リタイア暮らしは風の吹くまま

古希を迎えて働く奥さんからリタイア。人生の新ステージで
目指すは悠々自適で遊びたくさんの極楽とんぼ的シニア暮らし

2009年5月~その1

2009年05月16日 | 昔語り(2006~2013)
グローバル・メディアイベント

5月1日。のんきにコニャックなど傾けながら、とりとめもない話をしているうちに午前5時をすぎて、空が明るくなってしまった。市民薄明とか常用薄明とか言う、日の出の前の夜明けの時間で、空はなんともいえない、すばらしくきれいなブルー。薄明が始まるのは夏時間で午前5時過ぎ(標準時なら午前4時すぎ)で、今の日の出は6時ちょっと前(標準時なら5時ちょっと前)。あんまり宵っ張りをやっていられない季節ではある。

日本初の新インフル患者発生の大ニュースはどうやら空振りに終わったらしい。日本に帰れなくなると大騒ぎしていた掲示板の住人たちは、「日本のマスコミはがっかりしているように見える」、「マスコミや政府が恐怖を煽っている」と、今度はマスコミ非難。カナダの(英語の)テレビや新聞はよくわからないから、日本の報道や口コミを情報源にしている人は多いだろう。その彼らがそんな印象を受けたのなら、きっと相当なフィーバーぶりだったんだろうな。たしかに、普通のインフルエンザだったと発表されたとたんに、報道が急に沈静化したような観はある。(ひょっとしたらゴールデンウィークでみんな「66キロ渋滞」のどこかにいるのかもしれないけど。)同時に掲示板の方も関心が冷めてきたような感じ。まあ、今どきの人たちの「Attention span(注意の持続度)はそんなていどなのかもしれないけど。

けっこうのんびりして見えるカナダでさえ特にテレビの報道は扇動的だという批判が出てきたところをみると、新型インフルエンザは今世紀最大の「グローバルメディアイベント」ということになるのかな。もちろん、どこかで急に強毒性に変わる可能性はあるだろうけど、普通のインフルエンザだって、HIVだって、何だっていつ突然変異して危険な「毒性」を持つかわからないわけで、新型のインフルエンザだからって、むやみに深刻だ、深刻だと煽っても何の利益にもならないと思う。第一、「H1N1」は1976年にアメリカで発生した豚インフルエンザと同じ型で、まったくの新顔というわけでもない。(ちなみに、この豚インフルエンザで死んだのは1人だけで、あとの25人は急いで製造したワクチンの副作用によるものだったという話がある。)

ゴールデンウィークの海外旅行の出国がピークだそうだけど、ペナルティを払ってでもキャンセルした人も多いらしい。写真を見ると、出かける人たちもけっこうマスクをしている。小町には「遊びに行って感染して来て、日本で広めるかもしれないのに、腹が立つ。倫理観の問題だ」という人がいたけど、いつもの「人(=自分)に迷惑をかけるべからず」型の意見なんだろう。独裁者になって恐怖政治をやりかねないような怖い人もいるもんだ。まあ、出発した人たちも「怖いけど・・・」というところかもしれないけど、戦々恐々の旅行になるのか、スリル満点の旅行になるのかはそれぞれだけど、どっちにしても、後々まで思い出の種になればいいと思うけど。

トロントでは、ある財団が予定していた講演会が、東京から招いた講演者が「最近の北米における豚インフルエンザの状況に鑑みて」カナダへ来るのを取りやめたために、ドタキャンされたとか。日本国外務省がカナダへの渡航を禁止したわけじゃないだろうけど、きっと「危険地域」に指定されているんだろうな。まあ、本人が「だから行きません」というならしょうないな。メキシコのリゾートでインタビューされたカナダ人の家族は、夫婦とも医者で、2人の子供を連れての休暇。「子供たちにもしっかり手を洗わせているし、予防手段を実行しているから、あまり心配はしていませんよ」とにこにこ。ほんとに、人間はいろいろ・・・

世界のメディアの報道を読み比べると、地球規模でなかなかおもしろい人間模様が見えてくるし、個々の人間のレベルでは個々の人間その人が見えてくる。ある意味で、People watchingの絶好の機会とも言えそうな事件ではある。

ぶたも災難のパンデミック

5月2日。久しぶりに雨模様の空が広がってきた土曜日。まだぽつぽつ程度だからと、カレシは庭仕事に忙しい。バックルームの窓の外には野菜の鉢がずらり。最低気温も10度前後で推移するようになって、やっと夜間のヒーターが不要になった。なにしろ。冬の間にたかだか12平方メートルの小さな温室を最低でも5度に保つためにかかる電気料金が、185平方メートルの家全体の暖房費の倍以上になる。この冬は特に寒かったし、料金体系の変更で一定以上の使用量は大幅値上げになったもので、1月/2月分の請求書は一気に前年同期の20%増だった。さすがに次の冬は床に作った大きなプランターの土の中にヒーターケーブルを埋め込んで、サラダ用の摘み菜を栽培することにしたそうだけど。

極楽とんぼは日本のゴールデンウィークに便乗して、この週末はしっかり休業。結局のところ日本の金曜日ぎりぎりに仕事を2つばかり置きみやげされたけど、まあ日本は水曜日までの五連休ということで、こっちものんびり。(もっとも、ジャンボ仕事第1陣の方のそろそろ手を付けないとまた慌てることになるんだけどなあ。)仕事がほぼ途切れずに続いたあとはいわば宇宙ステーションで、船外作業が終わって、エアロックで宇宙服を脱ぐようなもので、もたもたしているとすぐにまた次の船外作業の時間になってしまう。わかっているんだけど、やっぱりやろうと思っていたことも思っていただけで、結局はやらずじまいで1日だらだらとリラックスのしっぱなし・・・

まだまだ患者が増えているH1N1インフルエンザ。お隣アルバータ州の養豚農場で、こともあろうに豚がメキシコ帰りの従業員にインフルエンザを移されたんだそうな。豚インフルエンザの発生源とさんざん白い目で見られたあげくに、人間からその豚インフルエンザをもらっちゃうなんて、豚も楽じゃないなあ。すぐに隔離されたそうだけど、このまま死んだら仲間も危ないからといっしょに殺されるかもしれないし、快復したら快復したで、やっぱりいずれは人間に食べられてしまうんだから、つらいところだなあ。

