Aさんは今、中国に行っているそうです。国内では盤石だから、いよいよ敵地の中国に乗り込んだんですね。どれだけ成果が上げられるのか、どれだけ踏み込んだことが話し合えるのか、とても不安ですね。基本は、中国の首脳部さんは、日本なんて無視しているから、あまり話にならないのじゃないかな……。
私が中国側なら、やはり嘘くさい、うすっぺらな人間だなと、ほんの数分で見破れると思うんですけど、それでも一応国のトップだから、それなりの対応をしなくてはいけないのが腹立たしいと思うかもしれない。
いや、何ともあわれな、道化師のような笑いとペーソスを感じ、ねぎらいの対応でもするかな。それくらい、当てにならないし、それくらい中身のないことしか話さないでしょう。
彼はただの傀儡(くぐつ)に過ぎないのかもしれない。うらのスタッフは、それなりの戦略を持っているので、その人たちの中から、だれか見込みのある人でも探すか、探り探りの対応をするしかないですね。
だから、もちろん習近平さんは出てきません。そんなの時間の無駄だし、格が違うんでしょう。アメリカの大統領とか、ヨーロッパの首脳なら、習近平さんも出てくるでしょうけど、とりあえず、その程度の対応で十分な相手として処遇されている。
さて、中国では、その人にふさわしい人での対応をするというのか、とにかく格が大切にされています。
王様がいて、家老みたいな人がいる。そういう人たちは格式が高いし、王族から政権を担う人だってたくさん現れます。だから、下々のものが急にすっ飛ばして王様に会うということはあり得ません。それなりに紹介者がいたり、だれかの保証があったり、その格式にふさわしい物を持っていたり、何か格がないと、王様には会えない。
手っ取り早いのは、お金持ちになって、そのお金の力で王様に会見を求めるというのは可能ですけど、お金儲けが大切な人は、わざわざ王様に会おうなんて、思わないのが基本です。何か魂胆がある時だけそうした機会を求めるのかな。
余計なこと書いてないで、早く中国の歴史に行かなくては!
以前、商鞅(しょうおう)さんのことを書きました。紀元前338年に亡くなっているので、戦国時代もあと百年くらいしかありません。まだまだ書き切れていないけど、すべてをまとめきれるのか、少し心配です。でも、いよいよ蘇秦さんに取り掛かりたいです。
蘇秦(そしん)さんは、BC317年に亡くなっているので、それほど時代は過ぎていません。むしろ、商鞅さんがいなくなった直後のころだと思われます。二人は時代的にも重なっているところはあるでしょう。
秦という国は、いろんな人材を登用し、着実に国力を増し、何度も東側諸国に圧力を加えています。少しずつ東側の国々にとっては脅威になっていきました。地続きではあるけれど、境界に山塊があって、すぐに攻撃を受けるわけではない。でも、力をつけている軍事大国がある、そんな存在です。
田舎くさい国とバカにすることもあるけれど、怖いのは怖い。戦争をすると、たいていはあちらが勝ってしまうくらいに実力はある。文化はあるのかどうか……。
秦の西側の洛陽、ここに蘇秦さんは生まれ育ちます。世に出るために東の国の斉に出かけ、ここで鬼谷(きこく)先生という人に教えを乞うたそうです。同門には後に秦で活躍する張儀(ちょうぎ)さんもいたそうですから、二人はお互いの存在は意識していたんでしょうか。
ふるさとを遠く離れて、何を学んでいたのか、とりあえず、戦国の世を政治スタッフとしてどのように王様を支えるか、どれだけ王様に気に入られるか、どうしたら王様の心をつかむことが話せるか、あれこれと修練したはずです。
そして、いよいよその才能を売り込むために、諸国を遊説したそうですが、どこにも採用されなかったそうです。何のためにわざわざふるさとを離れ、勉強していたのか、すべてがムダに見えたでしょうか。そういううまく時流に乗れなかった人、たくさんいたんでしょうね。それら有象無象のやからは、うさんくさく、どれもギラギラした欲望が見え見えだったでしょう。そんな人たちが相手にされることはまずなかった。
だったら、どうしたらいいんでしょう。
家族も、蘇秦さんが帰国した時、誰も相手にせず、どうしてノコノコ帰ってきたのだ。どの面下げて家の敷居をまたぐつもりかと、こきおろされたことでしょう。妻からも冷たい目で見られたそうです。
まあ、奥さんは、旦那の発奮を期待したのかな……?
「昔から、私たちの地方では、畑仕事に精を出したり、商売をがんばったり、職人として技を磨いたり、それぞれに与えられた道をコツコツ努力することで生きてきました。その中でわずかな利益を得て、自らの生活を営んできたのですよ。
ところで、あなたは何をしてきましたか。
あなたは生活の基本となることをせず、ひたすらおしゃべりだけで王様に取り入ることばかり考えてきました。その結果が現在のみじめなあなたの姿です。これも仕方のないことではありますけれど……。」
奥さんにムチャクチャを言われました。でも、真実には違いない。確かに現在はあわれな失業者で、だれからも相手にされないし、なんのために遠くの国で勉強したのやら、という状態です。
さてここで、蘇秦さんはある技能を身につけたそうです。それが75番です。
76【揣摩臆測】……自分だけの心で他人の心や事態の形勢を推し量ること。
これを何と読みますか? 揣摩とは、推し量るの意味。憶測は、想像によるその場限りのいい加減な当て推測です。
家族からも総スカンをくらった蘇秦さんが、部屋に閉じこもり、家の中のあらゆる書物を読み、編み出した一つの技術でした。
王様の心にどのように入り込むかという技術だそうです。蘇秦さんが編み出したその技能は伝えられてはいないけど、心理学みたいなものだったんでしょうか。私も、できればそういう人心掌握術みたいなのを知りたいですけど、何だか面倒だなという気もします。
そこまでしてしゃべりで出世するなんて、詐欺みたいでイヤなんですけど、まあ、それができてからイヤといえばいいのかな。
★ 答え 76・しまおくそく