万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

第三次世界大戦の危機は国際社会の構造に由来する?

2023年01月12日 12時30分20秒 | 国際政治
 今般のウクライナ紛争に関しては、ロシアのプーチン大統領のメンタリティーがその主要な要因として指摘されることも少なくありません。‘プーチン大統領は、もとより理性を失った狂人である’、あるいは、‘プーチン大統領は進行がんあるいはパーキンソン病の治療が影響して精神に異常をきたしている’といった説も報じられています。同大統領に限らず、過去にあっても第二次世界大戦時のアドルフ・ヒトラーなども、狂人の一人としてしばしば名が上がります。しかしながら、戦争、とりわけ、世界大戦の原因を時の指導者個人に帰すのには無理があるように思えます。

 過去の二度の凄惨を極めた二度の世界大戦の経験にも拘わらず、今日、人類は、第三次世界大戦の危機に直面しています。指導者主因説では、プーチン大統領の戦争責任が問われることとなるのですが、現在のウクライナ紛争と未来の台湾問題の両者が交差している「中国ウクライナ友好協力条約」が示唆するように、今日の世界大戦の危機は、核兵器国に特権を与えるNPT体制、否、軍事大国に常任理事国の特権を付与する国連体制を抜きにしては説明し得ないように思えます。
 
 第1に、NPT体制では、非核兵器国は、核兵器国による安全の保障を要します。中小の非核兵器国に対する安全の保障とは、およそ‘核の傘’の提供と同義となります。南太平洋、東南アジア、アフリカ諸国、中央アジアなど、非核兵器地帯条約を締結している諸国はあるものの、とりわけ、核兵器国との間に紛争を抱える、あるいは、軍事的緊張関係にある非核兵器国の多くは、日本国を含めて核兵器国による‘核の傘’の提供に依存せざるを得なくなります。このことは、非核兵器国の核兵器国への一方的依存の固定化を意味しますので、事実上、前者は後者の被保護国となり、全世界は核兵器国を盟主とした複数の陣営に分かれざるを得なくなるのです(主権平等の原則に反する・・・)。

 第2に、‘核の傘’の提供とは、核兵器国と非核兵器国との間の軍事同盟の締結を意味します。軍事同盟条約には、集団的自衛権に繋がる内容が入る場合が多々ありますので、これが発動されますと、連鎖的に戦争は他の同盟国を巻き込む形で拡大します。すなわち、世界大戦への導火線が準備されていることとなるのです。

 第3に、核兵器国は、自国の核を自らの世界戦略に利用することができます。例えば、中国は、「中国ウクライナ友好協力条約」にあって‘核の傘’の提供、あるいは、核危機に際しての対応措置の交換条件として、自国の台湾併合の容認を求めています。核の保有という事実そのものが核兵器国に外交交渉にあっても有利な交換条件を与えているのであり、非核兵器国は、たとえそれが無理難題であったり、違法性や反倫理性を含むものであったとしても、核兵器国からの要求を飲まざるを得ない立場に置かれているのです。なお、核兵器国からの要求は軍事面に限られているわけではなく、政治や経済、さらには社会や文化、情報等のあらゆる分野に及ぶのです。

 第4に、NPT体制では、核兵器国と非核兵器国との軍事力の格差が、時間の経過と共に限りなく拡大してゆきます。現在では、米中ロにおいてより洗練された戦術核が開発されているように、核兵器国は核テクノロジーをさらに発展させることができます。一方、非核兵器国は、そもそも核を保有していないのですから何時まで経ってもゼロ地点のままです。格差は広がる一方であり、非核兵器国は、現状では如何なる通常兵器を使用しても、最後は核兵器国に逆転されることでしょう(非核兵器国必敗・・・)。このことは、表向きは主権平等の原則の下で国民国家体制が維持されてはいても、全世界は、事実上、核兵器国によって分割されているとも言えましょう。今日、NPT体制はより強固に永続化されているのです。

 そして、第5点として指摘し得るのは、‘戦争の火付け役’ともなりかねないNPTの‘抜け駆け国家’が存在していることです。今日、インド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮と言った不法及び非合法の核保有国は、核保有の既成事実を造ることで、NPTを遵守している他の非核保有国に対して軍事的に優位な地位を確保しています。停戦中とはいえ、中印国境紛争、中東紛争、朝鮮戦争を考慮しますと、これらの諸国が暴走し(‘鉄砲玉’の役割かもしれない・・・)、核兵器を使用する事態ともなれば、核兵器国である安保理常任理事国の介入を招く事態が予測されますので、第三次世界大戦並びに核戦争に発展しかねない戦争の火種なのです。

 これらの諸点から疑われるのは、戦後の国連体制そのものが、既に軍事大国による世界の分割と潜在的な世界大戦の発生メカニズムを準備していたのではないか、とする疑問です。国連の制度的欠陥とそれを補強するNPT体制は、歴史における偶然の成り行きであったのでしょうか。国民国家体系にあって、真に主権平等、法の支配、平和の実現等を目的に制度設計を試みるならば、敢えて国際連盟の欠陥を改善せずに存続させ、また、安保理常任理事国の一国の意思で即座に国連を機能停止させ得る理事会制度を設けるはずもありません。しかもNPT体制は、かくも杜撰にかつ不徹底な状態に放置されているのです。それが世界権力による意図的計画であれ、第二次世界大戦末期における大国間の‘世界分割’の合意あれ、今日の人類は、国際社会の構造的な問題によって危機を迎えていると言えましょう。

 歴史においてその後の人類の運命を決定づけるような重大な事件が起きた場合、決定者に責任があるのか、それとも時代の必然であったのか、といった論争が起きることがありますが、少なくとも、今日の国際社会には、人類を滅亡させる、あるいは、恐怖によって人類が世界権力に支配されかねない構造的な欠陥があります(プーチン大統領や習近平国家主席ではなく、他の人物が指導者であっても起こりえる・・・)。同欠陥が判明した以上、凡そ国連、軍事同盟、NPT体制の三者によって構成される悪しき構造の是正並びに改革に取り組むべきではないかと思うのです。

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