つらいといえば、このゴールデンウィーク、はんぱじゃないキャンセル料を払って海外旅行をやめた人もかなりいたらしい。これから予定があって、行こうか、やめようか、どうしようかと悩んでいる人も多いらしい。小町でも「行く人」、「キャンセルする人」、「行くなという人」と、いろいろ。だけど、まとめて読み通してみると、ワクチンが効かない新型インフルエンザに感染するかもしれないのは怖いけど、もっと怖いのはどうやら「世間の目」ということらしい。勝手にちょっと引用・・・

「日本人で感染または感染疑いになるとかなりの報道がされて、大変なことになるのも怖い」
「熱出しただけで今ならテレビにも映されるから」
「無事に帰国したとしても、この騒ぎの中で「海外に行った」ことに対する周囲の白い眼が怖くてやめました」。
「万が一貴方が日本にウイルスを持ち込むかもしれない。一人の人間が自分の周りを考えて行動しなければ日本にもこのウイルスは持ち込まれるでしょう・・・」
「豚インフルエンザに感染して帰ってきたら、あなた一人の問題ではないということ」

周囲からぎろっと睨まれているような、すごいプレッシャーで、ストレスもたまるだろうなあ。あげくには「渡航禁止になってくれれば諦めもつくのに・・・」とため息。政府もつらいところだなあ。感染者が出た国を渡航禁止に指定してみたところで、向こうから来る人たちの日本入国も禁止しないと意味がないような気がするけど。つまりは、絶対に確実に安心したいのなら、日本は周囲を海に囲まれた「島」なんだから、1週間なり2週間なり、あるいは世界中が安全になるまで、鎖国すればいいってことじゃないのかな。そうしたら、危ないところへ出て行った人たちは帰って来れないからみんな安心できるし、海外旅行ができなくなるから泣く泣くキャンセルする人もなくなるし・・・

ホッケーのプレーオフ第2ラウンド第2戦は、2点のリードをふいにして負け。こっちの熱かげんはまだまだ高温だから、怒ったファンが暴動を起こさなければいいけどなあ・・・

日曜日、双子の洗礼式

5月3日。雨の予報に反して青空がのぞく日曜日。今日は双子の洗礼式の日。寝過ごさないようにしっかり目覚ましをかけて、午前11時半起床。軽い朝食を取ってから、二人ともめかし込んで出かけた。カレシは長いこと着なかった上着を「ちょっときついなあ」と言いながらご着用。極楽とんぼは二十歳くらいの頃に亡き母が縫ってくれた水仙色のレースのスリーブレスドレスとボレロのコンビ。嫁入り荷物に入れて来て、その後母の形見として大事にしまっておいたドレスは、膝上ぎりぎりでシンプルなデザインだから、40年の流行の変遷とは無縁の感じ。それにしても、花も恥らう二十歳の頃に着たドレスを(ちょっぴりきつくは感じたけど)還暦を過ぎてまだ着られるというのは、うん、なんだか感激ひとしおのような気持。

会場の聖カシミール教会はポーランド人移民が最初に集まって住みついた地区にあって、イアンとバーバラの二人の子供たちもここで洗礼を受けのだという。幼稚園や修道院も同じ敷地にある。着いたときはまだ日曜日のミサの最中。洗礼の参列者が教会の前のあちこちで談笑しながら待っていると、やがて教会のドアが開いて、司祭と聖歌隊。その後から出てきたのは揃いのクリーム色の生地に鮮やかな刺繍を施した民族衣装を着て、大きな羽根のついた(ちょっとチロル風の)帽子をかぶった男性たち、続いて軍人のような襷をかけた人たち。5月3日は日本と同じくポーランドでも憲法記念日なのだそう。ポーランドの憲法は1791年にできたもので、世界で2番目に古い近代憲法だったけど、その4年後にはポーランドは分割されてしまい、第一次世界大戦後まで百年以上もの間ポーランド人の団結を支えてきたのだという。今日の憲法記念日はポーランド人にとっては一番重要な祝日で、そのための特別ミサがあったわけ。ちなみに衣装は山岳地帯の人たちの伝統衣装なんだそうな。どうりでちょっとチロル地方の民族衣装を思わせるところがある。

アンとブライアンは透けたレースのブラウス風のフィリピンの伝統衣装を羽織っていた。男性のはバロン、女性のはキモナと言うそうで、なかなかしゃれた感じ。双子はレースで縁取りして、すそに小さな花を散らした真っ白な長い洗礼用ガウンに同じデザインのボンネット。まるで赤ちゃん人形のようで、思わず頬ずりしたくなるくらいかわいらしい。ゴッドファーザーはモントリオールから双子より3週間先に生まれた息子のアンドレアスとママのシンシアを連れてやってきたアンのお兄さんのロバート、ゴッドマザーはブライアンの妹。ポーランド系もフィリピン系も家族や友達との密なつながりを大切にする人たちだから、参列者は100人近くい。

洗礼はポーランド系フランス人の司祭が(参列者の半分はポーランド語がわからないので)英語で進め、ジュリアン・ヘンリックとブライアン・マテオの兄弟は順に銀の壺から頭に聖水をかけられて、めでたく教会のメンバーになった。その間、ジュリアンはカメラのフラッシュがおもしろいらしくて、終始きょろきょろ、にこにこ。式の前から大あくびをしていたマテオは、水をかけられたときに「キャッ」と声を上げたけど、すぐに眠ってしまって、記念撮影の間も騒ぎをよそにスヤスヤ。ふ~ん、なんだか大物になりそうな子だなあ。

双子と、いとこのアンドレアスの3人をよく見比べて見ると、パパがポーランド系、ママがフランス系とオーストリア人の混血のアンドレアスは目も青くて、(あたりまえだけど)どこから見ても白人。双子の方は、マテオは丸顔でくりくりした目がパパにそっくり(それでミドルネームがフィリピン名の「マテオ」)、色白で面長のジュリアンは髪の色も薄茶色でママによく似ている(それでミドルネームがポーランド名の「ヘンリック」)。だけど、二人とも(あたりまえなんだけど)アジア系、ヨーロッパ系のどっちともつかないミックスの特徴があるからおもしろい。でも、この三人三様の違いが何世紀か先の未来のカナダ民族の姿なんだと思うなあ。とってもすばらしい日曜日だった。

