万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

早くも金融立国化を選んだ中国経済の危うさ

2015年12月14日 15時28分20秒 | 国際経済
ヨーロッパ復興開発銀行 中国の加盟承認へ
 一昔前、”日本国は製造業を捨てて金融立国を目指すべき”とする主張がマスメディアを賑わしておりました。主要産業の製造業から金融業へのシフトは、イギリスやアメリカが歩んだ先進国の発展プロセスであると…。

 ところが現状を見ますと、一足早く金融立国に歩を進めたはずのイギリスやアメリカでは、金融危機によって金融依存型の経済の脆弱性が露わとなり、製造業の回帰やサービス産業の多様化等が叫ばれています。金融業のみでは雇用を生み出す力は弱く、多種多様な市場を含む裾野の広い経済を実現することが難しいからです。その一方で、ここに来て顕著な動きは、中国の金融立国化です。AIIBの設立をはじめ、本日は、ヨーロッパ復興開発銀行への加盟も承認されたと報じられております。もっとも、中国は、製造業を捨てたわけではなく、政府系企業の”ナショナル・チャンオン”化による”規模の経済”を追求しており、いわば、巨大なグローバル企業を育成することで内外の市場を制しようとしています。しかも、既に労働コストにおける優位性を失っていることに加えて、膨大な人口を擁しながら、中国は、先進国に先駆けて製造ロボットの積極的な導入を進めています。となりますと、この方法では、13億の国民に雇用を提供できるとも、また、国民の生活水準を底上げできるとも思えず、自由な競争を特徴とする市場のメカニズムとは異なる経済に向っているように見えます。そして、同時進行している中国の金融立国化と政府系企業の巨大化は、共に、中国共産党に莫大な利益が独占的に転がり込むシステムなのです。中国の一般国民は、政府の方針を支持するのでしょうか。

 とは言うものの、中国の金融立国化と政府系企業の独占・寡占企業化の両頭作戦は、人民元の相場をめぐっては二律背反の関係にあります。金融部門では元高が有利な一方で、製造部門では、輸出競争力が高まる元安を望むからです。人民元のSDR採用の条件として人民元の自由化が約されたとしますと、”二頭の恐竜”とでも譬えるべき中国経済は、もしかしますと”自滅”の危機に瀕するのではないかと思うのです。

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2 コメント

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Unknown (ねむ太)
2015-12-14 22:19:04
こんばんは。日本は金融立国を目指すべき・・現在も霞が関の連中やエコノミストは、そのように考えています。
民主党政権下でどれだけの中小・零細企業が倒産し失業率が増えた事か・・
紫の妖怪こと浜矩子氏もアベノミクスはアホノミクスだと未だに言ってますし・・
浜氏によりますと、通貨高は強い通貨の証で基軸通貨になれるとか・・日本円も1ドル50円が適正だとか・・
中国は隠されていた600億ドルの不良債権が出てきました。
どうするのやら・・
英国のロータスには英国の利益に貢献したとして女王陛下から贈られた紋章がはられ・・誇らしげですが・・実際のところロータスはレース用の需要はあるものの一般には売れない・・
市販車として見た場合、車高の低さやタイヤの細さなどで使い勝手が悪すぎるという欠点が有ります。
米国はオバマ氏の戦略転換によりドルの力が急激に落ちている、ドイツも製造業はワーゲンをみれば分かる通り質が落ちている。
イギリスも世界を席巻するような商品の開発、製造が出来ない、そこで、多少質が悪くても買ってくれるであろう・・買ってくれるはずだ・・買ってくれたらとっても嬉しいな、と中国を頼りにしているのです。
十億人の人間が買ってくれたら、一つ一つの利益率は低くても十分に採算が撮れる・・取らぬ狸の皮算用なのです。
現在、世界で最も安定し信用のある通貨は円だけです。
ドルも揺らいでますので・・水面下ては習近平は日本に擦り寄って来ています。
だから韓国が上を下への大騒ぎ・・真っ青になっているのです。
一緒に反日で連携できると思っていた中国が水面下では日本に頭を下げている・・
梯子を外されて孤立してしまった韓国・・IMFからの警告も出ているようですしどうするのでしょう。
中国は金融立国の前に巨額の不良債権をどうするのか・・
北京の大気汚染が酷すぎる為に通州に副都心を建設し遷都すると発表しています。
中国の環境汚染は、誰も立ち入らない、何もしないまま自然に任せても清浄な状態に回復するには1000年単位の時間が必要となります。
地下水まで汚染されてしまっていますので、真面目な対策を取ろうとするなら全土の土を100㍍近く撤去した上で綺麗な土と入れ替えねばなりませんが・・千兆トンの単位に届きかねない汚染された土砂の保管場所・・埋め戻すための大量の土砂の確保は不可能という他ありません。
改革開放してから数十年・・そこまで汚染が進んでしまった、人間の行き過ぎた欲望は地球をも破壊しかねないという良い例です。
人類が中国の汚染の現実を知り教訓としてくれる事を願ってやみません。
欧米の経済の没落は・・簡単な話ですが新自由主義の結果です。
市場は化外・・市場というものは予測できないものと言うのが常識でした。
現在も変わっておりません。
ところが・・新自由主義の前提として人間は必ず合理的な行動をする、よって市場も予測できるものだ。
これを前提に複雑系の数学理論によって成り立っています。
経済は人が主人公である事を否定し数学の計算で成り立つと考えた・・経済だけでなく、金融もそうなのです。
東西冷戦が終わりを告げ、コンピューターの長足の進化により大陸間弾道弾の軌道計算をしていた人間が大量にリストラされ、それを引き受けたのが金融界。
一度大気圏外に出て再突入し正確に目標に到達させる為には、地球の自転速度・コリオリのフォース・進入角度・風向き・気象条件など複雑な要素が絡み合い、高等数学の計算が求められた・・
それを金融や経済の分野に応用して、人の存在を忘れてしまった結果が欧米の経済の没落の原因です。
企業の利益に応じて雇用し・リストラを繰り返す・・
雇用が安定しないばかりか、人材の育成ができなくなる。
機械が加工した部品を組み上げるだけの存在となってしまった人間。
これでは、仕事に誇りも責任感も持てなくなって平均化された質の落ちる製品しか作れなくなるのは当たり前と言えば当たり前なのです。
中国は巨額の不良債権を抱え身動きが取れなりかけている。
十億の人口が消費をしてくれるかもしれないと一縷の望みを掛ける欧米。
中国は、遠からず現在の体制ではなく全面的な開放政策を迫られる事になります。
我が国は高みの見物をしていても良いとおもうのですが中・韓に資源を横取りされないよう警戒は必要です。
無いはずの資源が無尽蔵にある事がわかっています。
特別な加工をしなくても取り出せば、そのまま燃料として使える資源です。
火力発電にもそのまま使えます。
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ねむ太さま (kuranishi masako)
2015-12-15 17:08:24
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。
 たとえ13億の人口を擁していようとも、国民に購買力がなければ、当然に、中国市場において輸入品が売れるはずもありません。それどころか、今日の中国の基本方針は、世銀の指南によってか、政府系企業の”ナショナル・チャンピオン”の育成ですので、期待とは裏腹に、安価な中国製品が、今以上に欧米の市場に流れ込む可能性もあります。中国への過剰な期待は禁物であり、中国国民を含めて、誰もが不幸になるかもしれないのです。目先の利益を追うのではなく、どこの国も、長期的な視野に立って経済政策を考えるべきではないかと思うのです。
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