甘い生活 since2013

俳句や短歌などを書きます! 詩が書けたらいいんですけど……。

写真や絵などを貼り付けて、二次元の旅をしています。

青が消える(村上春樹) 別れた彼女へ

2014年10月07日 20時54分28秒 | 本と文学と人と

 僕は青の消滅について何かの情報が得られないものかと、何人かの友人に電話をかけてみたのだが、誰もつかまらなかった。最後に仕方なく、別れたガールフレンドのアパートに電話をかけてみた。

  電話には知らない男が出た。どうやら僕のガールフレンドの部屋では賑やかなパーティーが繰り広げられているようだった。ロック・ミュージックが大きな音でかかっていた。そしてそれにも負けないくらいの大声で人々が語り合っていた。僕はその男に向かって大きな声で僕のガールフレンドを出してくれと言った。

[どうして僕は、そんなムチャなことをするんだろう。みんな面白おかしく過ごしているのが電話口でも感じ取れるじゃないの? でも、僕は必死でしたね。それくらい大変なことが起きていました。みんな分かってないかもしれないけど……]

「楽しんでいるところを邪魔して悪いんだけど、ちょっと確かめてほしいことがあるんだ」と僕は彼女に言った。
「ひょっとして、君のまわりで青が消えていないかな?」
「青ってなによ?」と彼女は半分喧嘩腰(けんかごし)で言った。
「色の青だよ」と僕は説明した。

「海の青、空の青。実はさっきアイロンをかけている途中でシャツの青が突然消えちゃったんだ。シャツだけじゃなくて、家中の青という青がみんな消えちゃったんだ。でもそれが僕の家の中のことだけなのかどうか、わからないんだ。だから君のところはどうなのか知りたかったんだ。青がそこにまだあるかどうか」
「用事はそれだけなの?」
「そう」と僕は言った。
「あなたってどうしてそんなに辛気臭い人生を送らなくちゃならないの?」と彼女は言った。

「よく考えてごらんなさいよ。今日は二十世紀最後の夜なのよ。一生に一度あるかないかのことなのよ。だから世の中の人はみんな目一杯楽しんでいるんじゃない。耳を澄ませてごらんなさい。みんなが楽しんでいる音が聞こえるでしょう? 
 

 なのにどうしてあなたはわざわざこんなときに、青がどうした、アイロンがどうしたなんてロクでもない話を私に聞かせなくちゃならないのよ。青がなくなって、それがどうだっていうのよ。なんでそんなことで私のところにわざわざ電話してこなくちゃならないのよ。どうして他人の楽しみにいちいち水をささなくちゃならないのよ」
  そして彼女は電話を切った。



 私なら、別れた彼女に電話なんかしません。まあ、私は中1のころから電話が苦手でした。好きな子に電話をすることもできないとんでもないヤツでした。

 そんなことはどうでもよくて、昔の村上春樹さんの小説の主人公は、自分の生活の1つ1つを丁寧にこなしていく人たちでした。アイロンをかけたり、シャツのブランドにこだわったり、自分のスタイルのディテールにもこだわる人が書かれていました。

 それなのに、大事な色の青が、彼の視界から消えてしまった。と、主人公は見ている。そして、主人公のまわりの人たちは、見えているのか、見えていないのか、どうでもいいような態度をとっている。

 私は、ひょっとして主人公だけの錯覚じゃないのか、それとも目の不調じゃないのかと思ったりします。私たちの見ているものって、自分は確かなものだと思っているけれど、他人にはものすごく不確かなものにすぎないのではないかと、思ったりします。



 私たちは、自分はこう思うというものを信じているけれど、それはものすごく不確かである。でも、不確かだからといって、そんなものは信じないという態度をとれば、もう何も信じられるものがなくなるので、とりあえず、目前のことを信じて生きていくしかない。

 もっとも頼りないものを、信じてやっていくということですか?

 まあ、それでやっていくしかないなあと思います。



1 十三夜福祉のアパート宿直室



2 えにっきの花火は今も燃え続け

3 店の灯と焼き肉かおる家路かな

4 誰の乗る船かは知らず芝青し

5 ヘチマ咲く資源ゴミの日また来たる

* しょぼくれ俳句でした。



★ いよいよ明日ですね。たぶん、ヨーロッパの文学愛好家は詩人が好きだから、今年も苦戦するかも知れないけど、可能性は信じていきたいです。でも、受賞したからといって、何か変わることはありますか。何もないですね。本屋さんが商売をしようと考えるだけです。

 だから、結果はどうでもいい。とにかく、自分の好きなものを読み、好きな風に思っていましょう。スウェーデンの人たちは、ハルキさんを読んでないと思います。だから、結果なんか気にしないで、好きなようにしていきます。



 



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