黄色いジャーナリズム

5月4日。静かな月曜日。日本はまだゴールデンウィークなおかげで、極楽とんぼの仕事場も便乗して静か。土曜日にけっこう食べ過ぎたり、日曜日にでかけたりの忙しい週末だったので、今日は休養日ということにしてしまおう。(あとであわてるのに懲りないなあ・・・。)

いろいろと騒がしかった1週間のグローバルメディアイベントも息切れし始めたのか、落ち着きを取り戻したのか、どっちにしろ静かになった観がある。ニュースでは毎日政府や医療の関係者の記者会見があるけど、カナダの確認患者数は何人で、どういう容態で、管轄省庁はどんな見解で、何をしているか、という発表があって、そのあとの質問にも、「インフルエンザウィルスの性質上、楽観は許さないけれども、対策は講じているのでむやみに心配する必要はない」という答が返ってくる。ちなみに、カナダでの現在の確認された感染者数は140人、豚約200頭。大半がメキシコと接点があり、軽症で快復。入院した重症例は子供1人。死者ゼロ。

ローカル掲示板では、「カナダ発の感染」が空振りとわかってからは、呆れるくらいの冷めっぷり。心配になったのかどうか知らないけど、日本から「ほんとに日本だけが騒いでいるのか」という書き込みが登場した。「新しい伝染病について心配するのは万国共通のはずなのに、アメリカ、カナダで騒いでいないというのは、英語がわからなくて現地のニュースを見ていないだけなのか、カナダでも絶対に必要以上に心配して対策をしているんじゃないのか」と。新種のインフルエンザを「新しい伝染病」と誤解しているらしいことの方がちょっと気になるけど、まあ、カナダだって個人のレベルでは必要以上に心配な人はいるだろうな。マスクはしていないかもしれないけど、カナダ人は無知でもなければ、無責任でもない。心配のしかたと対応のしかたが日本人とは違うというだけで、要するにこれが異文化なんだと思ってもらうしかないんだけどなあ。

日本のテレビ報道は見られないからどんなものかはわからないけど、例の何とか君の裸事件の報道の過熱ぶりや、小町の『豚インフルエンザ』というトピックの書き込みを追っていて得た印象からすると、たぶんかなり不安を煽るものだったんだろうな。それもたぶんに「怖い病気」への不安よりも「社会的な村八分」への不安の方がかなり大きく煽られているように見えた。もちろん、その社会の中にいる人たちにはそういう圧力をかけ合っている感覚はないんだろうけど、大不況で節約だ、貯金だと走り回る姿と、6ケタのキャンセル料を払って旅行を取りやめる姿は、外野の目にはどうも乖離が大きすぎて理解しがたい。金はあるところにはあるということかもしれないけど、それにしても、半月やひと月の生活費に匹敵しそうな金額をムダにさせるほどの「恐怖」って、いったい何なんだろう。

過熱?報道で思い出したのが、『The Front Page』という映画。狂騒の1920年代のシカゴを舞台にしたもので戦前に作られ、70年代半ば頃にリメイクされた。死刑執行目前の殺人犯が脱走して、特ダネ争奪戦にてんやわんやするコメディだけど、リンドバーグ事件やサッコ・ヴァンゼッティ事件の過熱報道に代表されるような、当時の扇情的なマスコミの「イエロージャーナリズム」を風刺したものでもあった。イエロージャーナリズムといってもアジアとは無関係のネーミングで、一般大衆に新聞を普及させた功績はあるものの、その新聞を競争相手より1部でも多く売るためには捏造も朝飯前という俗悪なものだったらしい。

現代になって、北米では24時間ニュース専門のチャンネルが雨後のたけのこのようにできたり、ニュース番組がショー番組化したりで、イエロージャーナリズムは裏口から忍び込んで来ている感じがするけど、日本在住外国人向けのサイトにときどき載る日本の「テレビニュース」のクリップを見ると、あっちも相当なイエローぶりに見える。ありとあらゆる情報が玉石混交で氾濫するインターネット時代では、主流のメディアも、アマチュアがネットに垂れ流す情報の目線や感性にまで質を下げないと太刀打ちできないのかもしれないなあ。

擬音語・擬態語・擬情語

5月5日。国もいろいろ、人もいろいろ・・・と打っていたら、IMEがひらかなに飽きたのか、急に「色々」と変換して来た。そっか、「いろいろ」というのはカラフルということなんだ。カラフルということはおもしろい模様が描けるということだなあ。英語でよく「various」と訳すのがこの「いろいろな」と「さまざまな」という2の形容詞。「さまざま」は漢字変換すると「様々」。辞書を引いたら、「様」というのは、「ありさま、ようす」、「すがた、かたち」と書いてあった。つまり、「様々」というのは抽象、具象をひっくるめて異なるものがたくさんあるということか。英語の「Various」も「異なる形状、種類などを持つ形質または状態」を意味するラテン語から来ている。なるほど、「異をもって合す」というところか。

「様々」と書いて「さまさま」と読めば感謝感激になるからおもしろい。「ざまぁ見ろ」と悪態をつくときの「ざま」も同じ漢字だったとは知らなかった。つまり、(自分のかっこ悪い)「様」を見ろ、ということらしい。「ありさま」を漢字変換すると「有り様」。辞書には「ようす、形態、光景」と書いてある。同じ「有り様」を「ありよう」と読むと、「ありさま、ようす」の他に「ありかた」が加わり、さらには「実情、あるべき理由」という意味があるらしい。読み方が変わるとニュアンスが違って来るところがおもしろい。「様子」には、「ありさま」のほかに「身なり、姿」、さらには「物事が起こりそうな気配」、「そぶり」、「事情、わけ」と発展するから、ほんとに言葉も「様々」。それにしても、その「様」がどこをどう回って人の名前につける敬称になったんだろう。

おもしろくなったついでに「色」を引いてみたら、もちろん視覚的に見える「色」の他に、「顔色、表情」という意味もあって、さらに「情愛、色情、情人、愛人」と続き、「おもむき、風情」と出てくる。人間の肌の色という定義もあるけど、これは人種によって違う肌の色ではなくて「色が白い、浅黒い」という色合い。ついでに「おまけ」の意味まであるのはおもしろい。ちなみに英語の「colour」はラテン語のcelare(隠す)に近い語らしい。色を塗って地を隠すということかな。そういえば、「色をつける」だけでなく、「潤色する」とか、「影響する」といった意味もある。ほんとにいろいろで、これも展開して行くとおもしろそう。

