ごっとさんのブログ

病気を治すのは薬ではなく自分自身
  
   薬と猫と時々時事

酒を飲まない肝臓病の治療薬開発

2021-09-20 10:27:40 | 健康・医療
私は市がやっている健康診断をかかりつけのクリニックで受診(年1回)していますが、現在のところ等に問題はないようです。

酒をほとんど飲まない人が発症する「非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)」が増加しているようです。患者数は成人の9〜30%と推定され、1000万人ともいわれていますが、これはやや多い気がします。

ただしNAFLDの80〜90%は長い経過を見ても脂肪肝のままで、病気はほとんど進行しないようです。残りの10〜20%の人は徐々に悪化して、肝硬変に進行したり、中には肝ガンを発症することもあります。

この脂肪肝から徐々に進行する肝臓病のことを「非アルコール性脂肪肝炎(NASH)」と呼んでいます。NASHは肥満、2型糖尿病、高血圧、脂質異常症などを背景として、炎症や線維化を伴い上述のように肝硬変や肝臓ガンを引き起こします。

原因となる病気の治療に加え、肥満解消が重要とされていますが、現在まで有効な治療薬として認可されているものはありませんでした。

日本で2020年に2型糖尿病に対して、GLP-1受容体作動薬と呼ばれるセマグルチドが承認されました。これを週1回皮下投与した試験で、NASHの脂肪肝、炎症が改善し線維化もやや改善したという結果が報告されました。

これは日本を含む16か国143施設で行われた、プラセボとの比較試験の結果です。NASHの改善は、セマグルチド0.1ミリグラム投与群で40.4%、0.2ミリ投与群で35.6%、0.4ミリ投与群で58.9%改善し、プラセボ群の17.2%に対して有意差が見られました。

線維化を伴うNASHでは線維化の改善は見られたものの、プラセボ群との間に有意差はありませんでした。しかし線維化が進んだ患者の「悪化を防ぐ」点についてはこの薬の有効性が認められ、線維化のバイオマーカーも改善しました。

今回の試験は投与期間が1年半であり、線維化の改善には時間がかかるため2年や3年と長期的に投与すると線維化の改善が期待できるとしています。セマグルチドは早ければ2年半先にはNASHの初の治療薬として承認申請が行われる可能性があるようです。

これとは別に新たなNASHの診断法も開発されました。NASHは確定診断には肝生検が必要ですが、患者の負担が大きく全員を対象には行えないという問題点がありました。

そこで開発されたのが人工知能(AI)を用いたスクリーニング「NASHスコープ」と線維化診断法である「フィブロスコープ」です。この辺りの詳細はよくわかりませんが、通常の検査でわかる11項目をこのNASHスコープに入れると、簡単にNASHかどうかわかるとしています。

このように診断も簡単になり、有効な治療薬が出てくれば、今まで対症療法しかなかった脂肪肝炎が治癒できる病気になったといえるのかもしれません。

「平等」であることは必要だが何が平等か

2021-09-19 10:25:27 | その他
社会生活を営む上で、「平等」であることは必須の条件のように言われていますが、何が平等かは非常に難しいような気がします。

日本は男女平等が非常に遅れている国とされていますが、男女間の平等は最近はかなり進んできているような気がします。

オリンピックは閉幕しましたが、全ての競技は男女別々に競っています(馬術は男女の区別がないと聞いていますが)。これを男女平等に区別せずにやるということを主張する人はいないでしょう。

実際記録を見ても男女区別せずにやったら、女性のメダリストは出てこないことになります。つまり運動能力という点では、男女別々にやった方が平等ということをすべての人が納得していることになります。

この男女差はアスリートの能力だけに存在するのでしょうか。この辺りが男女平等といった場合の微妙な問題点のような気がします。

話は変わりますが、国民は皆平等に税金を納めています。所得額に応じてその一定の率を納めることが平等のような気がしますが、実際は累進課税として高額所得者ほど多額の税金を納めるようなシステムになっています。

つまり低額所得者はその5%ほどを納め、高額所得者は40%も税金を納めているのです。たぶんこのシステムには不満が出て、累進税率は見直しが行われていますが、国民が納得しているのであればある意味平等な税法と言えるのかもしれません。

ところがコロナ禍で国民の生活が困窮するとして、当時の安倍政権は10万円の支給を行いました。これも税金と同じような考え方をするのであれば、低所得層に厚くする方が平等と言えます。

