8月29日。引越し本番からほぼ1週間経って、やっと旧居から外して持って来た水のろ過装置を取り付けて、ついでにフィルターも取り替えてもらって、やっと飲みなれた水にありついた。逆浸透圧でろ過した水に慣れると水道の水はやっぱり何かまずい。ちょうどバーの道具が出て来たので、さっそくろ過した水で氷を作って、待ち遠しかったマティニで乾杯。調理道具もいろいろと出て来たので、夕方にカレシとスーパーへ「今日の夕飯」の買い物。カレシは久しぶりにサラダを作り、ワタシは出来合いだけどリブを焼いて、枝豆を蒸して付け合せ。ほぼ1週間にしてどうやらまともな「おうちご飯」。生活に落ち着きが出て来た感じ。寝室の外の6番ストリートは主要道路なのに夜に成ると静まり返って、住宅地なのに深夜でも騒々しかった旧居とは比べものにならない。ときどき遠くから貨物列車の汽笛が聞こえて来て、子供の頃の霧の夜に布団の中で夢うつつに聞いた汽笛の記憶が蘇って来る。霧に包まれる季節になっても「霧笛」は聞こえないだろうけど、川の見えるところで生まれたワタシ、何か人生が一巡したような感じがしないでもない。
主寝室は北東向きで、ブラインドを通して朝日が差し込むので、午前7時過ぎには目が覚めてしまう。まあ、その後1日あの箱、この箱と開けて回ったり、あれはどこだ、これはどうしたとうろうろ探し回ったり、あれがいる、これがいると徒歩1分の量販店London Drugsへ駆け込んだりで、夜中ごろには2人とも疲れ切って寝てしまうので、考えようによっては「普通」の生活リズムになっているということか。落ち着いたら寝室に遮光カーテンをつけようと思うけど、このまま「普通」の生活を続けてもいいような気もする。何よりも明るい光の中での生活がワタシにはうれしい。空を見たいと駄々をこねたのは、長年ベースメントの自然光が入らないオフィスでモグラ暮らしをして来て、知らない間に閉塞感が募っていたせいかもしれない。明るい日差しの中にいると自然に元気が出るような気がするのは、人間も植物のようにエネルギーを光合成するのかもしれない。
カレシは早々と英語教室を再開。「通勤時間」が15分ほど長くなるので、早めにランチをして、行ってらっしゃい。休業中のワタシは家事をするにも洗濯機から乾燥機、ガスレンジからオーブン、電子レンジと、使い方を覚えるものが多い。不動産売買では大型家電は家の付属物とみなされるので、マンションにも少なくとも冷蔵庫、レンジとオーブン、食洗機、洗濯機と乾燥機が発売当時からがついていて、売るときも一緒に売る。新居について来たのはサムスンの大型冷蔵庫(使い勝手が悪い)、ドラム式洗濯機と乾燥機(上に重ねた乾燥機は高すぎて踏み台が必要)、ボッシュのレンジとオーブン、食洗機、換気扇併用の電子レンジ。レンジとオーブンは40年使っていないガスなので初めはビビッたけど、実家でプロパンガスを使っていたのを思い出して「学び直し」。
掃除はルンバを走らせて、ワタシは床のモップかけ。いたるところで場所を取っていた段ボール箱がぐんと減ってスペースが開けて来ると、ワンフロアで階段がないとは言え、137平米が全部フローリングだから掃除はけっこうタイヘンと言う感じで、売主の80代の奥さんが音を上げたと言うのもわかる。ワタシはもう20年も自分の住処の掃除をやっていないから、キッチンや浴室、トイレの掃除をしようにも洗剤も清掃用具もなくて、店でもどれを買っていいのか途方にくれる始末。ハンドクリーナーとトイレブラシだけは買って来たけど、困ったもんだ。やっぱり月に一度はシーラに援軍に来てもらって、掃除の仕方をコーチしてもらわなくちゃ。
午後4時を過ぎると、カレシと連れ立ってその日の夕食の食材を買いに徒歩3分のSave-On-Foodsに行く。ときには別方向の徒歩1分の同系列のBuy-Low Foodsに行くこともある。引っ越して不便になったのは酒屋。ニューウェストの購買層はビール党が中心らしくて、ワタシの愛しのレミもハウスワインにしているニュージーランドのソヴィニョンブランもない。でも車で10分ほどの隣町のMarket Crossingというショッピングセンターに行けばまあまあの品揃えの酒屋があって、週に2日は午後11時まで営業しているし、もっと大きなSave-Onもあってニューウェストではほとんど見かけないアジア食品も手に入る。バーナビー市はバンクーバーのすぐ隣だから中国系が多いんだろうな。夕食のメニューが決まったら、カレシがサラダを作り、マティニを作って、ワタシはメインの料理。キッチンのスペースの住み分けは微調整が必要だけど、遠くの風景を眺めながら並んで食事の支度をするひと時はすごく新鮮な感じがする。カレシは荷解きや後片付けにも積極的に参加してくれて、これほど2人一緒にがんばったことってあったかなあと思うほど。でも、みんな納まるところに納まったらどうなるんだろうな。それでも窓の外一面の大きな空を眺めていると、私たちの「新しい出発」が現実になったという気がして、やっぱり胸がわくわくする。
