フルール・ダンテルディ

管理人の日常から萌えまで、風の吹くまま気の向くまま

デーモン聖典最終回前の妄想その⑥

2007年06月17日 | デーモン聖典関連

 うひゃ~今度で最後とか言っておきながら、終わってません平日に何も書けなかったのが敗因です・・・。あと、もっと軽くまとめるつもりが例によってうだうだと長くなってしまったことと。なんか、どうやってまとめて終わらせたらいいのか難しくなってきて(要するにどこでぶっちぎるか!)、焦っております・・・。LaLa発売前には何とか!
 なのに、これから家族サービスに出かけなければならない・・・(父の日だからさー)。うわーん、メシなんか食いに行ってる場合じゃないっての!!



「……戻ってきた」
「え?」
 ミカは、読んでいた雑誌をソファの上に置いた。それと同時に空中からいきなり2つの人影が出現した。
「…忍ちゃん!」
「忍ちゃん……!」
 床に下り立ったときにふらついた忍を支えたのは、少年の姿をしたヘルムートだった。その存在が、りなともなが忍のそばに行くのを押し止めた。
 忍の肩より少し上くらいの背で、まだ頬の線に甘さの残る中性的な美貌のヘルムートが、忍の腕にしっかりと腕をからませ、寄り添っている。
 忍は眼鏡も靴もない上に髪から服からびしょ濡れというひどい有様で、顔にはやけどしたような赤い斑点がいくつかあり、顔色も良くない。
「……りな、もな、ただいま。心配かけて、済まなかった…」
「そんなこと……。どうしたの?何があったの?」
 もなたちは、帰ってきたミカからK2と赤龍の争いはほぼ互角で、赤龍は一旦逃亡し、K2は霊力の補給に行ったこと、そこへ獏と忍がやって来て、忍の存在に気づいた赤龍が彼をさらって別次元へ移動したことを聞かされてはいた。
 それでは忍はもう戻ってこないのかとショックを受けた彼女たちに、
「忍は赤龍を説得して地球を滅ぼすのを止めるつもりだった。だったら説得し終わったら戻ってくるだろう」
 とミカは言ったが、りなは首を振った。
「戻ってくるとは限らないわ。だって忍ちゃん、帰ってこない覚悟をしてた。……赤龍にとって、私たちは邪魔者だもの。赤龍がしちゃんと別次元にいることを望んだら、忍ちゃんは拒まないかもしれない……!」
 けれども、忍は戻ってきた。赤龍を伴って。それは喜んでいいはずのことだったが、K2が好きだと自覚したもなと違い、りなには手放しで喜べなかった。なぜなら忍の横には、艶然と微笑む赤龍がいた。ふたりが何を話し、何を決めて戻ってきたのかはまだわからない。ただ言えるのは、忍はやり直したいと求め──つまり侑と萩のような、或いはもなとK2のような関係になりたいと言い、赤龍は憎しみではなく「愛」を得られる希望を見出し、地球を滅ぼすことをやめたのだ。
(……言わなければよかった。ミカは、忍ちゃんが私のことをいちばん愛していると言ったけれど、女性として愛してくれていたわけじゃない……。なのに、私が恋愛感情をぶつけてしまったから、忍ちゃんはむしろ、迷いを捨ててしまった。私たちへの気持ちを引きずったままだったら、戻ってきた忍ちゃんは、もっと悩んだ表情をしていたはず。でも今は……忍ちゃんとの間に見えない壁を感じる……)
「大丈夫だ。獏、手間をかけさせて済まなかった。ありがとう。……K2は戻っていないのか?」
「まだ狩りをしているのだろう。霊力が戻ればここに帰ってくるだろう」
 ミカが答える。
「そうか…。戻ってきたら、伝えてくれ。もう赤龍と戦う理由はなくなったと。赤龍も、K2とミカと獏には手を出さないと約束してくれた」
「そういうわけで、残念ながら私はおまえを喰ってしまうことができない。命拾いしたな、“妖怪”。本当は私の忍をこんな目に遭わせた罪で死なない程度に喰って、回復できないように結界に閉じ込めてやるところだ」
 ヘルムートが氷のような微笑を浮かべて、ミカに視線の刃を投げつけた。対して、ミカも冷笑を返した。
「私はお前を呼び出す手伝いをしただけだ。感謝してほしいね」
「貴様……」
 一気に部屋の空気が重くなったような気がした。
「だめだ、赤龍!ミカも、挑発するのはやめてくれ。僕は何とも思っていない」
 ミカは軽く肩をすくめる。ヘルムートの腕を掴んで止めた忍は、そのまま咳き込んで膝をついた。ヘルムートも膝をついて、忍の背を抱えるようにのぞき込む。
「忍…もういいだろう。おまえには休養が必要だ。……もな、りな、何か喉を通りやすい食事と飲み物を30分後に持ってきてくれないか。2階の私の部屋へ。どこかわかるか?」
 もなたちは頷いた。
「忍、行くぞ」
 忍は口元を押さえながら顔を上げて少女たちを見た。
「ごめん……心配しなくていいから」
 安心させるようにかすかに笑ってみせたところで、彼らは消えた。
 もなは、はーっと息を吐いた。
「侑くんたちがもう寝ていて良かったわ。むちゃくちゃ怖いんだもの、赤龍。忍ちゃんはよく平気だよぉ。……りなちゃん?」
 はっと我に返ったりなは、心配そうに自分を見守るもなに、笑顔で取り繕った。
「あ、うん……。とにかく、忍ちゃんが無事に戻ってきてくれて良かったわ」
「そうよ、りなちゃん!忍ちゃんはちゃんと戻ってきてくれたんだよ。忍ちゃんが赤龍の『聖典』だからって、私たちが遠慮する必要なんてないんだから」
「……そうね……」
 忍は優しいから、今までと変わらない態度で接してくれるだろう。けれどこの先、自分たちと何をしていても何を話していても、忍は常に赤龍のことが頭にあるだろう。今まで忍が、就職するときも引っ越すときも、いつも自分たちのことを考えてくれたように、記念日やイベント、一緒に食事をすること、興味がないのにいつも自分たちに合わせてくれたように、これから彼は、何かをするときに意識せず赤龍のことを思うのだろう。それが彼が大切に思う相手への優しさで、彼の習性なのだ。
「そうだ…!ミカってば、いったい忍ちゃんに何したの?あんなずぶ濡れで、具合悪そうだし、赤龍は怒ってるし!……もう、笑ってごまかさないで。いいわ、"お兄さん"に聞くから!」
「……私、キッチンに行くね。忍ちゃんの食べられそうなもの作らないと」
「あ、待って、りなちゃん!」
 りなはリビングのドアを閉めた。