万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

日朝平壌宣言の事実誤認-‘植民地支配’問題

2018年06月24日 15時36分29秒 | 日本政治
日朝首脳会談の可能性が取り沙汰されるにつれ、暫くの間忘れられていた日朝平壌宣言も、再度注目を集めるようになりました。と同時に、その成立過程や内容についても疑問が呈されるに至っております。

 先日も、同宣言をめぐる日朝交渉を記録したはずの公文書が見当たらない、とする記事が産経新聞上に掲載されておりましたが、同宣言には、「日本側は、過去の植民地支配によって、朝鮮の人々に多大な損害と苦痛を与えたという歴史の事実」という事実に反する記述もあります。1910年から1945年までの35年間に亘る日本国による朝鮮統治は、併合条約に基づくものであり、一般のアジア諸国の植民地化とは異なっています。この件に関しては、先に挙げた産経新聞記事でも触れられており、特に、日本国からの莫大な投資の下で北朝鮮地域は大工業地帯として発展しており、こうした事例は他のアジア諸国の植民地には見られないそうです。

 そして、‘植民地支配’とは何か、という問題について考える時、その一つの特徴として挙げられるのが、鉱物資源やインフラ敷設権などの経済的な権益の確保です。西欧列強、あるいは、東インド会社等は、アジア・アフリカの国や地域を直轄領として植民地化するに先立ち、現地における様々な利権を手にしています。植民地化とは、宗主国による統治権の掌握のみならず、経済的な利権の独占をも意味したのです。それでは、朝鮮半島はどうであったのか、と申しますと、日本国による韓国併合以前にあって、李氏朝鮮は、様々な権益を既に西欧列強に売り渡していました。

このため、日本国が国際社会において韓国を併合する方針を公にした際に諸外国から寄せられた最大の懸念は、併合に伴う日本国による朝鮮半島における権益の独占でした。そこで日本側は、これらの懸念を払拭するために、韓国併合以降も朝鮮半島における諸外国の権益を保障する旨を国際社会に対して約したのです。この事実は、仮に朝鮮半島の植民地化が進行していたとすれば、それは李氏朝鮮時代に始まるのであり、折からの財政難から権益を次々に海外諸国に売却した李氏朝鮮政府に第一義的な責任があったことになります(併合後、日本国が諸外国から買い戻した権益もあったらしい…)。また、日本国政府は、併合後、朝鮮半島から資源を搾取することなく現地においてインフラ整備を含む先進的な工業地帯を建設し、産業の近代化と発展に努めているのです。

こうした歴史的経緯を踏まえますと、平壌宣言に明記されているように、日本国が‘植民地支配’によって一方的に損害と苦痛を与えたとする一文は、北朝鮮側の主観的な‘歴史認識’ではあっても客観的な‘事実’とは言えないように思えます。しかも、戦前にあっては李氏朝鮮時代よりも国民の生活レベルが上昇し、戦後にあっては北朝鮮の建国を境に最貧国のレベルまで経済が縮小したのですから(その一因は、ソ連邦による工業設備の持ち去り…)、日本国による統治時代が、朝鮮半島の人々に損害を与えたはずもありません。況してや両国は、相互に甚大な人的・物的被害をもたらす戦争さえしていないのです。

平壌宣言にかくも重大な事実誤認がある以上、日本国政府は、既に空文化している平壌宣言に拘る必要はなく、歴史的な事実に基づく新たなる対北戦後処理の基本方針を策定すべきではないかと思うのです。

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22 コメント

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正論 (onecat01)
2018-06-24 23:50:33
kuranishi先生。

 正論なのに、なぜ自民党の政治家諸氏は、何を気兼ねし、何に怯え、これが公言できないのか。

 私はここに、戦後政治の闇を感じます。反日左翼と、お花畑の住民は、期待するものはありませんが、保守自民党の政治家が、これを口にしないだけでなく、「反省」や「お詫び」を言うのですから、不思議でなりません。

 (今まで、kuranishi masakoさんと、お呼びしていましたが、ベッラさんが先生と言われておりますので、私もそう致します。特別の理由はありませんが、ベッラさんは、ブログを始めた当初、私が色々教えてもらった、先生ですから、見習うことといたしました。)

 

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onecat01さま (kuranishi masako)
2018-06-25 08:41:58
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。

 政治家も、マスコミも、何故か、朝鮮統治の実像については事実を直視しようとは致しておりません。おそらく、その背景には、全世界の世論を誘導する力を持つ国際組織が潜んでいるのではないかと推測しております。しかしながら、近年、ネットによる情報発信が可能となったことで、その影響力も低下してきているようにも思えます。少なくとも、日本国は、歴史的事実に基づいて政策を立案すべきであり、’歴史認識’によって歪められてはならないと考えております。

 なお、kuranishi masakoさんと呼んでくださって結構です。私もまた、onecatさまをはじめ皆さま方から様々なことを教えていただいておりますので。
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Unknown (北極熊)
2018-06-25 09:31:21
韓国・朝鮮や中国人が、大日本帝国に植民地支配や侵略されたと言う言葉遣いをすることについて、時々疑問に思うのですが: 
欧州諸国(イギリスやスランス、オランダなど)が、得られたような、植民地支配者としての利益はあったのでしょうか? 北朝鮮や満州は資源が豊富だったから植民地支配して資源を収奪したという言い方をする人もいますが、そうした豊富な資源は実は無かったから、日本は石油の輸入をABCD包囲網により止められて、国民生活を守るために対米英開戦を決断するに至ったのではないでしょうか? 
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北極熊さま (kuranishi masako)
2018-06-25 10:56:16
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。