8月17日は旧居の明け渡しの日。その前の金曜日に再度Got-Junkを呼んで、隅々まで徹底した清掃。隣のパットが貰い手のあるもの、寄付できるものを運び出してくれていたので、残っているのはほんとに「廃棄物」ばかり。二階にあった電子ピアノはパットと息子で介護ホームに運んで寄付したそうで、長いこと沈黙していたワタシのピアノも誰かに弾いてもらえると思うとうれしいね。最初の1台が満杯になって、午後4時過ぎに2台目のトラックが来た。大きな家具から小さなゴミに至るまで総量がトラック1.5台分でしめて10万円。3時間ほどで家の中はがら~んと空っぽになって、どこにいても声が反響するので、これが27年住み慣れた家だという現実味がまったくない。午後6時前、33年住み慣れた土地を後にしたけど、年が明ける頃には解体される運命にある家は、手をかけて育ててやれなかった子を見送るようなものなのに、喜怒哀楽の思い出がぎっしり詰まっているはずなのに、もう二度と見ることはないのに、少しは感傷的になるかと思ったのに、普通に玄関に鍵をかけて出て来たのは、ワタシの中ではもう過去だからかな。
翌土曜日は特注家具の検収。カスタム設計のバーキャビネットを見たカレシは「おお」と感動した様子。キッチンのカウンターの下に入れる浅いキャビネットも、オフィスに入る3本のデスクもいい出来上がり。残金を払って、後は火曜日の搬入を待つばかりで、エレベーターの予約も確認済み。2人のライフスタイルと部屋の間取りに合わせてカスタムサイズ/カスタム設計で新調した家具はしめて400万円。予算を大幅にオーバーしたけど、40年遅れの「嫁入り道具」だと思えばいいかな。
明け渡し前日の日曜日には不動産エージェントのポールがみごとな胡蝶蘭の鉢を抱えてやって来た。旧居の鍵を引き取るのが目的で、明日17日の正午にポールが買主とそのエージェントに旧居で会って鍵を渡せば家の明け渡しが正式に完了。キーチェーンにつけておいた玄関と裏口の鍵の他に、集めておいた予備の鍵数本、ガレージドアのリモコン、防犯装置のコントロールボックスの鍵とリモコンをビニール袋に入れて、はいどうぞ。あっけない感じもするけど、もう新しい暮らしが始まっているんだもの。ワタシの前には「新しい出発」がある。川の流れと同じように人生は前にしか進まないもの。
8月18日。特注家具の搬入が終わって、私たちの引っ越し大作戦にピリオド。一番大きいバーのキャビネットは環境を変えたいと言うワタシのたっての願いを抵抗しながらも叶えてくれたカレシへのプレゼントのつもり。下はお酒を入れる戸棚とワインラックで、上はビターやグラスなどを置く浅い棚の組み合わせで、高さは2メートルちょっと。隣接するカウンターの下にはワタシの小皿コレクションを入れる浅い戸棚をはめ込んで、収納場所を確保・・・。
[写真] [写真] フリーザーや食品庫を置いて、カレシの室内園芸設備も入れたデンをキッチンの延長として物理的ダイニングエリアから隔離するために、バーをリビングとキッチンカウンターの間に斜めにはめ込むことを思いついたわけだけど、結果として視覚的にもリビングとダイニングがひとつのエリアとしてまとまった生活空間になったような感じがする。Bekinsと入れ替わりにマイクが持って来てくれた本棚はリビングの奥に置いて、そのうちに買うことになっているテレビの置き場所。ソファに座ると窓の外に見える建物はほぼ屋根だけになっていい。
[写真] 最後の目玉は何と言ってもオフィスのデスク。移動できるコンピュータデスクを持って来たカレシには袖に引き出しのついた長いデスクひとつ、ワタシは短いコンピュータデスクと2人のスペースを分け隔てる長いデスクの2つで、これまでとだいたい同じL字型の作業スペースをくっつけて全体にT字型にしたレイアウト。変わったのは2人の距離が近くなったということだけ・・・。
[写真] けっこう汗をかいた後は、いつもハッピーアワーのカレシバーが開店。自分専用のカスタムオーダーの「バー」の主になったカレシはえらくご満足のようで、いそいそとマティニを作る準備。横のカウンターの端に製氷機があれば申し分なしと言うことで、落ち着いたら小型の家庭用製氷機を1台買うことにした。それにしても、どんだけのんべえな2人なんだろうと思われてしまうかもしれないね。
新居での生活も3週間が過ぎ、家具も全部揃って、段ボール箱の「長城」もほぼ姿を消して、やっと日常のパターンが固まって来た感じがする。同時にたまっていた疲れが出てくるのか、あるいは『ウサギとカメ』のウサギみたいなもんで、ここまで来たらもう大丈夫という気になるのか、ついついだらぁ~んとしてしまいがち。でも、またぞろ中途半端なまま年月が経ってしまいかねないから、ここでちょっと気を引き締めておかないと・・・。
[写真] 晴れた日には遠くに万年雪を戴くベーカー山(標高3286m)が・・・。