それにしても、日本語には音や語を反復させる擬音語や擬態語が多いなあ。音を表現する擬音語(phonomime)はどの言語にもあるんだけど、音のしない状態を表す擬態語(phenomime)は日本語(と韓国語)に圧倒的に多く、心理的な状態を表す擬情語(psychomime)というのもある。ほとんどが「きらきら」とか「いらいら」といったように、二音を二度繰り返すものが多いのがおもしろいところだけど、同音語の多い中国語の影響なのかな。擬態語と擬情語は、英訳では副詞を当てることが多いけど、それでも「感性」をぴたりと一致させるのは難しい。

ちなみに、副詞の代表格は「-ly」で終わる語だけど、使いすぎると安易な表現を使った拙い文章だという印象を与えるらしい。創作クラスで「-ly」で終わる副詞を使わない練習をさせられたときは、ありったけの想像力と語彙を駆使しての大変な作業だった。それでも、できあがった短編は描写に奥行きのようなものができていて、自分でも驚いた。だからといって、擬態語や擬情語を使わずに書いた日本語文が良い文章なのかというと、必ずしもそうではないらしい。日本文化が感性を重視するものであるなら、それを表現する日本語から擬音語、擬態語、擬情語を取り除いてしまったら、意思伝達の手段の役をなさなくなってしまうのかもしれない。あ~あ、つらいのは「理屈派」と「理屈抜き派」の間に挟まって悶々とする翻訳者。あげくの果てに「Traduttori traditori(翻訳者は裏切り者)」とまで言われてしまうし・・・

きのうという1日

5月7日。あれ、気がついたらきのうは「空白の日」。「空白」と言っても別に頭の中が空っぽだったわけじゃなくて、刻々と迫って来る納期を示す時計を横目で見ながら、ねじり鉢巻の一心不乱で仕事をしているうちに1日が終わってしまうのがいつもなんだけど、きのうはジャンボ仕事にやっと着手したのが真夜中を過ぎてから。

そもそもカレシがやたらと早起きしたのが始まり。「気になることがあるからドクターの予約を取った」と起こしに来た。2年ほど前に似たようなことがあって、たいしたことなくおさまったけど、今度はもうちょっと様子がおかしいという。とにかく起きて、朝食もそこそこにダウンタウンへ。マー先生には1年半くらいご無沙汰かな。まあ、それは無病息災だったということだけど、その間に先生のオフィスは前の場所よりさらに4ブロック西のビルに移転。いつも車を止めるところからは歩いて20分くらいかかるから、ちょうど良い運動になる。

前の感染症の再発かなと思っていたら、今度は潰瘍が見られるので血液検査をするという。検査でわかるものはまとめて検査して、その結果から絞って行くのがマー先生の診断手法なんだけど、検査項目になんと「梅毒」があるというから、思わず「おいおい」とカレシの顔を見てしまった。「消去法なんだってさ」とカレシ。ふむ、症状から考えられるのは、機械的な炎症、性感染症、がんの3つ。カレシの名誉?のために言えば、性感染症の可能性は限りなくゼロに近い。うん、消去法だな。それで行くと、最悪の場合は「がん」という可能性が残るか・・・

検査をしてから帰ろうとラボに行ったら、「食事をしたのは何時間前?」と聞いてきた。「最低10時間絶食してからでないと」って。実はマー先生、この際だからということか、糖尿病と腸がんの検査も入れておいたのだった。ということで、検査は出直しということになった。薬局で処方された抗生物質のクリームを買って、車の方へ歩いて行く途中、今度は極楽とんぼが「いてっ」。コンドミニアムの建設工事で歩道に段差ができていて、そこで足首をひねってしまった。捻挫だ、訴えてやる!とわめいてみたけど、そろそろと歩いているうちに痛みが治まったから、捻挫はしなかったらしい。ジョギングでけっこう鍛えられていたのかな。やれやれ・・・

家に帰ってきてからも、カレシは「何であまり関係ないことまで検査するのかなあ」とうるさい。(本題の「可能性」から意識的に注意をそらそうとしているのかもしれないけど。)でも、糖尿病になっているのを知らない人がかなりいるって言うからね。いろんな合併症があるんだし、それも消去項目のひとつじゃないのかな。大腸がんだって、自覚症状が出てからでは遅いけど、自分から検査してくれって行く人は少ないんじゃないの。「老人医療は予防から」って言うかどうかは知らないけれど、あんがい、治療コストのかかる病気を早期発見して早期治療するのも「予防」の範疇に入るんじゃないのかな。まあ、食事のタイミングを考えなくちゃならないから、検査に行く日を決めたら早めに予告してね。

それにしても、カレシはかなり気になって、頭の中に「空白」ができていたと見えて、きのうの朝はゴミの収集日だったのに、もののみごとに忘れてしまっていた。長い人生、大小いろんな事件が起きるけど、毎日の生活を忘れてはいけないなあ。生活って文字通りの「生きる活動」。つまり、毎日の諸事万端の積み重ねこそが生きることじゃないのかなあ・・・

インフルエンスは怖い

5月8日。ずっと好天のはずなのになんとなくどよんとした日。カレシは今日から3日間は赤身の肉は「禁止」と宣言。赤身の肉を食べるなというのは何の検査なんだろう。ま、フリーザーには魚がどっさりあるから、まず今日はティラピアと行こうか。今日からってことは月曜日に検査に行くってことかな。いつもなら「めんどくさい」、「検査したって何もわかりっことない」とごねて先延ばしするのに、やっぱり今回は気になるのかもしれないな。カレシがドクターが処方した検査を嫌がるのは「病気だとわかったら怖いから」。体調が悪いときはドクターに行って、検査をして原因を突き止めてそれを治す、というのが妥当な流れだと思うんだけどなあ。

