甘い生活 since2013

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混沌を生きる徳川期の人びと

2024年09月12日 19時32分56秒 | 本読んであれこれ

 もう何年もかけて渡辺京二さんの『逝きし世の面影』(2005 平凡社)というのを読んでいます。今やっと470ページで、あと120ページくらいあります。年末までには読み終わるでしょうか。それとも、まだまだかかるのか?

 それはまあ、私の根気にかかっています。おもしろいのです。けれども、すぐに他の本へ手を出して、しばらく忘れてしまうから、どんどん時間が過ぎてしまう。本を買ってから、もう12年が経過していますが、まだ読み切らないのです。そんななら、もう売り飛ばしてもいいくらいなのに、おもしろいなあと思うし、抜き書きもしたくなります。

 今日、ここを読みました。

 (江戸期の日本人たちが愛好してきた)四季の景物、花鳥諷詠という悪名高い言葉が示すように、文明によって飼いならされた自然であり世界である。だが人間は裸形の自然の中に生きるものではない。また、混沌としての実在世界をありのまま認知し、その中に定位しうる存在でもない。

 人間は、自分のまわりの世界をどのように感じるのか? というと、ありのまま自然に受け止めるのが日本人の感性なのだ。日本人とは、そのような独特のセンスを身につけていく世界でも特異な存在なのだ、という言われ方をするけれど、それは実は教育の成果というのか、生まれ育つ間にまわりに影響されて、自然をいかに受け止めるかというのを訓練されてきた存在なのだ、ということでしょうか。 



 そもそもありのままの実在とは、人間にとって認知を超えたものである。人間は自然=世界をかならずひとつの意味あるコスモスとして、人間化して生きるのである。

 日本人に限らず、すべての人というのは、自分のまわりを意味づけ、価値づけして判別し、受け止める方法(人間化)によって世界や自然を理解していく生き物なのである、みたいなことでしょうか。



 そして、混沌たる世界にひとつの意味ある枠組を与える作用をこそ、われわれは文明と呼ぶ。それ自体無意味な世界を意味あるコスモスとして再構築するのは人間の宿命なのだ。

 自然に対する意味づけ・枠づけを「文明」ということばでまとめることができて、「文明」を通して私たちは、自然や世界や宇宙やすべての環境を確定していく、そういう風にしてしまうのが人間という生き物らしい。まあ、確かに何でも言葉にして説明しないと、私たちは理解して、安心することができません。何だかわからないものではいつまでもモヤモヤしたままですから。



 問題はその再構成された世界が、人間に生きるに値する一生を保証するかどうかにあるだろう。徳川後期の文明は世界を四季の景物の循環として編成し、その循環に富貴貧賤を問わず人びとの生を組み入れ、その循環の年々の繰り返しのうちに、生のよろこびと断念を自覚させ、生の完結へと導くものだった。

 徳川期の日本に住む人々は、外国の訪問者であり、記録者たちの証言を重ねてみると、四季折々の風物と一緒に生きる習慣を持ち、自然とともにあることを楽しんでいるように見えた、と大抵の記録者たちが伝えているので、それらの記事からすると、すべての階層を越えて、みんなが特別に四季の変化と一緒にあることを楽しんでいる人々であった(それらは、近代になると次第に失われていくのです)。



 そしてまた、人びとは花や雪や鳥虫や月によって心を結び通わせあった。このような文明を批判するのはやさしい。だがそのうちに生きる人びとは、いみじくも井関隆子(江戸時代後期の国文学者)が大いなる徳川の御代に感謝したので知れるように、けっして不幸ではなかった。

 外国の記録者たちに混じって、井関隆子さんの文章も取り上げられているのですが、江戸期の人々はその暮らしは「徳川様のおかげであり、自分たちはその泰平の世の中で、四季の移り変わりを感じて生きている」という証言を得て、渡辺さんは、江戸期の人々は世界から取り残された不幸な人々だったのではなく、生き生きと生きていた人々であった、ということを書いておられます。

 そもそも『逝きし世の面影』という本は、たくさんの日本訪問者たちの記録から、いくつかのテーマにそって、抜き書きを重ねて、当時の人々は、今の私たちとつながってはいるはずなのに、どこか生活スタイル・感じ方・めざすところが何か違っている。果たしてそれは何かねというのをずっと追求していく、その丁寧な検証の本でした。

 江戸期の人々の生活を、再現しつつ、何が違うのかを探る、丁寧な考察の本でした。だから、というわけではないけど、簡単に読み進められません。ボチボチ読んでいきたいと思います。

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