ところがこの金額を変えるためには、どんな金額にするのかの議論も必要で、これはかなり時間がかかりそうです。国税庁はすべての世帯の収入を把握しているはずですが、実際に給付するためには、かなりの事務手続きが必要になりそうです。

こういった給付金は困っている世帯には一刻も早く出す必要がありますので、スピードを重視して一律10万円となったようです。私は年金生活ですので、コロナになっても収入が減るということはないのですが、ありがたくもらっておきました。

この政策がどう評価されたのかは分かりませんが、それほど不満が出たということも聞きませんので、ある意味平等だったといえるのかもしれません。平等を考える点であまり良い例とは言えませんが、どれをとっても何が平等かは本当に難しいような気がします。

多くの人が納得することが重要ですが、実際問題としては声の大きい人が納得しているにすぎないような気もします。男女格差については私も色々考えていますので、また別なときに書くかもしれません。

新型コロナワクチンの基礎

2021-09-18 10:26:51 | 
現在新型コロナに対する唯一の有効な手段として、ワクチン接種が進められています。

私は7月に2回の接種が終了したことは、このブログでも書いています。私はファイザー社製のワクチンを接種しましたが、それ以外にも色々なワクチンが広がっています。

すべてRNAワクチンですが、その有効性や副反応などの安全性もいろいろ議論されていますが、ここではそのワクチンの最も基礎的な部分を紹介します。

RNAワクチンの研究の歴史は長く、1980年代にはmRNAを医薬品として使おうという研究がすでに始まっていました。1980年代に考えられていたのは、mRNAを人工的に作って細胞の中に運べば、薬などに利用できるタンパク質を作ることができるのではないかということでした。

しかし実際にRNAを細胞に与えると、拒絶反応として激しい炎症が起き、最悪細胞が死んでしまうことが分かりました。この大きな問題を解決したのが、ビオンテック社とペンシルベニア大学の研究チームです。

この発見によってノーベル賞の有力な候補になると考えています。研究チームは、2005年にRNAを構成する物質の1つである「ウリジン」を化学修飾したものに変えると、細胞に導入しても炎症が起きないことを発見したのです。

これによってRNAをヒトの身体に投与するめどが立ったといえます。しかしこのころはRNAが非常に不安定で壊れやすいことに加え、人工的に作るのには多額のコストがかかることもあり、ワクチンに使えると想像した人はほとんどいませんでした。

しかし研究チームは、この壊れやすい特徴が体の中に残らないという薬としての利点になると考え、さらに研究を続けます。そして2008年には炎症を抑えるだけでなく、RNAを鋳型としてタンパク質を作る方法を見つけました。

その後この技術を使ってインフルエンザ用の新しいワクチンやガンに対するワクチンの研究を進めていたところ、新型コロナウイルスのパンデミックが起きたのです。

ビオンテック社は新型コロナウイルスの遺伝情報が公開されるとすぐにRNAワクチンの開発に着手し、大手製薬会社ファイザー社と提携し大規模な臨床試験を行うとともに、ワクチンの大量生産を開始しました。

このような経緯でわずか1年足らずで、新型コロナウイルス用のRNAワクチンが世界に向けて供給されるようになったのです。この間核酸(RNA)の製造技術が格段に進歩したのはまた別な研究成果と言えます。

以上RNAワクチンについての研究経過を書いてきましたが、ここでは触れなかった、いかにRNAを細胞内に入れるか(ベクターの開発)などの問題もあったようです。

それでもRNAワクチンの研究がほぼ完成した段階で、新型コロナが出てきたというのは、運が良かったといえるのかもしれません。

通常の不活化ワクチンであれば数年が必要であることを考えれば、これだけ早くワクチン接種が始まったことに感謝すべきかもしれません。

腸内細菌と脳の認知障害との関連

2021-09-17 10:27:17 | 健康・医療
最近「脳腸相関」ということをよく見かけるようになり、この研究も活発に行われているようです。

このブログでも老齢のマウスに若いマウスの腸内細菌を移植し、脳の機能が改善されたという研究を紹介しました。

腸は第二の脳などと言われており、脳の機能だけではなく免疫など多くの機能に関与しているのは確かなようです。この脳腸相関は腸が働いているというよりは、腸内細菌叢が重要な役割を果たしていることが明らかになっています。

メンタルや認知にも影響する様で、アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患を含めた認知障害に果たす役割の研究も盛んになっています。