今日からはちょっと気合を入れて仕事をしようと早々とPCを立ち上げて、いつものようにニュース巡りを始めたら、お、日本もやっとH1N1感染者を見つけた。それも一挙に3人も。ま、これで世界の仲間入りってことで、まずはおめでとさん。国際交流という名目でカナダに来ていたそうだけど、せいぜい10日じゃ実質的に観光旅行。きっとあちこちの観光スポットへ行ったんだろうな。観光スポットはとにかく人が集まるところだから、観光客は地元の住人よりも他の観光客集団との接触の方が多いかもしれない。観光産業で働く人たちは体調が悪ければ休むけど、観光客は無理しても観光するだろうし、楽しんでいるつもりでも時差や過密スケジュールで体はストレスを感じているだろうから、ウィルスの格好の標的になりそう。それにしても、このご一行様はマスクをしてなかったのかなあ。それとも、感染者がたくさん出ている(滞在先の町でも一行が離れる前後に2人出た)のにカナダ人が無責任にマスクもしないで歩き回っていたせいで「感染させられた」と説明するのかなあ。

電車もどこもかも満員の日本国内では、感染者が出たらあっという間に広がるかもしれないから、日本政府の「水際作戦」も、物々しさと悲壮感はやっぱり滑稽に見えてしまうとしても、島国であることの利点が生かされているわけで、それなりに理に適っていると思う。だけど、病院が熱のある患者の診療を拒否するという現象にはもう言葉がない。成田空港で働いているとか外国人と付き合いがあるというだけで拒否された人もいるという。どうやら「新型インフルエンザの患者が自分のところに来たら困る」ということらしい。病院てのは病気の人が行くところだと思っていたけどなあ。人間の本性は危機のときにむき出しになるものだけど、ここまできたら、根本的に人間として何もかもが欠けてしまっているとしか思えない。

この延長でそのうち、海外から帰って来たとか、喘息もちで咳をしているとかいうだけで村八分のいじめが起きるだろうな。海外旅行したというだけで実質的な停職とも受け取られる出社禁止命令を出した企業もあるらしい。誰かが電車の中で咳をしただけで「ウィルス、怖い」とみんな我先に降りてしまったりするかもしれない。もちろん、そういうのはごく一部の無知な人たちだと言うだろうけど、病院も企業も学校もマスコミも、そこで働いているのは大学を出た「学歴」のある人間で、無学無知の人たちじゃない、よね。みんな神妙に「周囲に迷惑をかけたら申し訳ないから」なんて言っているけど、それは建前も建前。みんなその「周囲(世間の目)」怖いから、とにかく「保身第一」というのが本音じゃないのかな。まあ、そこに住んでいるためにはそうならざるを得ないのかもしれないけど、なんだかインフルエンザよりもインフルエンス(influence)の方が猛威を振るっているような感じがしないでもない。

かくいう極楽とんぼは今日は起きてからなんとなく喉が痛くて熱っぽい感じ。計ってみたら37.5度で、熱というほどでもなかったけど、もしこんな状態で成田に着いたとしたら、わっと白い重装備の人たちに取り囲まれて、逮捕された犯罪人みたいに飛行機から下ろされて、どこかに閉じ込められて、「カナダからの疑い例」と大々的に報道されるのかな。バイキン扱いされそうで怖くて日本に帰れないという人の気持もなんとなくわかるような・・・

ポジティブ思考で手を洗おう

5月9日。土曜日の今日はディナーにお出かけのつもりだったけど、プロホッケーのプレーオフ第2ラウンド第5戦があるので、人がたくさん出そうなダウンタウンは駐車がめんどうになりそうだと予想して、極楽とんぼ亭でのDine-inに変更した。なにしろ7試合のラウンドで現在2対2。あと2試合勝たないとならないんだけど、若い選手が多いチームはちょっと派手に勝ってしまうとその勢いに乗って勝ち進んでしまうから怖い。シカゴはまさにそういうチームで勝つ気満々。さて、どうなることやら。

テレビのニュースを聞きながらディナーの段取りをしていたら、日本でカナダから帰った人たちが日本初の新型インフルエンザ感染が確認されて、一行が訪れていたオンタリオ州のオークヴィルに突如「外国」のマスコミが殺到して、住民がびっくり仰天しているという。もちろん、この「外国」というのは日本のマスコミだろうな。オークヴィル他2つの市町村で形成する地区で確認された感染者数は現在5人なのに日本人が4人も感染したのは何かあると勘ぐってたりして(うっそぉ、ま~さかぁ。)だけどなあ、日本では企業が海外旅行を差し止めたりしているのに、なんだってマスコミがざわざ地球の反対側の日本の新型インフルエンザ「発祥地」に殺到するんだろう。まあ、日本のマスコミは魚の群れみたいにみんなそろってひとつのことにハマってしまうらしいから。

あるアメリカのメディアが、「手洗い、手洗い、手洗い」のキャンペーンの効果で、インフルエンザの感染は続いているけど、「アメリカ国民は総じて清潔になった」と報じていた。あはは、このあたりがアメリカ流のポジティブ思考だなあ。まさにアメリカの活力の源泉だと思う。健康な人がうがいをする習慣がほとんどない北米では、予防といえばとにかく石鹸とお湯で最低15秒かけて手を洗うこと。この15秒をどうやって計るか。それは簡単、簡単。ハッピーバースデーの歌を歌いながら手を洗えばだいたい15秒。これなら幼い子供でもできるからいいし、おとなたちは「ハッピーバースデートゥミー」とやってなんとなくおかしい気分になる。それで、多くの人たちがまめに手を洗うようになればしめたもんだよね。

先日、カナダの失業率が発表されて、かなりの数の雇用創出があったということだったけど、よく見たら、新規雇用のほとんどが「self-employment」なんだそうな。文字通り自分で自分を雇用することで、要するに自営業。この就業形態がクローズアップされたのは27年前の大不況のとき。失業率は二ケタに達して、ホワイトカラーの中堅層に大量の失業者が出た。その中から再就職に見切りをつけて、経験や知識を元手に自営業を始めた人たちが急増した。要するに不況を機におんぶに抱っこの会社勤めに背を向けた「脱サラ」ブームが起きたわけで、今回も「売れる何か」を持っている人たちがそれを自分で売り始めたということだろう。

あるビジネス新聞は自営業の増加を「D-I-Y景気回復」と呼んでいた。まったくいいところを突いているなあ。自営業に転じた人たちは収入が大幅に減ったというけれど、起業したばかりなんだからあたりまえ。自分の事業なんだから、成功してビジネスを大きくする人もいれば、うまく行かなくてサラリーマンに戻る人も出てくるだろう。ビジネスの世界では景気にかかわりなくそれがあたりまえ。インターネットを活用してコンサルタント業を始めたばかりという人がテレビのニュースで「失業率が8%ということは、92%の人は働いているってことだからね」と言っていた。あはは、コップの水の禅問答みたいだけど、ポジティブな思考はエネルギー源。がんばってね。

