万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

計画経済化するグローバリズム-EV普及政策の問題

2024年04月22日 13時46分44秒 | 国際経済
 近年、ガソリン車から電気自動車、即ち、EVへの流れは加速化されています。EVへの転換の背景には、脱炭素を目指す世界的潮流が指摘される一方で、ハイブリット車や軽自動車を含めてガソリン車に強みを持つ日本車潰しの隠れた狙いがあったとする説もあります。もっとも、世界経済フォーラムや国連が脱炭素の旗振り役を務めているところからしますと前者である可能性が高く、全世界は、EVに向かって一斉に走り出した観がありました。

 イギリスでは、早くも2030年をガソリン車廃止の目標年に定める一方で、EUも、2035年を目処にガソリン車を全廃する方針を示しています。EV転換を自国自動車産業のチャンスとみた中国政府も、2035年には、新車販売の全数をEV並びにハイブリット車とする目標を掲げています。日本国にありましても、2021年の施政方針演説においてカーボンニュートラルを宣言した当時の管首相が、2035年を目標年としたガソリン車の事実上の禁止を公表したのです。

 各国ともにEVの普及促進政策を重要な‘国策’として位置づけたのであり、2035年が凡その‘キー・イヤー’となっている点を見ましても、そのグローバルな同調ぶりには目を見張らされます。そして、これらの目標を達成するために、各国政府ともに、相次いでEV普及促進政策を導入したです。その主たる手段となったのが補助金制度であり、EVの購入時やEV充電器の設置等に際して補助金が支給されることとなりました。ドイツでは、EV購入時にあって9000ユーロの補助金が支給され、ヨーロッパでは群を抜いていました(フランスは7000ユーロ、オランダは4000ユーロ・・・)。アメリカ政府も、EV購入者に対して最大7500ドルの税額控除を設け、税制上の優遇策を以てその普及に努めています。日本国政府も、EVの購入に際して補助金を支給すると共に、充電設備にも予算を付けたのです。

 グローバルレベルで未来の自動車がEVに決定されたことで、民間レベルでも日本やドイツなどの既存の自動車大手が対応を迫られると共に、イーロン・マスク氏が率いるステラ社や自動車産業にあっては後発組となる中国勢といった新興企業も、新市場でのトップを目指して開発競争に鎬を削ることとなりました。同開発競争は、政府主導で開発を急いだ中国が頭一つ抜きん出た観があるのですが、ここに来て、EV市場は、変調を来しています。テスラ株も2023年夏のピーク時から半値ほどに下落しており、EVの販売数も伸び悩むに至るのです。

 EV失速の原因としては、各国政府の補助金制度の打ち切りなどが指摘されており、上述したドイツでも、昨年末をもって補助金制度は終了しています。また、ガソリン車と比較した場合のEVの燃費の良さも、近年の電力料金の高騰の影響を受けてメリット面が低下しています。加えて、バッテリーの生産に際しての電力の大量消費や廃棄に伴う環境汚染問題(マンガンの毒性・・・)など、解決すべき問題も山積しています。EV志向の‘意識高い系’の購入が一巡したとの見方もあり、EVの失速から、メディアが喧伝するほどには消費者が積極的に購入を急いではないという実情が浮かび上がってきたのです。

 ところが、日本国政府は、他の諸国とは違い、補助金制度の見直しを行なうつもりはなく、充電設備に対する補助金も、今年度予算では昨年度の2倍に当たる380億円に増額すると報じられています。国土交通省が率先して新築住宅への設置などを促すとのことですが、果たして、EVの販売数が停滞している中、政府の思惑通り、充電施設の拡充はEVの普及を促進するのか疑問なところです。

 全世界で一斉に始まったEVの普及促進は、世界権力主導で進められてきましたので、いわば上からの‘計画’に基づいています。一般消費者のニーズに応えて出現したものではありません。この上意下達の側面は、グローバルレベルにおける自由主義経済から計画経済への移行をもたらしているとも言え、中国が、EV市場において成功した理由も、一党独裁体制が集中投資的な技術開発に適していたからなのでしょう。そして、全世界を包摂するグローバルな計画経済化によって、各国とも共産主義国家の失敗を繰り返すリスクを抱えることになったように思えます。

 EV市場で先端をゆく中国も、都市部の高層住宅街がゴーストタウンと化したように、供給過剰がEVの在庫の山を築き、マンガン汚染問題をより深刻化するかも知れません。あるいは、中国の生産過剰による中国EVの廉価輸出がライバル企業を市場から追い出してしまう可能性もありましょう(太陽光パネルで既に同様の問題が発生・・・)。日本国も、消費者の志好やニーズを無視した政府主導型のEV普及促進は、税金の無駄遣いとなりかねないのです(しかも、日本国は電力不足に悩まされている・・・)。不思議なことに、常々政府の補助金を市場の成長メカニズムを阻害するとして批判している新自由主義者の人々も、EVについては、黙り込んでいるのです。そして、グローバルレベルでの計画経済化の問題は、EVに限ったことではないように思えるのです(つづく)。

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