腸内細菌の大半はバクテリア(細菌)で、これが神経系との指令伝達に直接的または間接的に関わっています。微生物と脳を双方向でつなぐのは「脳腸軸」と呼ばれる部位で、ここを通して神経や化学作用で脳に影響与えています。

例えば神経伝達物質や脳の分子メッセンジャーといった脳が使う化学物質も腸内細菌が合成しているという説もあります。最近になるまで、脳腸相関研究は患者と健常者の細菌叢を比べる程度の研究しかなく、細菌叢を分解して調べる研究がやっと始まったようです。

まず腸内細菌叢とパーキンソン病との関連についてです。パーキンソン病は特有の運動障害が出る何年も前に、便秘などの胃腸不良が起こることが知られています。

そこで腸内細菌遺伝子を検査して明らかになったことは、パーキンソン病の人とそれ以外の人とでは細菌叢が異なり、この違いは食事などほかの影響に左右されることはないことが分かりました。簡単な実験としては、腸内菌の無い無菌マウスには運動機能障害が起こらないことが確認されています。

またパーキンソン病の患者の脳内にはシヌクレインというタンパク質が蓄積されることが分かっていますが、マウスやラットの実験では腸内細菌の大腸菌がこのシヌクレインとよく似たタンパク質を作ることが示されています。

その他アルツハイマー病の原因タンパク質であるアミロイドも腸内細菌が何らかの役割を担っていることが示唆されています。実際アルツハイマー病の患者25名と健常者25名の腸内細菌叢を調べたところ、患者の方が細菌の種類が少なく、菌によっては数も異なることが分かりました。

ここではパーキンソン病などの神経性疾患の原因としての腸内細菌叢を述べてきましたが、脳腸相関は悪い事だけではなく脳細胞の活性化や認知機能の改善といった良い方向にも関与しているようです。

実際の腸内細菌叢を分解し、微生物の中身を調べるといった研究が待たれるところです。

コロナ重症化を予防する「抗体カクテル療法」

2021-09-16 10:37:10 | 
コロナの感染者数は5000人を超えたことがあると、1000人台でも収束したかのような気がします(東京)。

これからどうなるのかは不透明ですが、重症化を予防すると期待されている「抗体カクテル療法」が実施され始めました。アメリカのトランプ大統領が感染した時、未承認でも使用し早く回復したという噂があります。

これは新型コロナウイルスの活性を抑える(中和する)作用を持つ2種類の抗体が組み合わされています。この抗体は新型コロナウイルスの表面にある突起状のタンパク質のうち、ヒトの細胞と結合する部位に対する抗体で、ウイルスの増殖を抑え、重症化を防ぐとみられています。

米国などで実施された臨床試験では、投与を受けた感染者736人のうち入院が必要になったり重症化した人は7人(1.0%)だったのに対し、プラセボの投与を受けた感染者748人では24人(3.2%)で、重症化リスクを減らす効果は70.4%と判断されました。

臨床試験の対象となったのは、持病があるなどして重症化リスクの高い感染者だけでしたが、当然リスクの低い人にも効果はあると考えられます。現在のところ酸素が必要になってしまったような重い中等症や重症患者は効果が期待できないとして対象外となています。

厚生労働省のコロナ感染症の「診療の手引き」では、対象となる重症化リスクある感染者を、65歳以上の高齢者や2型糖尿病、慢性閉そく性肺疾患、ガンなどの疾患を持つ人、BMI30以上の人、妊娠後期の妊婦などとしています。

感染後なるべく早い時期の投与が望ましく、症状が出始めて8日以上たった人は効果が確認されておらず対象外となっています。この薬は約30分かけて静脈に点滴しますので、当初は入院患者が対象でしたが、今は宿泊療養施設や臨時投与施設でも投与できるようになりました。

問題は全国にいる自宅療養の感染者は12万人以上になっていますが、この患者たちには投与できないところです。この抗体カクテル療法は感染初期の治療法としては素晴らしいものと言えますが、問題はその価格です。

現在はすべて無料、公費で賄っていますが、将来的に自費となる可能性もあります。これはあまり情報がないのですが、ドイツがこの薬の20万回分を500億円で購入したという記事がありました。

単純計算で1回25万円となり、抗体医薬である以上やむを得ないのですが、かなり高価な薬と言えます。やはり感染症のように多くの人がかかる病気であれば、その治療薬はインフルエンザのタミフルのように、安価で自宅で飲める薬の開発が必要な気もしています。

それでもこの薬を使うことによって重症化が防げるのであれば、ワクチンと共に新たな武器が増えたといえそうです。