甘い生活 since2013

俳句や短歌などを書きます! 詩が書けたらいいんですけど……。

写真や絵などを貼り付けて、二次元の旅をしています。

文公さんの亡命時代 中歴-34

2015年12月01日 21時41分00秒 | 中国の歴史とことば
42【三舎を避く】……へりくだった態度をとる。相手に敬意を表する。おそれはばかって避けること。また、とても及ばないとして相手に一目置くこと。相手を敬遠して避けるなどの意味。
→さて、「三舎」ってどれくらいの距離だと思いますか? 20km?  40km?  60km? 


 放浪19年の公子・重耳(ちょうじ)さんが楚王の成王(せいおう)さんに質問されたそうです。
「もし王として帰国できたら、どのようなお礼を私にしてくれるかい?」と。楚の王様は、わかりやすいお宝が好きなので、大金とか、たくさんの領土とか、空手形でもいいから何か欲しかったんでしよう。

 楚の王様って、どいつもこいつも(?)即物的で、普通の人ならそんなことを訊かないよ、という質問を平気でします。王様がこんななら、人民は推して知るべしで、何かモノをくれるとか、簡単に何かが手に入ることとか、ダダをこねてモノをねだったりするかもしれません。

 最近の中国って、どこかで既視感があるなあと思ったら、三千年以上前に中国には立派な「楚」というお手本があったのでした。

 ねだれるものなら何だって欲しがり、常に見返りを求め、高価なモノ・立派なモノ(たいていは不似合いなモノ)を欲しがってもいい。世界のルール関係はなし。常に、自分たちのルールで物事を進めようとする姿勢は、楚とよく似ているような気がします。三千年ですから筋金入りのわがままです。たいしたものかもしれない。

 宴会の席で訊かれた重耳さんは答えます。……なかなか立派な対応なのです!

 「物資が豊かな楚にはない物はありません。私が晋で王となったとしても、こちらから差し上げられる物は何もありません」と。いい加減なことを言えば、逆に殺されるかもしれないし、亡命貴族には危ない橋はいっぱいあったことでしょう。国にうまく帰れたら、王になるチャンスのあるプリンスって、そうどこにでもいないのです。

 楚の王様の成王がそれで終わるわけがなく、しつこく答えを迫ります。まるでカケでもしてる感覚でしょうか。こんな国土・人命・運命みたいなものを賭けて、発言させようとします。



 そこで、重耳さんは考えました。
 「将来お互いに戦場で相まみえるようなことがあれば、我が軍を三舎(さんしゃ)退けましょう」と。

 楚の宰相の子玉(しぎょく)という部下はこれを聞いて、重耳こそ将来の強敵であると感じて、主人である成王に暗殺を勧めたそうです。

 ところが、ゲスとはいえ、一応保護してくれている成王さんですから、嫌いじゃなかったのかもしれなくて、
 「彼には天の加護がある。その天の意向に逆らうことはできない」と却下してしまいます。

 それから、重耳さんは秦(しん)の庇護(ひご)をうけて帰国して、君主の座につき、春秋五覇(しゅんじゅうごは)の1人に数えられる晋の文公(ぶんこう)になります。楚のバックアップじゃないというのがミソですね。

 やはり秦は昔っから、それなりに中国世界の中で独自の位置を占めていて、その勢いが400年後の始皇帝につながるのでしょう。長い期間がありますが、少しずつ大きな存在となっていったわけで、突然に秦の始皇帝が現れたわけではありません。

 それから後に、城濮(じょうぼく)の戦いで楚軍と対戦した晋軍は、実際に軍勢を三舎後退させて約束を果たしたそうです。この戦いでは晋軍が圧勝し、責任を取って子玉は自害するオマケまでついています。不思議な巡り合わせで、少し話ができすぎている気がしますが、まあ、そんなものなんでしょう。《春秋左氏伝》



★ 史記・晋世家には、
 重耳曰く、「やむを得ずして、君王と兵車をもって平原広沢(へいげんこうたく)に会せば、請ふ王を辟くること三舎ならん」とあります。

 何をくれる? とねだっている権力者に、よくぞこのような答え方で済ませられたものだと感心するくらい肝っ玉回答です。普通なら、相手が恐ろしい人なんだから、もっと相手を喜ばすような、ありもしないことを約束してしまうものなのに、重耳さんはそれをしなかった。「戦場で出会ったら退却します」それだけだった。

 よほどの自信家なのか、政治的発言なのか。たぶん、あちらこちらで鍛えられ、苦労している人なので、考えた答弁のできる人だったんですね。苦労はしてみるものです。もう私はダメですから、せいぜい楽できることでも考えましょう。


★答え……「一舎」は軍隊の1日の行程で30里。3日分の行程だけ退くことになるので、計算すると90里になります。90里は現在の約60kmに相当するので、戦場で対面したら、60kmほど遠ざかりましょうと約束したことになります。


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