ちょっと斜めな母の日雑感

5月10日。日曜日。好天。母の日。極楽とんぼは母になれなかったから、何にもないごくふつうの日。どこかで母の日にもらうプレゼントについてのアンケートをやったら、「もらってうれしくないもの」に家電や調理道具、清掃用品が挙げられたそうな。うん、わかるなあ、そこんところ。なんか子供から見た「母」の役割が如実に現れている感じがする。ご飯作ってくれる人、洗濯してくれる人、掃除してくれる人・・・おそらく世界共通の「ママ」のイメージなんだろうな。

人が抱くイメージや第一印象はおもしろいもので、故意に作り出したものの方が受けそうな場合が多いからおもしろい。日本在住外国人の英語ブログに「32才の人気グラビアアイドル(無芸タレントの一種らしい)が外国で18才以下に見られてカジノに入れてもらえなかったんだって」という記事があって、にぎやかなコメントがついていた。「アジア人は実年齢より若く見える」というのが大勢の意見だけど、「若く見えるのと幼く見えるのは大違い」というのもある。でも、(限りなく幼女的な)「かわいい」ことがもてはやされる日本では、32才になってもその半分の年頃に見えるというのはすごいことなんだろうな。でも、そのかわいい顔の後にある中身がどれだけ実年令に近いかの方が重要だろうと思うんだけど、ま、それは逆立ちしたってかわいくないばあさんのほざきってことになるか。

別のサイトには、「外国人が日本人のオンナノコの八重歯をどう思うかをリサーチしています」という触れ込みで、八重歯丸出しのオンナノコが艶然と微笑んでいる写真が4枚。これもグラビアアイドルとかいわれる手合いなのかな。おそらく20代なんだろうけど、せいぜい10才、何とか12、3才にしか見えない。(逆に、欧米の12、3才は日本人の目には30才近くに見えるらしい。)「かわいい」、「かわいくない」の投票は今のところ「かわいくない」が優勢。「3才ならかわいいけど」とか、「ロリコンはかわいいだろう」とか、「いや、なんたって日本のオンナノコはかわいいよ」とか、ここもコメントがにぎやか。それにしても、日本男子はそういうオンナノコにも「ママ」を求めるのかなあ。

ソーシャルブックマーキングのサイトには「日本の男性の半数がトイレに座って用を足している」というジャパンタイムズの記事と、それに呼応して、トイレにひざまずいて用を足すための「天使のひざ枕」とかいう、絶対に女性がデザインしたと思われる道具の写真とイラストを載せたブログの記事が載っていて、これには吹き出してしまった。日本の男は大人になってもまだトイレを汚さないようにと「ママ」にトイレのしつけをされているんだ!奥さんが日本人のメンバーがたくさんいるから、ここでもにぎやかなコメントがつきそうだなあ。男性のトイレに関しては、欧米の奥さんの苦情ナンバーワンは「便座を上げたままで出てくること」だけど、日本では「立ちション」ってことか。う~ん、笑っていいのかどうか微妙なところ・・・。

あらら、母の日の雑感がヘンな方向にずれてしまった。

つまりは平均的な60代

5月11日。雨がどどっと降って空気がさわやか。午後になってさっぱりした晴れ間が広がってきた。でも、なんだか開き深しのような気温。内陸部では雪が降ったとか。5月なんだけど・・・

今日はホッケーのプレーオフの第2ラウンド、バンクーバー対シカゴ第6戦。すでに3敗しているから、第3ラウンド準決勝に進むには、今日は絶対に、絶対に負けられない試合。「勝たなければ」なんて言ってるときじゃない、「負けられない」のだ。ここんとこのニュアンスがなんともなあ・・・。まあ、先制点を挙げるのはいいけど、それを守るのに必死になりすぎて、それ以上攻撃に出ないでいるうちに相手にそれ以上の得点を入れられるから負けているんだという感じがする。リスクを避けて、リスクを冒さず、ひたすらブルーラインを守ればいいってもんじゃないんだけどなあ、もう・・・

今日配達されたMacLean’s誌に「あなたの健康度は?」という特集があった。1年間にわたって読者から集めた気になる「身体症状」をまとめたグラフを見ると、男女共に60才あたりを境にすべての項目でグラフの方向がはっきりと変わっているからおもしろい。加齢に伴う健康問題が増えるのは当然だとしても、男は「社会心理的な問題」以外はすべてが上昇しているけど、女は上昇しているのは身体的な問題ばかり。どうやらカナダの女性は年を取るにつれてハッピーになるということらしい。あるドクターは訪れる患者にまず「職場ではハッピーですか、家庭ではハッピーですか」と聞くんだそうだけど、たしかに現代はライフスタイルそのものがどんどん複雑になって来て、職場だけじゃなくて家庭にもストレスの要因が溢れかえっている。それでも60代になればとっくに子育ては終わっているし、あとは定年までリラックスして行こうということかな。うん、極楽とんぼも60才あたりからハッピー度が上がったから、平均的ってこと・・・。

同じ雑誌に、WHOが新型インフルエンザを「フェーズ6」に引き上げた時にカナダ政府が実施する「パンデミック対策計画」の記事があった。全体でなんと550ページもあって、終わりの方では最悪中の最悪の事態で大量の死者が出たときの遺体の処理方法まで細かく処方されているという。そこまで行かないとしても、いろいろな対策がきめ細かく計画されているそうで、そのほとんどは「common sense(良識)」に沿ったものだというからちょっと安心。要は、効果が期待できて、市民に受け入れられることでなければ、やっても根拠のない安心感を持たせるか、あるいは逆に不安を煽るだけで無意味だからやらないということらしい。

政府関係者の曰く、「対策計画が有用であるためには、柔軟に運用できるものでなけれならない」。どんなに柔軟に運用しても市民生活にある程度の制約が起きるものであれば、きちんと説明しないと、「自己決定」が基本の社会ではあまり効果が上がらない。それで、マスク着用や旅行の是非、人の集まるイベントなどについては、かなり合理的な理由を上げて強制や禁止の処置は取らないとしている。最後に引用文献のページが長々とあるそうだけど、そうやって根拠を挙げていちいち説明するから、550ページという大仰な文書になったんだろうな。騒ぎになってまだ3週間も経っていないのに、我が政府もちゃんとがんばっているじゃないの。(と、安心するところも平均的・・・。)

