図書館でこの本を見かけたとき、まず目がいったのは表紙の絵でした。
ひょっとして、有元利夫!?
それで思わず手にとってみたら作者がル・グウィン!!
え~、新しいファンタジーが出たんだ!!!と、まあ、うれしい驚きの連続だったわけです。
有元利夫さんは私の好きな画家のひとりです。この表紙を見ても感じるように、宗教画のように静謐で神秘的な絵を描かれる画家でした(ちょうど今、滋賀県で「有元利夫展」をしているらしいのです。行きたい・・・)。
そして、その表紙の絵が表すように、静かな物語の始まり。今流行のファンタジーみたいに、テンポよく、次から次へとストーリーが展開して目が離せない、というのとはちょっと違います。しかし、ル・グウィンの確かな筆づかいによって、読者は安心して、新しい世界に引き込まれていきます。
<西のはて>の<高地>に住む16才の少年オレックと少女グライ。彼ら高地に住む人々は、<ギフト>とよばれる不思議な力(超能力?)を持つブランター(首長)によって、統括されています。このギフトは、ブランターである父から息子へ、母から娘へ、と「血」で繋がっていくのです。
しかし、自分で管理できない荒ぶるギフトを持つ者として、父親はオレックの目を封印してしまいます。暗闇に生きるオレックを見守るグライ。この物語は、ギフトという力に関わる少年の、さまざまな心の葛藤を描いているのです。
目隠しをして日々を送るオレックの描写は、読み手にまでその閉塞感が伝わってきます。それに、文字というものを持たず、結婚相手も一族の者から選ばなければならない、というような<高地>の人々の生活は、私たちには想像もつかない閉ざされた世界のように感じられます。
<低地>から来たオレックの母はギフトを持ちませんが、読み書きができるようにとオレックとグライに文字を教え、手製の本を残しました。それによって、オレックは物語を語り、詩を朗誦するようになります。そして、そのことがオレックにとってはギフト以上に大きな力となり、彼を開かれた世界へと導いていくのです。
ギフトという大きな力に悩むオレックでしたが、物語は意外な方向に展開していきます。そしてこの物語はまた次の物語『ヴォイス』へと発展していくようです。
70代半ばで、この新しい世界を創造し始めた作者ル・グウィンは、一体何を書こうとしているのでしょう。
続きがとても気になります。