万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

国際社会における権利確認訴訟の意義-日本国の抱える紛争も解決

2023年01月05日 11時24分52秒 | 統治制度論
 戦争を未然に防止し、国家間の紛争を平和裏に解決するためには、先ずもって平和解決の仕組みを整備する必要がありましょう。解決手段から‘力(武力)’という選択肢を排除しなければ、戦争はなくならないからです。この点、国連憲章では、加盟国に対して紛争の平和的解決を義務化付けながらも、制度的関心が安全保障理事会を中心機関とした安全保障に置かれているため(しかも、本質的な欠陥のために実際には機能しない・・・)、平和的解決のための制度については関心が低いという弱点があります。第二次世界大戦の最中に構想されたため、制度設計の杜撰さは致し方ない面もありますが、この弱点を克服しない限り、人類に平和は訪れないのですから、今後、未来に向けて努力すべきは、紛争の平和的解決の制度整備ということになりましょう。

 また、今般、日本国政府が決定した防衛費増額については、年間凡そ4兆円の内の四分の1分に当たる1兆円程度であっても、その財源をめぐって議論が起きています。増税に対する国民の反発も強いのですが、実際に戦争となりますと、数兆円程度では済まされず、莫大な予算を戦費に割かざるを得なくなります。G7の一国である日本国でさえ、武器の消耗による補充や新兵器投入のために強いられる戦費に耐えられるとは思えません。兵器がハイテク化、即ち、高額化した今日では、ウクライナ紛争が示すように、中小諸国は軍事大国の支援なくして自衛のための戦争さえできない状態にあるのかもしれません。しかも、戦闘状態が長期化すれば、軍事費調達のための重税のみならず、動員や国土の破壊により経済も国民生活も破綻することでしょう(敗戦国ともなれば、さらに賠償金支払いが待っているかもしれない・・・)。国際レベルにおける平和的解決手段の整備は、財政や経済面から見ても、いずれの国にとりましても最も効果的で合理的な国家安全保障政策なのです。

そこで、平和的解決の制度として期待されるのが、「政治問題」に対しては、当事国双方の合意形成・遵守の義務化であり、「法律問題」に対しては、国際司法機関における権利確認訴訟手続きの拡充です。何故ならば、双方が相手方の根拠を認める前者については、何れの当事国であれ、‘力’を解決手段から排除できれば戦争の防止策となりますし、当事国双方が自国の権利主張の正当性を争う後者については、単独提訴を認め、当事国の何れか一方が武力行使に至る以前の段階で、権利を確定してしまうに越したことはないからです。

 それでは、平和的解決制度の整備は、日本国が抱える国際紛争において、どのような意義があるのでしょうか。日本国も、同制度の恩恵を受けることができるはずです。何故ならば、国際紛争、日本国の場合、とりわけ領域をめぐる紛争は、何れの「法律問題」であり、権利確認訴訟によって解決できるからです。北方領土問題も、対日講和条約の非当事国であるロシアが、連合国の一員でありながら不拡大原則を含む大西洋憲章の原則に反し、ヤルタ密約等を根拠として同地を自らの領域と主張する以上、紛れもない「法律問題」です。竹島問題に至っては、歴史的並びに法的根拠を見れば、韓国側の主張は根拠薄弱です。江戸時代の竹島経営、明治期の無主地先占、並びに、戦後の韓国による竹島占領の不法性は明らかであり、同問題も、「法律問題」として司法解決すべき紛争と言えましょう。

もっとも、これらの地域は、既にロシア並びに韓国によって占領されていますので、領有権確認訴訟において‘占領国側’が敗訴した場合については、権利回復のための仕組みを同時に整えておく必要がありましょう。最後の手段は、判決の強制執行力としての力の行使となるのでしょうが、相手国が軍事大国である場合には、勝訴国一国による強制執行は、事実上不可能となります。そこで、国際司法機関における判決内容を実現するためには、同時に、正当な領有権を有する国の領域を違法に占領しつづけている国に対して、外交関係の停止や経済制裁など、国際的な制裁を課す仕組みを整える必要がありましょう(この点、南シナ海問題に際して常設仲裁裁判所が判決を下した際に、国際協力の下で中国に対して制裁を科すべきであった・・・)。

そして、台湾問題のみならず尖閣諸島問題も、中国の軍事行動、即ち、戦争の未然防止という意味においても、領有権確認訴訟は重要な紛争解決手段となります。2020年10月に、中国政府は、自国の公式サイトに尖閣諸島の領有を主張する「中国釣魚島デジタル博物館」を開設しましたが、この行動は、無法国家と称されてきた同国といえども、領有権を主張するに際しては歴史的、並びに、法的根拠を要することを理解していることを示しています。中国側の対応からしますと、領有の主張の根拠をめぐる双方の一方的な主張合戦は法廷の場に移すべく、日中合意の上で国際司法裁判所に解決を委託すべきなのでしょうが、日本国側も、領有権問題化、即ち、中国への譲歩を余儀なくされる「政治問題」化を防ごうとするばかりに、紛争の存在自体を否認しています。もっとも、領有権確認訴訟の形態であれば「政治問題」化することなく司法解決ができるのですから、日本国政府には、司法解決を躊躇する理由はないはずです。

以上に述べてきましたように、平和的解決に関する制度を拡充することが戦争をなくすために必要不可欠な作業であるならば、日本国政府をはじめ、国際紛争を抱える何れの国の政府であれ、国際社会における制度構築に向けた一歩を踏み出すことが大事なように思えます。ウクライナ紛争を機に中国による軍事侵攻、延いては第三次世界大戦への拡大リスクが高まる今日にあって、一国による勇気ある行動が時代の流れを変え、人類を戦争の危機から救うこともあり得るのではないかと思うのです。

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