汽車、雨などテーマを見つけましたが、それだけで賢治さんがわかるわけではありません。いや、むしろ全然わからないでしょう。
でも、ひとつのアブローチとして、私なりの近づき方です。それはそれでいいですね。
探しているうちに、ついふせんを貼り付けたのを取り上げてみます。明日はお休みですもんね。みなさんはどうですか?
8 中尊寺青葉に曇る夕暮のそらふるはして青き鐘なる
この歌碑を中尊寺で去年見たんでしょうか。見たような気もしますし、他の歌だったような気もします。
よくわからない歌でした。題材はいろいろとあるのに、スカッとしていなくて、アンバランスな感じです。
「中尊寺の青葉」でキレイかなと思ったら、「曇」ってしまうし、お寺の鐘が「青い」って、青葉に合わせたんだろうけど、頭で作ったみたいな組み合わせで、説得力が弱い気がします。
「鐘」が空を振るわせるのはダイナミックでいいけど、「夕暮」はどういうポジションなんだ? 夕方なので鐘が鳴ったのかな。だったら、ありきたりだな。
十代半ばの賢治さんに文句を言ってもしょうがないです。それから賢治さんは精進したんだし、独自の世界を作ったんだから、私みたいな者があれこれ言うことではないです。
いろんなものを詰め込んだ短歌です。その組み合わせは、後のお話世界の素材的なものかもしれない。
9 桃青(とうせい)の夏草の碑はみな月の青き反射のなかにねむりき
できればこちらを歌碑にしてもらったら、少しドキッとするかなと思いました。
「桃青」とは芭蕉さんのことです。「夏草の碑」とは「つわものどもの夢のあと」の句です。それが6月の光の中でまどろんでいた。なかなかいいセンスです。
雨が降っているとかではありません。きっと東北の6月は、そんなにジメジメしていないのでしょう。アヤメなんかが咲いてキラキラしているはずです。でも、昔の句碑は静かに眠っているようだった、なんてなかなか書けません。
こちらの方がいいような気がします。
79 うしろよりにらむものありうしろよりわれらをにらむ青きものあり
こういうナンセンス短歌いいですね。説明もないし、何だろうこれはと思わせてくれます。とても私には書けません。「青き」を空欄にしたら、「黒い」とか、「闇の」とか、「冷たい」みたいなことしか書けません。
私たちの不安の陰なんだろうか。ビカソの青の時代というのもあったけれど、静かでそんなに主張はないのだけれど、何かにおびえて、探り探り人の姿を造形しているときのような、あんな命とは何かに悩んでいる姿を見せてくれているような気がします。
224 そら青くジョンカルビンに似たる男ゆっくりあるきて冬きたりけり
今日の隠しテーマは「青」なのかなというくらいに「青」の歌にふせんをつけてしまいました。
冬が来るとき、ちょうど今ごろの季節、朝でも夜でも夕方でも、とにかくノソノソやってくる長身の男。それがジョンカルビンという響きだったんですね。
どこかで知り合った外国人なのか、それとも当時話題になった人なのか……。とにかく意味はあるのかないのか、わからないけれど、冬がやってくる感じはします。
222 うろこぐも月光を吸ひ露置きてぱたと下れるシグナルの青
最後は無理矢理の青です。これもやはり今ごろの季節感です。
うろこ雲が月の光を吸収している。そうなると、どんどん寒さが増して、露や霜が降りる。そしてバタリと信号が青になる。まるで信号の音まで聞こえてきそうな冴え冴えとした晩秋です。これは夜の初めみたいな感じです。なかなかいい風景の切り取り方です。
さて、勝手に付箋をつけたところ、みんな青の歌でした。その偶然にビックリしています。何をやってんだか……。