では、安心したところで、ねじり鉢巻をぎゅっと締めて仕事にかかろう。ジャンボ仕事は15%くらいしか進んでいないのに、つい「ねじ込みます!」と腕をまくってしまうもので、また予定が詰まってきてしまった。あ~あ、こっちの方がよっぽど火急の危急の危機だぁ。

まいっちゃった~

5月13日。今日は12時間も寝てしまったせいで、背中が痛い。外は暗くて、いかにも寒そうな空模様。気温は10度に届かない。5月も半分過ぎようというのに、いったいどうなってるんだろうなあ。

どうなってるんだろうと思ってどうにもわからないのがきのうの極楽とんぼ。州議会の総選挙の投票にでかけた以外はごくふつうの火曜日で、4時になったら英語教室に出かけるカレシのためにちょっと早めの夕食。段取りを始めたところで突然猛烈な咳が出た。ひとつし終わらないうちに次々と後が続くもので、息を付くひまもなくて、とうとう頭の中が一瞬真っ白になった。それで咳は止まったけど、な~んかふらふら。料理をしながらもふらふら。だけど、手はちゃんと動くし、脳もちゃんと機能しているみたいだから、そのうちに落ち着くかと思ったら、胃がむかついてきた。

なんとか夕食はできたけど、食べるのが怖い。それで下へ行ってソファに横になっていたら、今度は猛烈な下痢。どうなってるの、これ。おまけに冷や汗がどんどん出てきて、寒い。始めなければならない仕事があるから、横になっていても気になってしょうがない。めまいが落ち着いたところで、コンピュータの前に座ったけど、むかむかしてきて、パラグラフひとつがやっと。また、横になり、起きてみるとむかむかしてまた横になるの繰り返し。これはまずい。せっかくおもしろそうな仕事なのに、まずいなあ。朝食以来何も食べていないから胃の中はからっぽ。むかっと来るたびにげぇげぇやっても何にも出てこないから、ただ苦しいばかり。まいったなあ。

教室から帰ってきたカレシが熱を測れと体温計を口に突っ込んできた。熱なんかないってば。しばらくして体温計を取りに来て、水銀柱と数字が見えないとひと騒ぎ。大きな天眼鏡を持ち出してきて、ライトにかざしてやっと、「見つけた!36.4度」。え、それじゃあ平温より低いじゃないの。なんでなの?「なんだ、新型インフルエンザじゃなさそうだ」とカレシ。あったりまえでしょ、仕事に埋もれてろくに外にも出られないでいるってのに。「だけど、ダウンタウンへ行ったのは先週だし、こっちから日本にインフルエンザ持って帰ったのがいたしな」と絡んでくるカレシ。あれは東のあっちのオンタリオからだってば。

午後11時を回って、日本標準時は午後3時過ぎ。仕事の納期は日本時間の明日正午。ひと晩寝て、明日の午後に猛然とアタックすればできないことはないけど・・・けど、けど、けど。もしも、できなければ、日本で「できません」と言うメールを見るのは朝の9時。平均的な作業速度でも5時間はかかる仕事なのに、納期まで3時間しかないから、いくら交代が見つかったとしてもとても間に合いそうにない。意を決して交代を探してもらうようメールを送った。しばらくして「なんとかなります」という返事が来たのを見届けて「本日の営業は終了」とサインオフ。気合を入れてやりたかった仕事なんだけどなあ。

それからばったりと寝込むこと12時間。目が覚めたらおなかがグゥッとなる。頭が軽いのか重いのかちょっとわからないけど、まずは台風一過というところか。オフィスに下りて、メールをチェックしたら、ジャンボ仕事の発注元から明日送る予定のサンプルを1日早く送れないかと言ってきた。サンプルは見直しだけになっていたけど、きのう仕事をキャンセルしなかったら、こっちの「緊急事態」にまでは手が回らなくて間に合わなかったところ。これがほんとの塞翁が馬だなあ・・・

ナオミ・ヤマモト州議会議員

5月13日。きのうの州議会総選挙。ホッケーのプレーオフに押されて、なんかぱっとしない選挙戦だったけど、与党自由党の勝利でキャンベル首相はこの州ではまれな3期目。選挙制度改正の是非を問う州民投票は「ノー」が勝利。これはどうも比例代表制を加味した大選挙区制度のようなものらしいけど、推進派の説明だとグリーン党のような万年びりっけつで議席ゼロの政党でも得票の割合によっては議席を獲得するらしい。前回は賛成派が60%にあと少しのところまで迫ったけど、今回は反対派の大勝利。どこでどんな風に風向きが変わったのかなあ。

ニュースで話題になっているのが、ブリティシュコロンビア州の歴史上初めての日系州議会議員。ノースバンクーバーの選挙区で自由党から立候補した日系三世のビジネスウーマン、ナオミ・ヤマモト新議員。ブリティシュコロンビア州は日系人が最初に住んだところであり、また苦難の歴史の始まったところでもある。太平洋戦争中に敵国人として内陸の強制収容所へ送られ、収容中に財産はすべて二束三文で売り払われて、戦後になっても、長い間州やバンクーバーの有力者たちの反対で西海岸へ戻ることを許されなかった日系人は、多くがロッキー山脈を越えてアルバータへ、オンタリオへと散らばって行って、二度と苦難を繰り返さないためにもカナダに同化しようと努力した。

インタビューで「私は何よりもまずカナダ人なのだと父に教えられた」と答えたヤマモト議員に少年時代を強制収容所で過ごしたという父親は感慨深げ。自分の会社を経営し、ノースバンクーバー商工会議所の会頭を始めいろいろな団体の活動にかかわってきたというヤマモト新議員は典型的なカナダのビジネスウーマンに見えた。日本のメディアが聞きつけたら、「日本人」ということでひと騒ぎするかもしれないけど、ナオミ・ヤマモトはカナダのブリティシュコロンビア州でノースバンクーバー・ロンズデール選挙区に住むカナダ人を代表する州議会議員としてカナダの日系人史に新しいページを加えた人。その上、今回の総選挙で議席のほぼ半数を占めた女性のひとりでもある。州の政治のためにがんばれ~。

