鰍沢で「鰍沢」を聴くというイベントに参加する。これで3回目だ。第一回が柳家三三、第二回は春風亭一之輔、今回が入船亭扇辰。このイベントに参加するきっかになったのが、2015年11月にイイノホールで聴いた「鰍沢」をテーマにした柳家小満ん、柳家喬太郎、入船亭扇辰の三人会だった。会場に第一回ツアーのチラシが置いてあったのである。全部で何回になるのか知らないが、私たちにとっては扇辰の回である今回は節目といってもよい。
これまで同様、朝9時過ぎに鰍沢口駅集合だが、その後の行程はこれまでに比べると観光が減って、実質的にはゆず狩り体験と妙法寺での落語会だけだ。個人的には三回のなかで今回の内容が一番よいと思う。天候に恵まれたのは大きな要素だが、落語を聴くというのが一番の目的なので、あれこれ観光的な要素を散りばめるよりは、鰍沢という土地の雰囲気を体験しつつ噺を聴くということに集中するべきだと思うのである。
ゆず狩りは思いの外楽しかった。私たちが暮らしている調布の団地の周囲にも柚子をつくっている農家があり、もうしばらくすると無人の販売所やJAの店に柚子が並ぶ。柚子の果実のほうは馴染みがあるが、木のほうは触れる機会に恵まれなかった。伊豆や房総などには冬場になるとみかん狩りができる観光農園がたくさんあるが、みかんと柚子は似て非なるものらしい。柚子の木は棘がすごい。落ちた枝を踏むと自動車がパンクするというくらいに長く鋭い棘がたくさん生えている。収穫には革の手袋が必要なのである。軍手ではだめだ。採るのがたいへんな割に禁断の味というほどではない。種が多くて食べるところは少なく、みかんのように果実を食すよりも料理の香り付けに皮を使ったり、果汁を絞って使ったり、ピューレ状にして柚子胡椒や柚子唐辛子に加工したりする。もちろん、どのように使っても美味しいし、料理に使うと上品になる。鰍沢の柚子は料理屋の間では有名なブランド柚子なのだそうだ。鰍沢といえば、落語の他には北斎の「富嶽三十六景」のなかの「甲州石班澤」だが、北斎の頃に柚子をつくっていただろうか。
鰍沢 北斎知るや 柚子の里
これまで落語会の会場はケイパティオだったが、今回は妙法寺の本堂だ。これまでは「鰍沢」ともう一席というパターンだったが、本日の演目は「目黒の秋刀魚」「鰍沢」「夢の酒」の三席。たいへん丁寧な噺ぶりで、聴いていてなんだか嬉しかった。