朝は6時半から7時の間に起床する。パジャマ代わりのスエットから部屋着代わりのスエットに着替え、前の晩に洗って水を切った食器類を片付ける。やはり前の晩に使用して、毛髪や垢で汚れた浴槽を軽く掃除する。トイレで用を足し、ひげを剃った後、自己流の体操で身体をほぐす。そして朝食の仕度を始める。朝食の中身は毎日ほぼ同じである。冷凍庫からコーヒー豆を出し、20グラムほど計って、ハンドピックをし、粉に挽く。湯を沸かし、ベーグルをトーストする。シリアルを準備し、湯が沸いたらコーヒーを淹れる。リンゴの皮を剥く。食事が終われば、後片付けをし、歯を磨き、出勤の準備をする。メールのチェックをして、8時45分頃に家を出る。最寄りの地下鉄の駅まで徒歩約30分。地下鉄に乗っている時間は約3分。駅構内を歩いたり、電車を待ったり、職場のあるビルのなかを移動したりする時間もあるので、職場の自分の席に着くのは9時半頃になる。
職場では、まずパソコンを立ち上げ、仕事を始める。途中、昼時に手の空いた頃を見計らって食事を買いに階下の社員食堂へ行き、買って来たものを自分の席で食べながら仕事の続きをする。仕事は単調だ。多少の技が要求される局面が無いことも無いが、総じて単純作業の繰り返しである。午後5時から6時の間に仕事を終え、出勤とは逆の経路で帰宅する。途中、スーパーに立ち寄り、その日の夕食の食材を調達する。
帰宅するのは、職場を出て約1時間後だ。部屋着に着替え、夕食の仕度をし、食べ、後片付けをする。パソコンを開き、家計簿をつけ、メールをチェックする。そのままうだうだとネットを眺めていることもあれば、本や雑誌を読んだり、資格試験の勉強をすることもある。つい、うとうとしてしまうことも多い。午後11時頃にはシャワーを浴び、再び本や雑誌を読み、午前1時から2時の間に就寝する。
こんな毎日の繰り返しである。尤も、同じことの繰り返しが、必ずしも退屈ということではない。「同じこと」と書いたが、毎日の暮らしのなかで、同じことなど何も無い。日々刻々何かしら変化がある。天候、体調、気分、通勤途上で通りかかる工事現場の進捗、ガスタンクの高さ、草木の芽吹き、上空を行き交う航空機の飛行コース、その他諸々。同じことを繰り返していると、同じことが無いことに気付くのである。自分自身も変化しているということだ。修道僧の修行や囚人の懲役の意味が少し見えた気がする。