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★ 石上露子(いそのかみつゆこ)さんという歌人がいました。
大阪の富田林出身で、晶子さんなんかと同じ時代に活躍した。けれども、彼女の歌集は、岩波文庫にも新潮文庫にもなくて、中公文庫で出ています。とはいえ、普通の本屋には売ってなくて、わざわざ富田林に出かけるか、古本市でたまたま見つけるかしないと、手に入りません。
私は、いくつか紹介しなくちゃと、途中まで読んだっきり、しばらく放置していました。また、ふたたび読んでもいいかもしれない。
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いつの世かはぐれし人の魂と似てひとり立つ野の胸による影
私たちは家族といても、集団の中にいても、ポツンと1人を感じる時があります。むしろ、感じねばならないかもしれません。何ごとも、最終的には1人ですから。
この歌は、イメージの中で1人野原に立って、過去の人々もそうだったように、人は1人では生きられないのけれど、幸か不幸か、偶然それとも必然的に、心は1人になってしまった。そんな孤独感を訴えてはいます。
過去の人々もそうだったように、私の心も、自らの人生の中で方向性を失ってしまったようだ。ポツンと1人の気持ちになってしまった。でも、それを知ってか知らでか、だれかがそっと救いの手をさしのべてくれそうな気がする。……最後の「胸による影」というのが気になってしまうのです。
「はぐれ」「ひとり立つ」とさびしいことばが並んでいますが、でも、そんなに悲観してないのよ。わたしは大丈夫。なぜなら、私を見守ってくれている人の存在を感じるから! という元気さも伝わります。
だれしも1人にならざるを得ない。けれども、そうした孤独を救ってくれるのもやはり人なのだと、若者らしさが出ていて、はぐれようが、ひとりだろうが、大丈夫という気にさせる強さがあります。誰かの救いを感じている、そう思いたいです。
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君ならぬ車つれなう門すぎてこの日も暮れぬ南河内に
さっきは気丈な女性だったのに、今度は一転して「待つ女」になっておられて、車は人力車なのだと思いますが、車輪の音がかすかに聞こえて、恋しい君のおとずれかと思うのも一瞬で、すぐにどこかへ去ってしまい、がっかりして一日が終わってしまう。南河内の富田林のお屋敷からだれかを待っている女性の、せつない恋心が書かれていて、シンプルでステキです。
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われ君を思ふに疲れ痩せたれば夜の灯影(ほかげ)にも堪(た)へず消(け)ぬべき
恋しくて恋しくて、やせ細って、夜の灯りにも堪えられなくて消えてしまいそうというのです。シンプルな恋の歌だ。と思いましたが、「夜の灯影」にも「堪えられない」とは、どういう感じかな? それくらい自分の存在が頼りないということかな。
尼ごろも念仏(ねぶつ)しながらわれ被(かづ)く心かなしきこほろぎの家
露子さんいつ出家したのでしょう? おかしいなあと思いつつ、「こほろぎの家」がおもしろいなあと思いました。
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秋かぜに思ひみだれぬ君が野にすてにし夢のからも恋しき
野原に夢のかけらを捨ててしまう男、そんなかっこいい男になりたいなと思います。ボクはみみっちいオッサンなので、もっぱら拾うのが専門で、拾い集めてゴミだらけになることばかりです。そういう捨てる男って、それが似合う男、それができる男は、簡単になれるものではありません。そういう何ものにもこだわらないで、ただ前を向いて進んでいく男って、魅力的なんでしょうねえ。
以上、感想でした。
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写真を見ると、露子さんは古典的な明治の女性で、髪をあげていて、お上品な感じです。写真がすべてではないですし、詩人は顔で勝負しているわけではないので、どんな顔をしていようが、作品そのもので勝負です。
作品と写真とのギャップはあまり感じないですね。ああ、こんな感じ、と思ってしまいます。