熱さは喉もと過ぎるまで

5月14日。寒かったきのうとはうって変わって、まあまあの春らしい天気。この週末はビクトリアデイの三連休で、早々と旅行に繰り出した人たちもけっこういたらしいけど、内陸部と沿岸部を結ぶハイウェイは積雪15センチの冬景色。ひと足先にバケーションのつもりが、ひと足先に次の冬先取りかな。

胃の調子まあまあだけど、首が凝って、目と目の間でちょっと頭痛がする。熱っぽい感じなのに、計ってみれば平温以下。ときどき冷や汗が出る。なにかがしっくりしない感じで、こういうのを「体調を崩す」というんだろうな。熱はないし、咳も出ないし、関節痛もないから、風邪ではなさそうだけど。

風邪といえば、産経ニュースにカナダでインフルエンザにかかって帰った高校生の学校や市役所などに「帰ってくるな」、「謝れ」、「他人に迷惑をかけた」と、誹謗や中傷の電話が殺到して、拘束を解かれた生徒たちが帰ってくるのに、いわれのない偏見などを危惧しているという記事があった。「誤解にもとづくもの」というけど、ほんとに新型インフルエンザを「かかったら助からない」伝染病と誤解してのことなのかな。モラハラ人間は危惧や危機が生むストレスに弱いところがあって、そのストレスにさらされると弱いものを敏感に嗅ぎつけて攻撃することで対処しようとするからなあ。

  『感染しなくても カナダに行った事でご近所から白い目でみらる。 感染したら、報道関係に吊るし上げられて日本中から差別をうける。これが怖いですよね。』

これはローカル日本人の掲示板にあったやりとり。彼らは今どきの日本人だから、どういう展開になるかわかっているんだろうな。まあ、小町のトピックでもずいぶんたくさんの単細胞人がいて、外国へ持って帰って来て「周りに迷惑をかけるな」と騒いでいたし、マスコミのイエローぶりを考えたら、そういうイジメがなかったら、そっちの方が奇跡かもしれないな。何の落ち度もないのに、1週間も独房の囚人のような生活を余儀なくされた子供たちが、やっと家族の元へ帰ることができたと思ったら今度は周囲から疎外されたり、イジメられたり。それじゃあ「思いやりのある日本人」のイメージを裏切るもので、日本人にとっては恥ずべきことじゃないかと思うんだけど、まあそのあたりは日本社会の価値観に任せるしかない。

まあ、日本のマスコミもさすがにもう飽きたらしいきらいはある。ふと思いたって「熱しやすく冷めやすい日本人」という日本語のキーワードでググってみたら、108,000件のヒットがあった。ふ~ん、「夏は暑く、冬は寒い家」のように断熱性能が低いのかもしれないなあ。それとも「喉もと過ぎれば熱さ忘れる」という冷め方なのかなあ。

シュールレアリズムの午後

5月15日。カレシは結局10日もああだこうだ言い続けて、今日やっと検査のサンプル採取に出かけることにした。(今夜はシーズン最後のコンサートがあるというのに。)前夜から絶食しての検査があるから、起きてすぐにでかけて、ダウンタウンでブランチをしようということになった。午前11時の気温は13度。天気がいいから長袖のTシャツだけで十分。

ラボの待合室で待つこと20分。病気の検査に来る人たちだから、げっそりした顔の人たちが多い。急に奥の部屋から「水、水!」という声。誰かが失神してしまったらしい。しばらくして出てきたのはカリカリにやせた若い女性。露出したへそのあたりだけがぽっこりと出ている。過激なダイエットをして栄養失調にでもなったのかな。カレシは片腕の静脈が潰れて採血できないと言われたあげくに、血液サンプルを4本も取られたそうな。それでも、これで今日からでかいステーキを食べられるぞ!やっぱり極楽とんぼは雑食の肉食動物だからチキンと魚ばかりじゃさびしいもの。

ブランチはビルの1階にあるイタリアンのカフェ「べラジオ」。観光客にも人気のあるところらしいから、ランチタイムということもあってほぼ満席。お愛想いっぱいのオーナーが壁際のブースに案内してくれた。カレシは早速ビール(朝ごはんなのに)とサンドイッチ。とんぼはアルコールはとりあえずひかえておくことにして、トスカナ風パニーニとコーヒー。「きのうより血色がよくなってるよ。ときどきは外に出て日に当たらなくちゃ」とカレシ。うん、今日は普通の調子に戻った感じ。どうやらとんぼの「急病」は激しく咳き込んだときに第2頚椎の古傷を痛めたのが原因らしい。頚椎を痛めたそもそもの原因が咳だったんだけど、一種のむち打ち症の後遺症のようなものか。(大きな仕事があるから、念のために吐き気止めの薬を買っておいたけど。)

のんびりとブランチを楽しんでいたら、突然警報装置のサイレンが鳴りわたった。だけど・・・あれ、誰も気がついていないような雰囲気。すごい甲高い音なのに、お客はてんでにおしゃべりに夢中だし、サーバーは何もないように料理を運んだり、注文をとったりと、なんだかシュールな光景だ。止めるためのマニュアルを探しているのかなと思うほど、いつまでもしつこく鳴り続けたサイレン。息切れしたのか急にザ~と雑音に変わった。「バッテリが切れたんだろ」とカレシ。

何事もなくすんだと思ったら、消防車のサイレン。「ランチタイムなんだな」とカレシ。店の外にでんと止まった消防車から重装備の消防士たちがばらばらと降りてきた。オーナーが出て行って話をしている。「実は料理を焦がしまして・・・」と説明してるのかなあ。外のパティオのテーブルの人たちを見たら、やっぱり何事もおきていないかのよう。重装備の消防士がうろうろしているのに、お客はランチを楽しむのに忙しそうで、誰もそばで起きている「事件」には見向きもしないから不思議だなあ。やがて雑音になっていたサイレンの音がぴたりと止んだ。引き上げて行く消防車をみながら、カレシが目を輝かして言った。「わかった!胸焼けだよ、胸焼け!」

あはは、胸焼けで消防車出動!それにしても、耳をつんざくサイレンにもすぐ外に止まった消防車にも入ってきた消防士にも目もくれずにひたすらランチの人たちって、すご~くシュールレアル・・・