放後の目覚ましい活躍はご存じの通り。
「国家の罠」では「国策捜査」という言葉を巷に広め、「帝国の自壊」ではソビエト連邦が崩れ去っていく場面を新聞に絶対に乗らないような裏面も含めて生々しく描写している。外交特にロシアの専門家として、そしてインテリジェンスの専門家として著作を量産し、あちこちにコラムを書いているのはご存じの通り。でも最近の著書はやたらと観念論的な難しいものもあって新書ぐらいしか手にとっていなかった。
その点この本はどちらかというと交渉術と題したロシア外交裏面史であるとともに、著者がまじかに見た橋本、小渕、森という総理大臣の姿であり、外務官僚の姿を記したものであるので、小難しい理屈抜きで読みやすく、知的好奇心を満足させます。
インテリジェンスの担当官ならば、エージェント(協力者)を得るために、金を掴ませる、ハニートラップを仕掛けるということをするかと思いきや、一番大切なことは信頼関係を築くこと。一回だけの使い捨てならばともかく、それでは重要な情報を手に入れることはできない。酒と女は肉低的な限界があるが金は際限がない。しかし金で転んだ奴は金で裏切る。巨額の報酬で釣るということもないみたいです。
ロシアやイスラエルの情報機関の話はそれなりに面白いのですが、この本の白眉はやっぱり北方領土交渉に挑む日本の総理大臣の生々しい姿。どこまでが本当なのかと思うところもあるが佐藤優がここに書いていることは現場にいたものだけが知るその場の雰囲気が感じられる。
それぞれ総理大臣として国益を守ろうと大変な苦労をしていたのだが橋本竜太郎、小渕恵三、森喜朗と3人の人物像では、ちょっと意外だったけれど森喜朗の評価が高い。森だけが現在も存命だからというわけでもないのだろうが、蜃気楼とかサメの脳みそとか言われ危機管理能力にも疑問符がついていた記憶なのだが、加藤の乱の章で紹介されている私情を捨てて国益を守ろうとする姿はかっこいい。この記述がきっかけで森と加藤は手打ちを行ったそうだが、これも本当の話なんだろうな…
小渕についてはこれも世評とは違って非常に厳しい姿が見える。重圧を一身に背負う孤独な姿は非業の最期を予感させるものがある。
橋本については米原とのエピソード(打ち合わせと言われて部屋に呼び出され襲われそうになる)を載せているように総理大臣としての仕事はともかく人間性にはさもありなんというか疑問符が付く。米原のエピソードを伝え聞いた鈴木宗男が黙って聞き流すのではなく「それは人間性の問題だな。自分中心のところがある人間は、女性に対してそういうことをする」と答えているが、これ以外にもいろいろ苦労して蓋をする役目をしたことがあるから思わず批判的な言葉が出てしまったか。。
ロシア分析の専門家で政権内部の人脈にも食い込んでいて追従を許さない情報と分析が歴代総理大臣に重用されたのだろうが、ノンキャリアの一官僚がこんなにも総理大臣と直接やり取りできるようになると上司同僚の嫉妬と怨嗟の標的になってしまう。そんな空気が刑事事件に巻き込まれる通奏低音になっていたのだろう。
それにしても米原万里にも聞かれたと書いているのだが著者はなぜ鈴木宗男とこんなに結びついてしまったのだろう。確かに一生懸命汗をかき人脈を築き力をつけていったのだが、その過程で官僚を怒鳴りつけ恫喝して無理を通したことは事実でしょう。国益のためにということは多々あったいしても、そこには全く私心というものがなかったのか。怒鳴る時は省益や過去の因習で新政策を採用できなかったり政策転換できない場合と書いているが、そこにはできない理由も時間がかかる理由もあり、怒鳴られる立場としては強引な議員のわがままとしてしか思えないこともある。地方議会の小宗男(公益を考えず私益しか頭にない点では小ではなくて亜流?)をたくさん見聞きしているだけに疑問です。
そこにうまく寄生して、利用するだけ利用して、最後は知りすぎて危険だからと叩く、それも自分ではできないので検察を利用してという外務官僚の姿は醜悪としか言いようがないですけどね。この本だけでなくあちこちに書かれていますが、実名を挙げられて今でもそれなりの地位についている人も多いみたいですから、疾しいところがないならきちんと反論すべきではないでしょうか。
この本の肝を見るには最初にあとがきを読むといいかもしれません。読みやすいですが400ページ近い本なので気合を入れて読んでください。
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