 ご指摘の通りではないかと思います。仮に、朝鮮半島や満州が豊富な天然資源に恵まれていたならば、石油の禁輸によって日本国が経済的に追い詰められるはずはなかったと思います。また、これらの地域に莫大な資金を集中的に投下したため、日本国の本土はむしろ開発が遅れ、農村の疲弊から深刻な社会不安まで発生しております。歴史の事実を直視しませんと、現在に生きる日本国民までもが多大なる不利益を被ることになるのではないかと心配しております。
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確かにワルイことは散々やった! (mobile)
2018-06-25 13:24:54
日本は確かに植民地支配をして散々ワルいことをやったのは確かです。しかしながら、同じような目に遭ったはずの台湾のヒトたちは、そんなに日本のことを悪く言いません。この違いは何でしょう?彼らに言わせると『外省人の方がもっと悪かった』という言葉も聞くことができます。また、日本には『いつまでも過去の侵略責任にばかり拘るから発展しないのだ』などと言うヒトもいます(確かに日本はアメリカの原爆投下の責任を追及したりしていない)。私はなるべく公平な判断をしたいと思っていますが、彼らの一方的な主張には閉口することが多いです。
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Unknown (竹槍)
2018-06-25 15:41:02
北朝鮮の本体は日本にあるという陰謀論を唱える人がいますが、あながち間違いではないのかもしれません。

安倍総理は日本国内あるいは米国のトランプ大統領が属していない勢力から日朝国交正常化と経済支援を命令されており、それを拉致問題を理由に拒んでいるという構図かもしれません。

そもそも、米国の力を持ってすれば、米軍が駐留する日本で、拉致事件など起きるはずがないのです。CIAなら簡単に諜報できたはず。
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mobileさま (kuranishi masako)
2018-06-25 19:16:47
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。
 
 私は、歴史的な事実に照らしますと、日本国の朝鮮半島の統治は、資源の収奪や住民の搾取を主たる目的とした所謂’植民地支配’とは異なっていたのではないかと思います。また、李氏朝鮮時代とは、清国の属国であった時代ですし、イザベラ・バードの『朝鮮紀行』などを読みますと、日本による統治時代よりも遥かに悲惨な社会であったようです。もちろん、民族自決の原則からしますと、日本国の併合は批判されても致し方ないのですが、少なくとも、平壌宣言で記しているような、経済的に損害を与えたわけではなかったと思うのです。
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竹槍さま (kuranishi masako)
2018-06-25 19:24:43
 コメントをお寄せくださいまして、ありがとうございました。

 私は、北朝鮮の本体が日本にあるのではなく、明治以降、日本にも巣食ってきた何らかの国際組織が、国際情勢を裏から操ってきたのではないかと疑っております。こうした闇の存在を想定しなくては、説明できない出来事が多すぎるのです。そろそろ、こうした組織の存在を認めた上で、世界史を見直すべき時が来ているように思えます。
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植民地主義と同化政策の違い (宗純)
2018-06-27 10:32:06
御粗末な自民党の閣僚が、今回の記事とほぼ同じ主張をしている。
ところが、すぐさま韓国などから厳重に批判され、即座に謝罪や訂正をする。ところが、
少し時間が経つと、また少しも懲りずに同じことを繰り返す。
今まで少しも変わらないパターン。
呆れるばかりだ。
当人たちは、日本国に『良かれ』と思っているのだろうが、余計に日本の名誉を傷つける結果に終わっている。
では、何故自民党閣僚が、自分の主張を否定し、謝罪するかの謎ですが、
これは1965年の日韓条約に違反するからですね。サンフランシスコ講和条約にも抵触するので、日本の政治家としては謝るしか方法がないのですよ。まさか日韓条約破棄は言い出せない。

同じ植民地でもパラオなど南洋諸島では世界一の親日だし、台湾の親日も有名だが、日本は朝鮮半島だけ別のことをした訳ではない。
パラオや台湾では学校を作ってことを喜ばれ、同じことをした朝鮮では日本語を強制されたと怒っているのですが・・・
植民地経営の経験が無い日本人は意識していないが、似ているようで意味が違う、同化政策だったのですよ。
日本は蝦夷地のアイヌ民族に対して同化政策で成功したので、同じことを南洋諸島とか台湾朝鮮で行った。
台湾で成功しても、日本より長い歴史がある朝鮮の同化政策は無理で、成功するはずが無いのです。
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宗純さま (kuranishi masako)
2018-06-27 12:31:37
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。

 宗純さまにも、事実誤認があるようです。1965年に締結された日韓基本条約、並びに、請求権協定では、’植民地支配’という言葉は一切使用しておりません。平壌宣言では、むしろ、積極的に日本国による加害性を認めており、この点が、歴史の事実に反しているのです。

 また、サンフランシスコ講和条約についても、朝鮮に関しては、第2条、第4条、並びに、第9条の受益権を認めており、財産権については、第4条で定めています。厳密に第4条に従えば、日本国にも対韓請求権があったのですが、日韓基本条約締結当時は、冷戦下にあり、かつ、朝鮮戦争による破壊で韓国地域における財産権が混乱した事情もあり(実際には、敗戦を機に朝鮮半島における日本人の資産は韓国人に強奪されている…)、アメリカの仲介によって、日本国側が、経済支援という形で韓国に資金等を提供することで合意に達したのです。

 日本統治時代の同化政策については、完全なる日本化を強制したのではなく、ハングルの使用や朝鮮名等も許されておりました(日本国内にあって、朝鮮名で国会議員となった朝鮮人政治家もいる・・・)。日本国への同化を歓迎する朝鮮の人々も少なくなかったはずです。こうした事実に照らしますと、やはり、平壌宣言の’歴史認識’は誤っているとしか言いようがないと思うのです。
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